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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第3章 『信じる者、信じられぬ者』
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42.欺瞞の歴史と作られた信仰

 冬になった。のだが、近況を報告する前に、勉強の成果を話したい。

 1年ほどかけてようやく、俺はこの世界の歴史と信仰を、大まかにではあるが理解することができた。


 順を追って、世界の成り立ちからその歴史を話していこう。

 俗に創世神話と呼ばれるものだ。


 混沌の中に白の神が生まれる。

 白の神が光を灯すと、それは白の月となり、そこから新たに幾柱もの神が生まれた。

 神々は大地を作り、天を創り、生命で世界を満たした。


 しかし世界は不十分だった。世界に神の恩寵が行き渡るように、その力を分け与えた人間という存在を創った。

 人間は神々に与えられた役割を果たそうとしたが、その短い生涯では、満足のゆく結果を出すことができなかった。


 神は人間を管理し導く者として、魔法種を創り出す。

 神と魔法種に導かれた人間は、役割を果たし、大いに繁栄した。


 この頃の世界は、死の概念が曖昧だった。

 死者の魂は地上に留まり、憑代の口を通して生者と交わる、楽土とも呼べるような世界であった。

 だがその安寧は、長くは続かなかった。


 世界に最後の神が誕生する。

 神々の祝福を受けて生まれたその神は、しかしその身に破滅的な呪いを宿していた。

 世界にこの神の呪いが溢れ出し、穢れた魂が大地に蔓延する。

 そしてそれらから、人ならざるモノが世界に産み落とされた。


 世界の秩序が崩れようとしている最中にあっても、神々はこの新しい神を滅ぼすことを躊躇った。

 そして封印を施すことで、その神を滅ぼさぬまま、これ以上の呪いが大地に降り注ぐのを防ぐことにした。

 同時に、既に溢れ出してしまった呪いに対抗するため、魂を浄化する理として、輪廻および天界を創り出す。


 こうして今ある世界――環律界が形作られた。


 その後、新たな神を生み出そうとする神はおらず、大崩壊が起きるまで、人によって歴史が積み重ねられることになる。

 それがどれほどの時であったのかは定かではない。

 だが終わりは、殊の外呆気のないものであった。


 千年ほど昔、大崩壊と呼ばれる厄災が起きる。

 世界には封印された神を哀れむ神たちがいた。

 その神々により行われた封印の破壊、それが大崩壊の引き金となった。


 世界に再び呪いが零れ落ちる。

 秩序を守らんとする神々は、封印を破った神々を悪神と断じ、激しい戦いの末に、封印されていた神共々、悪神を討ち滅ぼすことに成功する。


 しかし代償は大きなものだった。

 大地の至る所にその爪痕が残され、戦いの舞台となった大陸には、呪いの影響が色濃く残ることとなった。

 今日、魔大陸と呼ばれているその大陸には、呪いが世界全体に広がらないように、神々による結界が施されているとされる。


 だがそうして得られた安寧を脅かすものが、今から500年ほど前に現れた。


 呪いとは世界に漏れ出た歪みのようなものである。

 大崩壊が起きるより以前の、より完全な秩序への回帰を望む神々にとって、それは忌まわしき排すべき穢れだった。


 呪われた大陸で、あろうことか神の承認のもとに、その穢れを是とする国家が生まれた。後に黒の帝国と呼び表される、ニンナリーエル王国である。

 ニンナリーエル王国は、穢れの象徴とも言える獣人や妖魔を、人と同様に扱う国家であった。

 それ故に、やがてその国を統べる者は、穢れた人ならざるモノ――魔物の王、魔王と呼ばれるようになる。


 時を経て、黒の月女神に祝福された魔王は、武力による大陸の平定に乗り出す。それは、神々の築いた結界を脅かしかねない、世界に対する反逆に等しい行いだった。

 神々は呪われた大陸を解放し、新たな秩序を築かんと、魔王率いる帝国軍との戦いに臨んだ。


 そして長きにわたる戦いの末、魔王は討ち果たされ、帝国は崩壊した。

 けれど神々の戦いが終わったわけではない。大陸に残る呪いは色濃く、魔物は跋扈し続けている。

 解放のための戦いは、未だその途上にあるのだ。


 と、侵略者たちはのたまう。


 はてさて。真実はいずこにかあらん。勝者の語る歴史を鵜呑みにするほど、俺は耄碌しちゃいない。

