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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第4章 『異端児たちの束の間の安寧』
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56.魔法を奪われた魔獣

 ログスター兄弟がキマイラの正面を塞ぎ、入れ代わり立ち代わり苛烈な攻撃を加えている。

 兄弟が手にしているのは、通常両手で扱うサイズの大剣。これを解放による身体能力の向上に任せ、片手で軽々と振り回している。

 実に豪快な戦いぶりだ。


 だが、いささか威力が足りない。

 相手は高速で再生する文字通りの化け物だ。


 両手で片手半剣を振るうキースよりも、いくらか与える傷は大きく深い。

 けれど戦斧で骨まで容易く砕くフーリと比べると、3歩も4歩も劣っている。

 解放を用いない、平素の戦い方そのままなのだろう。

 ダルハが両手持ちの大剣、フルメイが斧槍だったことを考えると、世代間の差も感じるな。


 もっともそのフーリですら、この化け物相手では動きを一時的に止める程度のことしかできない。

 気を引いているだけでも、十分に役割をこなしていると言えるのかもしれない。


 ちなみに俺はと言えば聞くも涙、語るも涙の有様だ。

 魔法の的にならないよう、蛇頭の攻撃を避けつつ距離を詰めるので精一杯。

 解放ズルいわ。才能の差ってやつを感じるね。

 神の奇跡なんぞ今更欲しいとも思わねえが。


 ひいこら言って必死で蛇頭にちょっかいを出していると、傍らに返り血に濡れたフーリが降り立った。


「のろま。手を抜き過ぎ」


 言うほど抜いてないんですけどねえ。

 お前さんの基準で語らないでほしいわ。


 そのまま俺を小脇に抱えるようにして、フーリは尻尾の薙ぎ払いをかわす。

 行き掛けの駄賃とばかりに戦斧が閃く。


 体の捻りを加えた斬撃は、片腕で振るわれているにもかかわらず、硬い鱗を破り肉を引き裂き深々と創傷を刻みつけた。


 こいつ。あの兄弟より明らかに動きが上だな。

 言ってはやらんけどね。キースには教えといてやるが。


「なんとか尻尾は引きつけてたでしょ。そっちは、上手くやってくれたみたいだね」


 フーリはこちらの作戦通り、キマイラの動きの合間を縫って、その副頭に縄をかけることに成功していた。


 俺が初動でフーリに求めた役割は、キマイラの動きを止めることではなかった。

 それくらい、他の誰かで補える。


 ただログスター兄弟が引っ込んだのには焦った。

 その後、兄弟が思ったより奮戦してくれているおかげで、キマイラの意識はフーリに集中せずに済んだから、良しとはするが。


 なんにせよ、作戦の第一段階は終了だ。

 これで魔法は封じたに等しい。


 別に縄に特別な細工がしてあるわけではない。縄でキマイラをどうこうするわけでもない。

 こいつはただの命綱だ。


「無様だね。お似合いだ」


 相変わらず、フーリは俺を貶すことに余念がない。


「別に構わないさ。宙に放り出されて火達磨になるよりマシだよ」


 身動き取れない空中で魔法に狙われたらひとたまりもない。

 縄を掴んでいれば、振り落されたとしても避けようはある。

 こっちを焼切られると問題だが。


「キースには第二段階に移るって伝えて。予定通り蛇の頭を任せるって。再生を消せたら、ログスター兄弟は獅子の首を狙いに動くと思うけど、フーリは副頭狙いで頼むよ」


 垂れ下がる縄の近くで放り捨てられる。


「しつこいよ。何度も繰り返さなくても、言われた通り動く」


 嫌悪感も露わに、フーリはキースの居る後方へと去っていく。


 そいつはすまんね。心配性なもんで。

 フィオやエムリであっても確認はするんだが、それ言っても納得しないのだろうな。


 さて、役目を果たすとしますか。


 斧は邪魔になりそうなのでその辺に放る。

 踏まれるかもしれんが、その時はその時だ。


 縄を腕に巻きつけ、巨体の動きに振り回されながらも、背中に生えた副頭の首元まで登る。

 鳴唱がなんとも喧しい。

 首に巻かれた縄を頼りに、這うようにして顎の下へと移動する。


 山羊の頭を取り巻く形で絶え間なく生成され続けていた火球が、一斉に消失した。

 副頭の口端に消魔結界が届いたのだ。


 キマイラが狼狽したように身動ぎする。

 不味い。そう思った時には、灼熱が俺を襲っていた。


 熱ッ!


