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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第4章 『異端児たちの束の間の安寧』
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54.舞台に上がらんと画策する者たち

 キマイラを狩るつもりかという、諦め半分の俺の問いに、キースは迷いなく肯定を示した。

 キースの視線が燃え盛る貧民街から逸れる。そして壁の上に覗くダーハント山、その斜面に築かれた堅固な街並みに向く。

 区画を遮る市壁上の至る所に篝火が焚かれているのが、ここからだとよく見える。


 やはりラーデ・ロムニスの動向が気にかかるらしい。

 壁の向こうが動く前に始末する。

 考えを言葉にするキースの視線は、険しさを増すばかり。


 見解は俺と同じ。

 だが、安易に同意を示す気はない。

 残りの解放持ちが合流すれば、力押しで倒すこともできるのではないかと意見を述べれば、破壊された大門の対処に人員が割かれているはずとの応え。

 そこの改善を促すにしても、戦闘への介入は不可避という訳だ。


 そもそもの戦力配分に甚だ疑問が残るが、上の連中の状況を考えれば言っても詮の無いこと。

 黒の家に意見を言える立場にもない。

 ヘズコウが動かずにいるのだから、そちら経由での具申も無駄だろう。


 あのおっさんに、黒の家の窮状を打開しようなんて気はないようだからな。

 中央が動いたところで、逃げ延びる算段があるのだろう。


 俺たちが独自に取れる動きは、班単位のものが限度。

 そんな条件の中で現状を打開するとなれば、やはりアレを倒すしかなかろう。


 幸い俺たちにはフーリという切り札がある。


 最終的にはフーリ頼みになるが、俺がキースにとって有益であると意識させるには、かつてない機会かもしれない。

 未だに面と向かって死ねと言ってくるからな、あいつは。冗談ではなく。


 魔法を封じる策もある。


 損得を改めて計算し、逃亡と量りにかける。

 まあここまで手間をかけたのだ、捨てずに済むのならその方が良いか。


 キマイラの討伐に付き合う旨を伝え、思考を切り替える。

 そのために必要な諸々を勘定し、デラにはフーリと交代するため、戻ってもらうことを提案した。


「ひとっ走りするのはいいよ。でも、あたしが戻らなくていいってのは、どういう了見だい。戦力としてなら、あんたよりかはいくらか足しになると思うんだけどね」


 あれま。機嫌を損ねてしまったかな。

 そういう意味で言ったのではないんだがね。

 キースが助け舟を出そうとするのを、任せてくれと視線で断る。


「今回は相手がアレだから。解放使ったフーリ以外は、それこそキースだって、戦力として見れないよ」


「なんだいそれは。あたしには、フーリだけに戦わせようって話に聞こえるんだけど」


「そうだよ。僕らはただの、餌かな」


「そいつは……あたし向きじゃあないね。でもそうならなおのこと、フィオ辺りを連れて来た方がいいと思うんだけど?」


「時間があればね。僕の策で動くから、不測の事態の備えには、僕が出ないと」


「いつも後ろに引っ込んでるくせに、大一番で前に出ようとするとか、あんた馬鹿かい?」


 溜息を吐きながら言われてしまった。


 これもしかして、身を案じてくれてるんかね?

 そうだとしたらなんとも身に余る光栄で。

 しかしそういったことで言動を改めないのが、俺の今の信条なのよ。


「それだけ、危ない橋を渡る気はないんだ。キースにも、渡らせる気はないから」


「あんたの言葉は、どこまで本当かわからないな。まあいいよ。フーリと交代すればいいんだろ」


「フーリには、特3級2式で来るように伝えて。あと長い縄があったはずだから、それも」


「……特3級2式ってなんだい?」


 懐疑の瞳で睨まれた。

 そこは是非とも流して欲しかったよ。


 対魔獣戦闘用装備の種別なのだが、デラが知らなくて俺が知っている理由を説明すると長くなる。

 というかこれ、俺とキースとフーリ用の装備しか定めていない。なのでその辺り突っ込まれると、非常に面倒。


「そいつは時間がある時にオレから話す。あいつには屋敷に取りに戻ってもらうことになるから、今は急ぎで頼む」


 キースの有無を言わさぬ様子に、デラは追及を諦めたようだ。


「ふたりがそんなに隠し事好きとは思わなかったよ。後で話は聞かせてもらうからね」


 それだけ言い残し、崩れかけの鐘楼から飛び降りると街の闇に消えていった。




 熱気に炙られた温い風が頬を撫でていく。

 中心部は真夏もかくやという暑さに違いない。

 燃えて困るものはここに残して行く方が良いだろうな。


「危ない橋を渡らない、ねえ。本気で言った訳じゃないんだろ」


 装備の整理をしていると、同じように防具を外していたキースが問うた。


「そりゃあね。面倒は嫌いなんだよ」


「どう戦うつもりだ?」


「キースならどうする?」


「俺が魔法を引きつけて、お前が尻尾。フーリに副頭をやらせる」


 無難だな。それ以上でも以下でもない。

 魔法に対する研究が足りていないとも思う。

 鳴唱(めいしょう)が魔法の発動に関わっていると読めなくとも、打てる手は幾らかあるのだ。


「魔法について評価を」


「炎熱系で対処法は回避のみ。弾速は並。精度は大したことないな。強化して避けることに専念すりゃ、まず直撃はない」


「言い切るね」


「アレは魔法を使うだけの獣だ。そいつがアレの何より恐ろしい武器なんだが、やっぱり獣は獣だ。人間みたいな狡猾さがない。動きは速いが感覚頼みで単調。魔法の使い方にしてもそうだ。精々が数に任せて面制圧を狙う程度だろ」


