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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第3章 『信じる者、信じられぬ者』
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45.黒の家についてキースに語る

「アイネを連れて行く?」


 キースの怒気の籠った声が、早朝稽古にも使っている朽ちかけた訓練場の隅の一室に、小さく響いた。

 アイネの申し出を了承してから4日の後の事。ようやく得た邪魔の入らぬ場所での密談の時間、俺は早々にアイネを同行させる旨をキースに伝えた。

 反応はご覧の通り芳しくない。まあ当然だろう。


「意味分かってんのか」


「分かってるつもり。フーリを連れて行くって、キースが言い出さないのも含めて」


 フーリは完全にキースに依存しているし、キースもなんだかんだ言いつつ、フーリの面倒を見ることを嫌ってはいない。

 それでも俺たちの旅に同行させようとしないのだから、そこにはそれなりの理由というものがある。


「アイネに、人間相手の殺しをさせることになる」


 これがひとつ。

 さりとて黒の民は戦闘民族。その民族として生まれた以上、避け得ぬ道でもある。


 戦と無縁にこれまで生きてこれたのは、偶々だ。

 平和や安寧など容易く崩れ去る世界である。黒の民でなくとも、そういう覚悟は少なからず持っているものだ。

 おまけにフーリは、黒の民の中でも貴重な解放持ち。

 除く理由としてはあまりにも弱い。


 ちなみに、アイネはそれ以前のお話。


「それは問題じゃない。あの子が自ら望んだことだから。割り切ってもらう」


「望んだ?」


「街から逃げる時はついて行く、ってさ」


 はぁぁ、と。キースは感嘆とも溜め息ともつかぬ声を漏らした。


「街から出るなんて考え方、あいつに出来たんだな」


「ああ。やっぱりそこ、驚くよね」


 未発達の交通手段。乏しい外部の情報。街や村の外には、魔物という脅威が跋扈している。

 神職や兵士、商人でもなければ、産まれた街から出ずに生涯を終える、なんてことが当たり前の世の中だ。

 旅なんてものは、大衆の価値観にはないに等しい。


「どんだけお前のこと考えてんだよ、あいつ。で、吐いたと」


「まさか。あっちはあっち。こっちはこっち。別の話だよ」


 企みを話していないと告げると、眉をぴくりと震わせ、それまで見せていた怒りを鞘に納めた。

 こんな話を持ってきたのだから、疑われるのは仕方ない。

 こちらがすべてを信用しているわけでもないのに、信用しろとは言えんでしょう。


「オレが拒否したらどうするんだ」


「あの子が勝手についてくるだけさ。フィオやエムリを唆して」


「性質が悪いな。お前にあいつを任せたのは、間違いだったか」


 せやな。間違いだったと思うぞ。

 そのお陰でアイネは命拾いをすることになるかもしれないが、逆の結果に終わる可能性だってある。


「キースはフーリを置いて行ける?」


「まだ4年ある」


「4年しかない。いや。4年もないかもしれない」


「どういうことだ?」


 アイネの話を先にしたのは、こちらを後回しにしたかったからというのもある。

 未だに話さずに済ませられるならそうしたい。しかしアイネの件で譲歩を求めるのだから、こちらについては話さぬわけにもいかんだろう。


「黙っていられるなら、その方がよかった。けど、急いだ方がいいかもしれないから、話すことに決めた」


「もったいぶるな。そんなに言い辛いことなのか?」


「黒の家を取り巻く状況が、想像以上に悪い」


 俺は黒の家の成り立ちと、ラーデ・ロムニスの抱える問題をキースに語った。


 始めは己の知らぬ話ということで、驚きと関心が面に出ていた。

 けれど話を進むにつれその深刻さが理解できて来たのだろう、険しさの占める割合が増えていき、終いには額に手を当て唸り声を上げる始末。

 逆に俺は、ひとりで背負っていた重荷をいくらかキースに押し付けられたことで、久々に軽やかな心地であった。


「……こんな話、どこで知ったんだ」


 絞り出すような声。疑念ではなく、確認のためのものだ。

 俺の言葉を疑ってはいないが、抱えるものの多いキースにとっては、信じたくない話であったのは間違いない。

 出所に不審なところがあれば、そちらを疑うことができる。

 藁にもすがる思いと言うやつだ。


 しかし残念ながらその期待には応えられそうにない。


「黒の家の歴史はモト老、現状については……ヘズコウのおっさんだよ」


「ヘズコウさんか」


 苦々しく天を仰ぐ。


「親父の話を思い返せば、それらしいところはある。話してなかったが、親父って昔は黒の家で幹部やってたらしい。戦場から逃げ帰って除籍されたんだが、その後釜に入ったのがあの人だって話だ」