 (けだもの)頭の畜生めふざけんじゃねえ。死ぬかと思ったじゃねえか。


 収束させられていた熱量が、結界によって魔法が消失したことで、一気に解放されたのだ。

 辺りは高温の空気が滞留している。

 そこにキマイラが動いたせいで、張り付いている俺まで突っ込むハメになった。


 即死するほどの熱が固まっていた訳ではなかったのが幸いか。

 それでも大火傷だ。

 目を瞑って息を止めていなければ、命の危険すらあった。

 縄に火が着かなかったのも本当に良かった。


 余熱から逃れるようにキマイラが身を伏せる。

 そして間髪を置かず、引き絞られた弓から矢が放たれるような勢いで、ログスター兄弟に向けて突っ込んだ。


 弾き飛ばされたのはロッゾかロイか。

 死にはすまい。解放で強化された身体だ。魔法の追撃もない。


 むしろ、身を案じるべきは俺自身かもしれない。


 キマイラは3歩と進まず派手に体勢を崩した。

 燃え残った石壁をなぎ倒し、肩を地面に擦るように転倒する。


 縄が千切れるのではないかという衝撃。

 たてがみの毛を拳に絡め、全身全霊でしがみ付く。


 激しい揺れに耐え切ったことに安堵するのもつかの間。

 突進を逃れたログスター兄弟の片割れが後方から攻め立てるのを、蛇の尾で牽制しながら、キマイラはゆっくりと立ち上がる。

 そして漆黒の魔人に向き直り、反撃に出た。


 だがその動きは、どこか精彩を欠いている。


 包囲を突破する際に傷でも負ったか。

 それが未だ尾を引いているとなると、再生も無効化できたということだろう。


 ログスターもそれに気づいたのか、攻撃の手を強めた。

 キマイラは防戦一方に追い込まれる。

 尻尾がログスターの牽制に出てこないところを見ると、背後へと回り込んだキースは上手くやっているらしい。


 キマイラの意識は、前方のログスターと後方のキースに集中していた。

 漆黒の颶風はまさにこの時、突如として横合いから襲いかかった。


 螺旋を描く銀閃が、吸い込まれるように山羊の喉笛へと喰らいつく。

 そして次の瞬間、斧頭は紅の尾を引き首の反対側から飛び出した。


 鳴唱が途切れる。

 代わりに耳に届くのは、空気の洩れる異音。裂けた首の断面から、血の(あぶく)と共に溢れている。


 傷口に妙な変化はない。

 それだけを確認し、痛みに暴れ狂うキマイラの背から飛び降りると、空中でフーリに回収された。


 こういうところは気が利くのだがな。


 そのままキースのところまで運ばれる。

 キースは既にキマイラから距離を取っていて、完全に傍観の姿勢に入っていた。


「消魔結界から出ても再生は見られないな。『鳴唱が止まれば作戦終了』か。お前の言った通りになった」


「尻尾は潰さなかったんだ」


「フーリの潜む側の眼だけ潰した。オレたちの手柄にしちまうと、後が面倒だろ」


「それでもどうせ叩かれるんだけどね」


 思わず溜め息が零れる。

 やれやれだなとキースも肩を竦めた。


「戻るか。他の連中に変な命令出されてたらたまらねえし」


「そういうのもあるのか」


 げんなりする。

 キマイラとの戦い以上の疲れに見舞われながら、魔法を使えなくなったキマイラを放り出し、俺たちは本来の持ち場に戻った。


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