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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第3章 『信じる者、信じられぬ者』
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47.飛んで火に入る冬の虫

 冬の厳しさも峠を越え、先日降った雨からこちら、心なしか穏やかな陽気が目立つようになった。

 そんな天上の機嫌とは逆に、黒の家では小さな波乱が連日のように起きている。


 中心は俺の居る班だ。

 キースと悪だくみをしたあの日から、他の班との衝突の頻度が目に見えて増えてきていた。

 これまでもよくあった嫌がらせではない。喧嘩だ。

 特に、ログスター兄弟の班との諍いが絶えない。


 キースは連日のように試合という名の喧嘩をしている。

 成人した奴らまで加わるようになり、怪我をすることが増えた。


 騒動の中心とも言えるフィオと、ついででエムリも怪我が多い。

 稽古の甲斐あってか、2人ともかなり肝が据わっている。おかげでフィオは、キース並に格上相手の喧嘩に突っ込んでいく。

 エムリはそれに巻き込まれる形だが、ただ巻き込まれるだけでなく、騒ぎを大きくするような巻き込まれ方をする辺り、キースになにか吹き込まれているに違いない。


 これまで俺とフーリに集中していた敵意が、班全体に広がりつつある。

 班の子供たちの俺への反応も悪くなってきているが、フーリも対象となっているからか、キースやフィオ、エムリが叩かれているからか、内よりも外に向かう反発の方が強い。


 ただ残念なことに、決定打に欠けていた。

 家を出る目途はまだ立っていない。


 元々十分な敵意を向けられている俺は、騒動を大きくする動きに加担していない。

 下手に動いて、黒の家上層部の敵意まで煽ってしまうと、取り返しのつかないことになりかねないからだ。


 なので部屋に引きこもって、手に入れた地図の写しと睨めっこをし、逃亡の下準備に勤しむ毎日を送っている。

 脱出ルートの選定には、なんとも頭が悩まされるのだ、これが。


 戦時下の地図や歴史書から、都市を抜けてから北へ向かうことは確定している。

 南はほぼ青の教派の勢力圏となっているらしく、良い戦場が望めないのだ。

 西も同様である。東はずっと進んだ先が未解放地帯とあったが、記録が古く距離は不明瞭。

 北が最も戦場が多く、また近いと考えられる。


 黒の民はまともに街には入れない。街道で馬車や人に近づくこともできない。

 と言うのも、消魔結界が魔術によって稼働している都市機能や、文明の利器たる魔導器を破壊してしまうからだ。

 情報収集の機会は絶望的。食料の調達も苦しい。

 ともなれば、距離は命に関わるほどの重大な要素だった。


 しかしながら最短距離で北に向かうことは出来ない。

 北に広がる山岳地帯は、かなり古くから魔境として記されており、到底人の踏み入れられる場所ではないからだ。


 したがって東西の2本の碑塔街道のいずれかを通り、そこから北に抜けるのが妥当と言える。

 ただ、前に見た廃棄資料を信じるならば、西の街道は魔境の拡大に伴い放棄されている。

 ならば東かと言うと、安易に頷くことは出来ない。

 唯一の街道ということは、人がそこに集中するからだ。逆に放棄された街道であれば、人に対する警戒は最小限で済む。


 どちらも一長一短であった。


 最近では水路の実地調査を行い、その状態から出口を検討し、東西のルートを決めるべきかとも考え始めている。

 いつ頃それができるようになるかは分からないが、調査の計画はいくつか立てておいた方がいいかもしれない。


 世間話から都市の外の情報を得ようかとも思ったのだが、時期が悪かった。

 ヘズコウに仕事の手伝いがないか確認を取ってみたら、その前にごたごたを片付けろと拒否されたのだ。

 さもありなん。こんな状態で俺を傍に置いていては、下手な勘繰りをされても仕方がない。


 書庫で調べるものはもう殆どない。

