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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第4章 『異端児たちの束の間の安寧』
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50.魔獣の確認と討伐への動き

 魔獣侵入が青錆街の名で布告され、各班の代表、副代表が集められた。

 青錆街の管理する階段近傍の広場には篝火が灯され、天上の赤よりもなお赤く、陰鬱な緊張に暮れた人々の面を浮かび上がらせている。


 広場に面した建物の壁面には、4号未満の細い水路を省いた、地下の広域地図が貼られている。

 手前に作られた壇上では、黒月街と青錆街の重鎮たちが膝を突き合わせ、険しい表情で、おそらくは情報の整理を行っている。


 凡その集結が成ったところで、偵察隊の持ち帰った情報の共有と、それに基づく作戦会議が始まった。

 と言っても、青錆街主導ということもあり、末端の俺たちはただ流れを聞くだけ。発言が許されているのは、黒の家の幹部連中のみである。


 魔獣の情報に先立ち、偵察隊の損耗が公開された。

 あまりないことだ。不必要に不安を煽ることは益とはならないからだ。

 それだけに、警告を意図してのものであるのは明白だ。


 偵察隊は1班が未帰還、2班が半壊という惨憺たる有様だった。

 魔獣相手に偵察を行う以上、損害はつきものである。

 だがそれを考慮した上でも、あまりに大き過ぎる損失であった。


 偵察隊に選ばれるのは成人しているベテラン、しかも腕の立つ戦士ばかりだ。

 それを実際の人数にして10人前後失うというのは、尋常ならざる事態。黒の家にとっても相当な痛手であろう。


 大きな犠牲を払って、地下に侵入した魔獣がキマイラであることが確認された。

 その中でも、とりわけ魔法を扱うことに長けた、キマイラ2型と称される一群である公算が高いとされる。


 キマイラは巨大な獅子を思わせる魔獣だ。

 多くの場合、尻からは蛇の頭を思わせる長大な尾部を持つ。

 蛇の頭には、数は不定ながら眼を備えていることが殆どだ。これが巨体の死角を補っているため、この魔獣の不意を衝くのは難しい。


 2型はこれに加え、背中に副頭と呼ばれる第2の頭を有する。

 その形状は様々らしいが、今回の個体は、記録にも多い山羊に酷似した副頭だ。


 危険度は上の下から中の上、肉体的な強さは中の上とされる。


 発見された個体もかなりの巨体のようだった。

 像ほどの大きさの獅子と言えば、想像もしやすいだろうか。

 入ってきて3号までだろう。その3号でも、動きはかなり制限されるに違いない。


 現在は1号水路を、寄って来る魔物を喰らいながらゆっくりと上流へと移動中。

 1号をそのまま遡られて閘門部を破壊されでもしたら、都市機能に問題が生じる、どころではなかろうな。

 急ぎ討伐が必要であった。


 この3年ほどで街に現れた魔獣の中でも、群を抜いて危険度の高い相手。

 よりによってこの時期にと思わずにはいられない。


 候補とされる作戦は2案。

 そのまま1号で足止めをしつつ討伐を試みるか。

 適当な3号に引き込んで動きを制限し討伐を行うか。


 1号で戦う場合、相手は水場とは言え、十分に身動きが取れる状態でこちらを迎え撃てる。

 加えて、深い水路にこちらの行動が制限される。

 近接戦闘を行う上で支障が生じるのは、想像に難くない。


 対して3号に引き込んだ場合、キマイラは方向転換にも苦労することになる。

 更には、キマイラの立ち入ることのできない細い水路を駆使して、奇襲を試みることができる。

 蛇の頭がどれだけ死角を減らそうと、張り巡らされた水路の先すべてを見通すことはできない。

 距離を詰めるのは、1号案と比べ格段に容易になるはずだった。


 圧倒的に有利と思われる3号案を推す、青錆街側の掃除屋たち。

 対する黒の家の幹部の表情は渋い。


 ここしばらくの常ながら、この会議、青錆街の面々が音頭を取っているものの、彼らに魔獣討伐の矢面に立つ気はない。

 その上、作戦内容についても自分たちの提示した案を通したがるのだ。

 しかし今回ばかりは黒の家も、青錆街の反発を承知の上で、強固に反対の姿勢を貫いた。

 キマイラの魔法を警戒してのことだ。


 魔法を恐れて黒の民の名が泣くと、青錆街の者たちが嘆くようにして口々に煽る。

 ダルハなんかは頬を引き攣らせ、血走った眼でそんな青錆街の連中を睨みつけている。


 黒の家の反応は淡々としたものだ。

 半壊した偵察隊に参加していた人物を呼び出し、キマイラの魔法の脅威を証言させる。

 魔法を無効化した上で、黒の民が何人も焼け死んでいる。隘路での戦闘は困難を極める。そんな内容だ。


 青錆街の人間は納得がいかない様子だ。

 黒の家の人間でも、戦争に参加したことがないだろう若者を中心に、不可解そうな顔が並んでいる。


 魔法を無効化したにもかかわらず、なぜ焼け死ぬのか。

 俺にはこの理由が分かる。

 曖昧になってきた子供の記録にもあるが、魔法によって生み出された炎という現象を消滅させたところで、それにより発生した熱量まで消滅させることは出来ないからだ。


 故に戦場にあって、黒の民を魔法によって殺すことは出来る。

 ただそのためには、手練れの魔法使いたちが、本来敵大集団を蹴散らすために使う戦術級の魔法を、黒の民の小集団に向けて使う必要がある。

 逆を言えば、そうでもしなければ魔法によって黒の民を止めることは出来ない。

 だからこそ、黒の民は戦場で猛威を振るったのだ。


 もっとも、人間の使う戦術級にやや劣る程度の魔法を、高位の魔法種は個人で使ってきたりする。

 黒の民はそういう相手への切り札として使われることも多い。

 歯に衣着せぬ言い方をするならば、相打ち上等の鉄砲玉だな。


 兎にも角にも出没したキマイラは、高位の魔法種と同等、あるいはそれを軽く凌駕する魔法を、いとも容易く使ってみせる相手というわけだ。

 閉所で炎熱系の戦術魔法を使う相手とやりあうのは、分が悪すぎるだろう。


 水があるから大丈夫というのは、無知の極みである。

 余熱で焼け死ぬ、それも即死級の熱量である。魔法が水に落ちでもしたら、水蒸気爆発を引き起こしかねない。

 仮にそうした現象が発生せずとも、狭い水路が高温の水蒸気で満たされるだけで、人間なんて簡単に死ぬ。

 あるいはすでに、そうして焼け死んだ者も居るのかもしれない。


 そういう意味では、1号においてでですらこいつを相手にはしたくない。

 解放持ち以外は即お帰り願うべき、正真正銘の怪物である。


 黒の家の根強い反対によって、魔獣の討伐は1号水路で行われることに決まる。

 そして黒の家から、討伐に向かう人員が告げられた。

 魔獣討伐は大人たちの役割だ。それは黒の家の鉄則。

 今回も例外はなかった。


 安堵せざるを得ない。

 これまでの魔獣の討伐とは次元が違う。

 いくら慎重に行動したところで、想定外の死がしつこく付きまとう。


 今宵の地下水路は、紛うことなき死地と化していた。


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