表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第3章 『信じる者、信じられぬ者』
37/94

37.アイネという綻び

「キースの苦労はキースのせいって話したよね。それって、ヤトイが来る前からなんだ。キースって、問題を抱えてる子を放っておけないじゃない? えっと他にも理由はあるんだけど、キースってばいつも苦労してたの。だからね、本当はわたしたちも原因なの。それを皆、忘れちゃってる。忘れたいのかな。たぶん、フーリも。ううん。フーリがいちばん忘れたいんだと思う」


 上に戻された一件か。

 キースの父親の口添えがあったと聞いているが、キースもそこに絡んでいたと考えるべきなのだろうな。あの様子では。


「フーリがキースのお父さんのところに居る話、知ってる?」


「キースから聞いたよ」


「そっか。キースの周りの子たちの中で、あの子の抱えてる問題がいちばん大きいの。ヤトイが来るまでは、あの子がキースの苦労の原因みたいになってて。わたし、それであの子が悩んでたのを知ってるんだ。でね。ヤトイが来てから、周りの反応がすっかり変わったの。皆が皆、ヤトイのことを噂するようになった」


 重荷から解放された。そんな単純な話ではないらしい。


「今のあの子はね。キースを助けたい、助けないとって思って動いてる。それに、キースがヤトイにかかりっきりなのも、ダメだったみたい。取られちゃうって。だからね、キースの傍にはヤトイじゃなくてあたしが居るべき、ってなっちゃった」


「それだと、アイネともぶつからない?」


「わたしは2人のお姉さんなのよ」


 腰に両手を当て、胸を張って言う。

 なるほど、そうやって落としどころを見つけたんだな。姉役に徹していたのは、あの子も理由にあるわけだ。この辺りの事情、キースは知らんのかもな。


「ちょっと暴走しちゃってる気もするけど、穴倉に居た子だから……」


 忘れたい。アイネの評も納得だ。

 積み重ねられた苦労を俺に押し付け、己の問題は既に片付いた、つまり助けられた者として、キースの力になりたい。

 敵は俺だ。俺を排除することで、すべては終わる。ただキースを支えたという結果だけが残る。

 願望。妄想と言ってもいい。


 重度の依存。それに自己陶酔か。

 感情に振り切れているとなると、これをなんとかするのはかなりの手間だ。


「それから、フーリをヤトイと戦わせた理由だけど――」


 キースとフーリの会話や、アイネの私見を聞いたところによると、目的は2つ。

 俺の実力を見せ、隣にいることを納得させること。

 未熟さを自覚させ、思い上がりを正すこと。

 結論から言えば半分成功、半分失敗となる。


 解放があるからという思い上がりは、改めさせることができたらしい。しかし、俺への反発は変わらず強い。

 これはキースの説得の仕方も悪いとアイネは言う。

 俺を持ち上げ過ぎているのだそうだ。

 フーリの逃げ場を奪っている。故に意固地になる。


 他人の思いを理解するのは難しいからな。

 まさかキースやアイネが、印なしの俺を寄りかかる相手として選んでいるなんて、どうして想像できよう。


「アイネならできる?」


「キースじゃないと解決はできないけど……」


 説得はできると。

 アイネを介してキースにやらせる手もあるが、そちらは将来により大きな爆弾を残す危険性がある。

 目先の問題の解決のため曖昧な爆弾を作るよりは、はっきりと分かっている爆弾を抱える方が、まだマシだろう。


「加えていいの?」


 心配、ではないな。驚いているのかね。

 少し表情が読みにくくなった。

 あんな話をした後だ。驚くのも無理はない。


 暴走は怖い。しかし、キースが安全装置となり得る。キースの安全という意味では、盾として使える。

 また純粋に戦力となる人手が欲しい。それは実力を隠さずに済む相手であれば、なお望ましい。すでに知られているフーリは、適任と言えるだろう。


 なにより、キースが望んでいる。

 俺を見せたということは、つまりはそういうことだ。


 残る問題は、死んだときのキースへの影響だな。

 これは、最終的にはアイネよりも軽いと考えられる。巻き込んだ、という意識が薄いからだ。

 そうなると今度は、アイネを生かすための身代わりという、利点として捉えることもできるようになる。


 フーリについては、完全に打算しか見ていない。

 逆だな。本来はそうあるべきなのだ。

 キースとアイネの扱いがおかしいのである。

 変えるつもりはないがね。キースは一蓮托生だ。あいつにとってもそうであるとは思わないが、少なくとも俺にとってはもはや疑いない。アイネは遅きに失している。

 ただ他との付き合い方は、これを参考に改めるつもりではいる。己のためであっても、他人の事情に首を突っ込むのは終いだ。

 今後は使い捨てることを念頭に、行動計画を立てる。


 アイネが表情を綻ばせ俺を見ている。


「なんだか楽しそうだね」


「不安だなあって顔してるけど、怖いこと考えてるんだろうなーって」


「それって、怖くない?」


「怖いよ。でもわたし誓ったもの。それにね。嘘でもいいの。わたしたちのことを、本気で考えてくれるなら、今はそれで。そうね、思うことにしたの」


 今は嘘でいい、か。

 馬鹿な子だ。どうしようもなく愚かで、どうしようもなく眩しい。

 俺には到底そのようなことは出来やしない。

 もし俺がこの世界に正しく生まれ落ちた、紛れもないこの世界の人間だったとしても。俺にその道は選べないであろう。


 惜しいことだ。

 俺がもう少し賢ければ。あるいはもう少し愚かならば。打てる別の手もあったのであろう。

 しかし俺はそのいずれでもなく、答えは既に決した後だ。


 だがせめて。

 そう、せめて。俺がこの街を去るその日までは。是が非でもこの子には、キースと共に生き延びてもらいたい。

 つまらない自己満足に過ぎない。

 けれどそれで悔いを残さずに済むというのであれば、それこそ重畳。

 面倒な感情に煩わされるのは御免である。


 そのためのささやかなリスクであれば、背負うのを許容してもよかろう。

 あのフーリという子供は、つまるところそれだ。

 ならばやるべきことはひとつしかない。


 俺は感傷を打ち捨てる。そしてほんの少しだけ俺という人間を表に引き上げ、悪辣に、それでいて常のごとく、非道を舌に乗せた。


「さっきの問いに応えるよ。アイネ。フーリを()()()班に引き入れて欲しい」


「任せて」


 にこりと、アイネの頬に屈託のない笑みが浮かんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