 殆ど外にいた人間が幹部なのか。少し妙な話に感じる。

 その歴史を鑑みると、黒の家はあくまで都市の内側を向いた、管理のための組織だ。

 名誉職や相談役としての地位だろうか。


 疑問には続くキースの言葉が答えてくれた。


「親父は外との繋ぎ役だったんだと思う。その後を継いだとなると、あの人も」


 なるほどな。だから外の情報を多く仕入れられる、か。


 思い返せば、俺がここに連れてこられた時、商品の検分に立ち合っていた。

 クスーラたちの班が崩壊した魔獣騒動の時に、ラーデ・ロムニスと取引をして黒の民を仕入れていると俺に話しもした。

 あれが公然の秘密というわけではなく、自分の管轄のことだから、その権限の範囲で話をしていたとすれば。


 黒の家においてヘズコウの持つ権限は、思っている以上に大きいかもしれない。


 窮状を知り得た機会というのが、廃棄資料の整理だったことを思い出す。

 あれは、上の確認済みということで廃棄されたのか、それとも上への報告の必要なしとして廃棄されたのか。


「どう思う?」


「あの人は、親父が居たからこの街に居たんじゃないかって、親父が居なくなってから思う時がある」


 黒の家への背信を仄めかすと、返ってきたのは思いもよらぬ話だった。


「オレさ、ずっと小さかった頃に、あの人が親父のこと兄貴って親しげに呼んでるの、聞いちまったことがあるんだよ。親父も妙に気を許してる風でさ。だからオレは、黒の家に入るためあの人を頼ったんだけど」


 そう語るキースの指先は、腰の剣の鍔を撫でていた。

 懐かしんでいるのかもしれない。

 ふいに掌が柄を握りしめる。


「去年、親父が死んだって伝えた時も、兄貴って漏らしてた。今まで見たことのないような、似合わない顔しててさ。それから少し口喧しくなった。仮成人した奴らを班に加えたのに、下から引き上げるのにも反対された。お陰で、オレたちの仮成人を待つハメになった」


 態度の変化か。

 その後、俺にあの資料を見せたとなると……。


「あのおっさんは、僕にキースを連れ出させようとしている?」


「行き着く答えは同じか」


「あれだけ黒の家のためと吹かしておいて、とんだ狸だ」


「親父の前でのアレが本物なら、他は全て嘘っぱちさ。でも確証なんてない」


 必要だな、それは。

 あのおっさんが黒の家の意に背いているのであれば、俺の欲する情報も、ぐっと手に入りやすくなる。


 だが逆に確証を得られぬ限りは、どれほど行動に怪しい点が見つかろうと、黒の家の側の人間と思って動かなければならない。

 幹部相手の迂闊な行動は、そのまま己の死に直結する。


「……確かめる手はある」


「本当か?」


 おそらくはこれでいける。


 口実としては班の人員の増加だ。

 担当をより広い区域に移してもらうため、地下水路の広域地図を求める。


 建前としては、過去の魔獣の発見報告や遭遇地点から、侵入経路を予測するためとでも言っておけばいい。安全かつ稼ぎのよさそうな区域を割り出す、とかなんとか。

 加えて、帝国時代の都市の地上部の地図も求めてみるか。

 あちらがその気なら、こちらの意図に気づくはずだ。


 要求が通った場合、渡される地図や資料で真意のほどを測ることができる。通らなければ、それはそれで理由は明白。


「ヤトイ。これまでにヘズコウさんの前で、それらしい行動取ったことあるか?」


「ない、と思う」


「互いが互いの意思を確かめることになるな。オレは、明らかになるまでは、余計な動きはしない方がいいか。任せきりになるが……、いや。そっちは頼む」


「任されたよ。キースは青錆街での種蒔きを、少し前倒しにお願いしたいかな」


 布石だ。俺たちがより本格的な準備に入るための。


「金が足りなくなるぞ」


「フーリのことはどうするつもり?」


「連れて行く。黒の家がどう転ぶか分からない以上、残しておくわけにもいかないだろう。他の子供たちは……、少し考えさせてくれ」


 考えさせてくれ、ね。

 キースは苦渋に満ちた表情で猶予を求める。

 それでも言葉を信じるならば、出るという決意に揺らぎはないらしい。今のところは。


「なら、お金はアイネとフーリの負担で。それでも足りなかったら、他の子供たちに現金で買わせればいい」


「報酬を現金化する理由さえ作れりゃいいんだな」


「なにを買っているか、外から分かるようにしておいてね」


「油断を誘うため、か。この悪党め」


 言ってキースが立ち上がる。

 時間はまだ残っているが、今回はお開きということだろう。

 キースからの報告はなにもなかったが、あんな話をされたのだ。あったとしても諸々考えを整理し直さねば有益な談義とはならない。

 こちらも早急に片づけておくべき話は済んだ。


「キースが求めてるのは、こういう僕でしょう?」


 悪辣を笑みに潜ませ、撤収に同意を示すため腰を浮かす。

 立ち上がったところを、拳で胸を軽く突かれた。やり返すと、間に滑り込んだ掌にがっちりと拳を掴まれる。


「そっちも上手く隠せよ」


「言われるまでもない」


 部屋を出て、扉の前の廊下でキースとは別れた。

 この後、俺はエムリに個別の指導がある。フィオと違い勝手に早く来たりはしないので、こういう場面では役に立つ。

 時間には早いが、火を焚いて湯を沸かす準備でもしておこうか。

 俺はいつもの稽古部屋へと足を向けた。


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