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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第3章 『信じる者、信じられぬ者』
33/94

33.アイネの試し

 ヘズコウの了解を得た俺たちは、そのまま事の次第をアイネに伝えた。

 そして翌日。

 俺たちはアイネを伴い、地下水路を散策している。


 目的は手頃な魔物と遭遇すること。仕事はついで。アイネが地下で使えるかどうかを見るのが、今日の主な目的だ。

 とは言え明日のこともあるので、やれるところはやっておく。


 アイネの装備はミトン型の篭手に、爪先に金属板の入ったブーツ、首と心臓の部分に金属の補強をしてある革製の上衣に、動きやすいズボン。得物は稽古で使った半金属の棒である。

 俺やキースのように袋を背負ったり、片手に松明を持ったりはしない。

 仕事に加えることになっても、すぐに重装備というわけにはいかないだろう。


 重装備と言っても、重いのは背負った袋の中身だ。

 服装についてはアイネと大差ない。

 他の班では、板金鎧で固めているところもあるみたいだ。けれど俺たちは、そんな装備が必要な場面では逃げることに決めている。

 そもそもの問題として、サイズがあるか怪しい。ついでに支給してもらえるほど評価が良ろしくない。


 思えば、ケビンとハルボも板金鎧だったな。

 あれでいてそれなりに稼いではいたらしい。ヘズコウがキースを任せるくらいだから、それはそうか。


 ちなみに、報酬は現金払いではない。点数制で、必要なものはその点数を使って手に入れる形になる。現金にすることもできるが、使う用途がない。

 加えて、班単位の報酬ではなく、個人単位での報酬だ。班の人数が少ないからといって、収入が増えるわけではない。

 回収した魔物については、班の臨時収入扱いになる。だが、2人ではそんな余裕はない。


 水路掃除の仕事がこうした制度になっているのは、黒の家の思惑があってのことだろう。班の人数をある程度まで増やさせて、安定して仕事をさせたいのだ。

 戦の基本は敵を上回る兵力で粉砕、撃滅すること。

 余剰兵力であっても、経験を積ませておけば、後々損耗した他の班に割り振ることができる。


 こういう事を考えると、強制居住地区に流れてくる資金が、どのようになっているのかが気になるな。いや、踏み込むつもりはないがね。

 俺が街を出るまで、長くてもあと5年ほどか、今の状態を維持してくれればそれで構わない。


 閑話休題。

 水路にやってきた俺たち。キースにアイネを見させ、2人のフォローの片手間に香の取り換えを済ませていく。

 作業と警戒の両立は、すっかり平常業務だ。


 暫くそうやって、アイネには適当に雑魚で慣らさせていたのだが、キースの俺を視る目がどんどん厳しくなっていく。

 さもありなん。

 最初こそ戸惑いを見せていたが、動揺がまるでないのだ。そりゃあ不審だろうて。

 そんなキースの不満は、走る肉食淡水魚の群れの相手を終えた頃に、限界を迎えた。


「ヤトイー、5回噛まれた」


 魚の群れに揉まれながら、なんとかそれらを撲殺し、アイネが報告にやってくる。

 今回の地下への同行に際して、アイネにはどんな些細な怪我であっても、隠さず伝えるよう言い聞かせてある。

 毒を持った魔物もそれなりに居るし、なによりも、勝手に自己判断の基準を作られては困るからだ。


「数、多かったからね。場所は」


「脇腹と、太腿の裏側と、あとは篭手と靴」


 腹と腿の傷は、服の上からでもすぐに分かるくらい血が出ている。

 問題なのは腹の方か。しばらく魚に食いつかせたままにしてたからな。


「お腹、後回しにしてたよね。見せて。……あーあ、歯形がくっきり。あれの歯は短いから、内蔵は問題ないね。でもこれだと多少血が出るか。動きは」


 服をたくし上げたまま、体を何度か捻って見せる。

 動きに合わせ、傷口から垂れる血の量が増える。


「痛い。でも大丈夫そう」


「足は」


「気にならないわ」


「おい。おかしくねえか。血が垂れてるぞ。気になるだろ。いや、オレが気にすんだよ!」