 なんせ、やってるのは派閥間抗争だ。共通の敵が居ればまとまるが、居なくなるや否や、同盟内で泥沼の領土争いときた。

 神が数を頼みに侵略を正当化。解放とは片腹痛い。


 俺はこの世界の信仰も歴史も、すべてが信じられなくなったね。


 神が実在するからこそ、容易く価値観が捻じ曲げられる。そこに正しさもなにもあったものではない。

 この世界では、神の教えこそが正しいのだから。


 そして、俺はこれを正しいと言わなければならない。

 欺瞞だらけの神々によって正しさを与えられた闇月の教派、その札付きだからな。

 いや、今は闇月の徒か。まだ聖章を得る機会には恵まれていないが。


 どこまで本当か分からない歴史ついでに、信仰についても話そうか。


 この世界に宗教と呼べるものは1つしかない。

 そのため、○○教といった呼称は厳密に言えば存在しない。教派を略してそう呼称することはあるが。


 強いて呼び名を挙げるとすれば、信仰全体を包括するものという意味で、大信仰。

 歴史的な変遷を踏まえた上で、今の信仰を指す意味でそう呼ばれているのかもしれない。


 今日の大信仰は、戦後という時代に作られた、統治のための物語だろう。

 書庫にある帝国時代の書物に、信仰に言及したものは、不自然とも言えるくらいに少なかった。

 戦後のそういった書物が、相応の量収められているにも関わらず、である。


 焚書が行われたことは想像に易い。

 支配地の教化政策を行うに当たって、旧来の信仰を書物に残しておいては害悪にしかならないからな。


 だが、すべてをすべて排除できたわけでもないらしい。

 断片的な記述をまとめると、帝国時代を経ても変わらぬ、本質に近いものを見つけることができた。


 大信仰には5つの月に表される、5柱の神がいる。

 昼を支配する白の月、夜を支配する銀の月、赤の月、青の月、闇の月。

 月は神の根源が形を成したものであり、神は月を司る。

 銀の月は生を統べる。赤の月は地を統べる。青の月は天を統べる。闇の月は死を統べる。白の月はそれら夜の月を統べ従える。


 といった信仰だ。

 更に、各教派を史料から簡単に分析してみると。


 白の教派は厳格な戒律に縛られた、秩序の番人。

 銀の教派は人界の統率者を標榜する、選民思想と貴種信仰に凝り固まった、傲慢な神とその(しもべ)

 赤の教派は大地の管理者に徹する、清貧で内向的な神とその僕。

 青の教派はやや毛色が異なり、神から魔法の代わりに魔術という技を与えられた、探究と求道の僕。

 黒の教派は死と魂の守護者であり、変革と新たな時代を求めた殉教者。


 こうした傾向が見て取れる。

 これらが大崩壊からこちら、時代によって変わらぬ、共通した思想であるようだ。

 そして忘れてはならないのは、黒の月を除く4の月の神が求めるのが、大崩壊より以前にあった、秩序の時代への回帰、と。


 付け加えるなら。

 闇の教派は、天界に幽閉されている厄神に代わり、地上世界の理を保つ宿命を負うと共に、厄神の荒ぶる魂を鎮め、罪を雪ぎ、神々への許しを請う、贖罪の徒。

 という扱いである。


 個々の教派については、追々語る機会もあるであろう。その時にでも改めて詳しく解説しようと思う。


 輪廻転生についても、表現の違いはあれど根底に大きな差はない。

 死した人の魂は、闇の月によって器から刈り取られ天界へと運ばれる。天界では神判が行われ、生前の行いに応じた祝福が魂に与えられる。そして銀の月に誘われ、人界にて新たな器へと宿る。


 ただし、ここで言う祝福に魂位(こんい)の概念が加えられたのは、おそらく戦後のことだ。

 戦前の書物に、そうした記述が全くなかった。

 区別は行われていた。しかし、その理由はどうも違うところにあったようだ。


 魔法種、人間、亜人、黒の民、獣人、妖魔、鬼。そんな魂の序列は、後付けされた根拠の欠片もない妄想。

 だが妄想であろうとも、神のひと声さえあれば、300年足らずの時間で、人はその言葉を信じるようになる。

 ただ、自分たちにとって都合の良いことでなければ、完全にとまではいかない。


 書庫にこの疑問に行き着くような資料が残されていたのは、不都合を背負わされた黒の民の必死の足掻きであろう。

 闇月の教えを学ぶための材料がないのも、同じ理由だ。

 黒の家の、少なくとも幹部連中は、歪められていない黒の月の教えを手放さずにいるに違いない。


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