「アレをただの獣とか、言える人は少ないと思うよ」


「倒す方はお前の策頼みだから、大言壮語もいいとこだけどな」


 まあな。否定はできんよ。

 肝心なのはそこだ。


 しかしそうか。昔の俺らみたいなものか。


 キースは俺とは違う視点でキマイラを見て、戦い方を検討していたようだ。

 俺はすっかり魔法の方に気が取られていた。

 言われて見てみればなるほど、巨大で魔法も使うがただの魔物だ。


 これならば、思ったより簡単にケリが付くかもしれない。



 ◇◇◇



 作戦の詳細を詰めていると、長持を背負ったフーリが到着した。


「見咎められてない?」


 フィオやエムリにそうするように問いかければ、返ってくるのは険悪な視線。


「は? デラに出来るんだよ。あたしに出来ないワケ、ないから」


 デラはそこまで大荷物じゃなかっただろ。


「キース。ヤトイがあたしのこと、ばかにする。フィオよりもこういうの得意だって、知ってる癖に。きっとやっかんでるんだ」


「でもお前、エムリにはまるで勝てないんだろ」


「ばかキース。なんで言うかな」


「ふたりともさ。フィオの前ではそれ、言わないであげてよ。エムリとの差に悩んでたのに、フーリにまで追い抜かれて、だいぶ可哀想なことになってるから」


「向いてないよ」


 お前が色々と規格外に過ぎるんだよ。


「フーリ。僕の扱いは今のままでいいよ。けど、あの子らを僕とひとくくりにして扱うのは、止めてあげて欲しい」


「本当のこと言ってるだけ。なにが悪いの」


 お前、分かってて言ってるだろ。

 他の連中とは、もう少しマシな付き合いできてるじゃねえか。


 ああもう。こんな話してる場合じゃねえんだろうけど。


「君さ。言いたくはないけど、キースにも同じこと言うの?」


「言うわけない。あたし、キースより弱いし」


 だとよ。

 どう思うね、キース君。


「あのなあ、フーリ。勘違いしてるようだが、オレはお前と比べりゃずっと弱いぞ。確かに剣の腕ではオレのが上だ。けどな、剣の腕だけじゃ戦いには勝てねえんだ。今だって、オレたちじゃ力不足で勤まらない役を、お前に任せようとしてる」


「えっ……そう、なの? ご、ごめん。キースをばかにしたワケじゃ、ないの」


 顔を青くして必死に詫びている。

 やっぱり分かってるじゃねえか。


「フィオには悪意で言ってたんだ」


「黙れ無印(むいん)


「混ぜっ返すなよ。せっかくオレが話を先に進めようとしてんのに」


「悪い。でも流していい話なら、初めからこんな時にしてないから」


 フーリと面と向かって話をする機会なんて殆どないのだ。

 まして、フーリにとって都合の悪い話である。これまでそうした話をして、まともに会話が続いた(ためし)がない。

 こんな時だからこそ、話ができている。


「時間もないから、まどろっこしいことは抜きにするよ。先のことを考えるなら、フーリには嫌でもなんでも、あの2人とは上手くやってもらわないと困る」


 フーリは既に、街から逃げ出すという俺たちの計画を知っている。

 ならばいい加減に、心構えを改めてもらいたい。

 外に出た後のことを念頭に置いて今の行動を決めてくれなけれは、先に伝えた意味がないというもの。


「あちらにも歩み寄るよう言い含めてはあるけど、フィオは子供なところがあるからね。自分だけというのは納得がいかないみたいだ。胸の内でなにを思おうとフーリの勝手だよ。けど、それを表には出さないようにしてくれないかな」


 フーリの返答はない。

 まあ期待はしていないさ。


「満足したか」


「嫌な言い方するね」


「大事を前にこいつを悩ませてどうすんだよ」


「悩まないと思うけど。僕の言うことなんかで」


 それもあって、わざわざキースも居るこの場で話をしたのだ。


「だから、後で同じこと言ってきちんと考えさせてよ」


 フーリが、余計なこと言ってんじゃねえこの糞無印死にさらせ、と俺を睨んでいる。

 怖いわあ。


「本当に、なんで今話したんだよ。おいフーリ。奴さんを討つ段取りを説明するからよく聞けよ」


「うん」


 今しがた俺に向けていた感情が嘘だったかのように、ころりと表情を変え、物分かりよさそうに頷く。


 くっそ腹立つなこのガキ。


 いやいや、嘘です。腹は立ちません。立ちませんよ。立ちませんとも。

 こんなことで感情を掻き乱されてどうするのか。


 ひとつ息を吐いて気持ちと言うか思考を正す。

 キースの語る大雑把な作戦方針に、俺が要所要所で注釈を加え、フーリに役割を理解させていく。

 そして手早く装備を整えると、俺たちは大火の渦中へと飛び込んでいったのだった。


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