 青錆街での情報収集の後、裏付けと分析にまだ使う予定はあるが、やれることがしばらくなくなりそうである。

 情報収集はキースが積極的にそちらに関われないので、進捗状況はイマイチだった。


 仕方がないので、余った時間は魔力操作の実験や、フィオやエムリの教育に使っている。

 フィオやエムリをこちらで教育するに当たり、班の子供たちの鍛錬を分担しようとキースとは話をしたのだが、誰も俺から教えられることを望まなかった。

 ログスター兄弟の班との対立が激しくなったこともあり、俺が教えているのはアイネを含めても3人のままである。




 午後の鍛錬の時間。

 直前に喧嘩をしていても遅れずにやってくるフィオが、初めて遅参した。

 師匠と叫びながらやってきたフィオに、そのことに対する反省の色は欠片もない。

 むしろなにやら上機嫌だ。


「師匠。遅れて悪いです。でも、師匠を怒らせないだけの、情報をおれ、仕入れてきたんですよ」


 よほど全力で走ってきたのか、それとも遠くから走ってきたのか。身体能力に優れるフィオが肩で息をしていた。

 落ち着いてから話すように言いつける。


 温めの白湯を渡すと、フィオはゆっくり時間をかけてそれを飲み干し、感謝を述べた後、再び話を始めた。


「前に師匠、キースさんやアイ姉さんと、闇月の聖章がどうのって話してたじゃないですか。見つけましたよ、おれ。師匠の望みをかなえてくれそうな人」


 にんまりとフィオは笑う。


 お、そいつは気になる。身分証代わりに欲しかったのだ。

 外に出た時、聖章さえあれば無印であることが露見する危険は減る。

 なんせ聖章を持っているというのは、その加護を受けているのと同義という固定観念がある。

 人間で聖章と加護が違うのは、白の教派のみであろう。

 白の月の加護というものが存在しないからな。


「闇月の坊さんが、この街に来てるんです。実際には多分、青錆街の方だと思うんですけど、青錆街からも黒月街からも外れた所にある廃教会に、しばらくの間、滞在するみたいなんです。ちゃんとこの目で見てきました。それで、ちっとばかし遅れちまったんですけど」


「よく、闇月の(しもべ)の所になんて、行く気になれたね」


 黒の民であれば嫌がるのが普通だ。フィオが普通であるとは思わないが。


「そりゃあいい気はしないですけど、おれは師匠の弟子なんですよ。今更じゃないですか」


 おや、いい気はしないのか。思ったよりまともな神経してるな。覚えておこう。

 印なしの傍にいる時点で、十分におかしいってのは置いておくとして。


「人は?」


「それが思ったより全然少なくて。それもあって青錆街の管轄なんじゃないかって」


「問題を起こしそうな奴らには、先に釘が刺されていたと」


「そうです」


 そいつは重畳。渡りに船と言うやつだ。

 現状に対する最後の一押しになるかもしれない。


「フィオ、今から案内してもらってもいい?」


「もちろんですよ!」


 飛び跳ねんばかりの喜びようだ。もしフィオが獣人だったら、尻尾が千切れそうな勢いで振られていたことだろう。

 思えば、フィオになにかを頼むというのは、上に来てから初めてのことかもしれない。


 師匠などと呼び始めたことで、殊更そういったことから遠ざけていた。

 連絡なんかがあっても、凡そがエムリ経由だ。

 気にしていたのかね。


 少し離れた所に立つエムリを窺えば、こちらも心なしか嬉しそうにしている。

 相談するほど気にしていたようだ。


 視線に気づいたエムリが、おろおろと挙動不審な動きをし、それからなにを思ったのかぺこりと頭を下げた。

 お願いしますってか?

 いやお前、それじゃ分からんぞ。偶々考えていたからそうではないかと捉えたが、自信はまるでない。


「……エムリも来る?」


 藪蛇になるのは御免なので、無難な問いでお茶を濁した。

 エムリは小首を傾げ、そして「行く」と頷く。


 手早く火の始末をし訓練場を空ける準備を整えると、浮かれ気味のフィオを先導に、俺たちは件の廃教会へと向かった。


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