「すぐ止まるよ。脇腹のは、布当てておこうか」


 足の方は触った感じ、香を2つか3つ取り換えている間に血は止まる。

 腹は、上に戻って体を流す頃には止まっているだろう。

 アイネの体の傷がどれくらいで回復するかは、既に実験済みだ。


「ヤトイ。お前、でかいの3匹だけ潰して、残り全部アイネに流したよな」


「走る魚は、数を試すには丁度いいから」


 傷口を蒸留酒で流し、煮沸消毒済みの布を傷口に押し当てる。

 鞄から包帯代わりの布帯を取り出しつつ、キースの問いに答える。


「試すって」


「ここまで怪我らしい怪我、しなかったよね」


「あ、ああ。動きはぱっとしなかったけど、慌てた様子もなかった。これなら――」


「アイネが勘違いする」


「お前、どこまで求めてる?」


「アイネ。今回の問題点」


 包帯を巻く手は止めず、アイネに話を振る。

 というか、俺にとってはこちらが本題で、キースへの返答はついでだった。


「へ? うーん……。ヤトイが助けてくれなかった」


「ふぅん」


 少し不機嫌を混ぜた声で応じる。

 別に機嫌が悪いわけではない。指導の成果が表れていて、むしろ良いくらいである。

 早々に答えを言い当てられて、つまらないだけだ。

 反面、アイネが物覚えの良い子で安心もしている。


「えっと。違うの。そうじゃなくて……でも、そうだよね? だから。ヤトイに助けてもらうべきだった?」


 正解です。少しきつめに包帯を縛り、立ち上がる。

 答えを求めるような視線が追ってきたので、軽く頭を撫でてやる。

 安堵したようにアイネの目尻が綻んだ。


「……わたし、自分でなんとかしようと思った。そうするのがいいのかな、って。ここまでそうだったから。でも、違うんだ?」


「僕、アイネに戦い方なんて、教えてないからね」


「ヤトイって、時々すごくイジワル」


 言う割に声が楽しそうですよ。お嬢さん。

 続くキースは、それとはまったく逆の声音だった。


「時々じゃねえぞー」


「……キース」


 止めてくれませんかね。

 アイネが多少、俺の本性を知ってるとはいえ。お前がそれを言っちまうと、本気で洒落にならんのだよ。冗談じゃ済まない。


「あのな。初対面であれだけ意地の悪い返しをされたんだ。お前がそういう奴だってことを、オレはよおく知ってる。そこを買ってるんだ。胸張れよ」


「余所でそういう話しないでよ? ただでさえ僕、厄介者なんだから」


「切り札を晒す馬鹿がいるかよ」


「わたし、なにも聞かなかったことにするわね」


 アイネは服を整えながら、俺たちから半歩距離を取る。

 ああ、お嬢さんは分かってしまいますか。そうなんです。この会話、非常によろしくないんです。

 というかキース。君ってば相手がアイネだからか、随分と気が緩んでいるよ。


「なんだなんだその反応は。オレはなにかマズいこと言ったか?」


「はい無駄話は終い。キースはアイネが居るからって、はしゃぎ過ぎ。ここ、下だからね」


「はしゃぎ過ぎって……」


「アイネは、これが試しであることを思い出すように。もう少し、仕事を片づけて帰るよ。明日もこの面子でやるんでしょ? ならキース、指示出して」


「悪い。お前の言う通りだった。そうだな、あと8つは済ませる。予定は変更。経路はDを使う」


「了解」


 この日、更に犬に似た中型の魔物と遭遇した。

 軽くアイネに当たらせ、中型であっても単体、かつ攻撃が単調な相手であれば、時間は稼げることが分かった。

 ただ自力で倒すこともできないようで、早々に助力を求められた。

 怪我はかすり傷が少々。許容範囲内だ。


 翌日から、アイネは正式に班に加わり仕事をすることになった。

 ひとまずは香の取り換え、いずれは荷物を預けることになるのだろう。

 しかし、すぐにとはいかない。

 見える状況は未だなにひとつ変わらず、周囲の疑念が積み重なるばかり。

 それが大きな厄介事として噴出するのも、時間の問題であろう。そう、俺は焦燥を強くしていた。


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