表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第3章 『信じる者、信じられぬ者』
32/94

32.キースに献策をする

「随分とお前に懐いたな」


 アイネが部屋を出て少しして、キースが感慨深げに呟いた。


「キースが部屋を空けていること、多いからね」


「あいつ人当たりはいいんだよ。お陰で皆にも好かれてる。ただ、他の奴との間に秘かに線を引いてる」


 意外である。まるで気づかなかった。

 それらしい言動を探してみるが、どうにも思い当たらない。


「アイネは意地っ張りだからな。全然弱音を吐かない。オレにも借りを作りたがらなかった。雑用時代はそんな素振り見せるわけにもいかなかっただろうし、婆さんにも弱ってるところなんて見せられない」


 よく見ているものだ。年からしてみれば、付き合いは長い方なのかもしれない。

 まあ意地っ張りというのには、全く以て同意見だ。


「他の子供たちを相手にしても、オレとの関係から立場を決めちまって、わたしは皆のお姉さんなのって。馬鹿だよなあ」


 だからキースは、アイネを妹みたいに扱っていたのか。

 俺が相手だと、この間のアレで完全にタガが外れたんだろう。態度から姉っぽさが抜け落ちたままだ。

 あるいはアレで、意地もなにもかも打ち砕かれたか。

 姉の威厳なんて影も形もないしな。


「そのアイネがお前にねえ。くく。オレはその気持ち、分からないでもないけどな。他の連中が見たら、そりゃもう驚天動地だろうよ」


 心底楽しそうにキースは笑う。

 しかし、これは……。結果的にそうなってしまっただけではあるが、外野の余計な手出しだ。

 誰も得しない、ただのお節介。

 しくじったな。こういうところに影響が出るなんて。


「ごめん。キースがなんとか、しようとしてたのに」


「……なんで?」


 んんん?


「長々と悩まされてきたあいつの問題が、少しだけど前進したんだぞ? いいことじゃねえか」


 そうなのか。こいつはそういう考え方なのか。

 いや、本当にお節介だったようだ。


「それになあ。オレ、厄介な問題児をあと2人も抱えてんだよ」


 あと2人も、ということは、アイネもその問題児の1人だったのだろう。

 思い当たる節はありますがね。これでもかと言うほど。


 それよりもキースよ。嫌そうな口ぶりだが、おまえそういう連中のこと好きだろ。

 手のかかる子ほどとは言うが、物好き過ぎやしないか。

 意識しているのかは知らんが、俺もその括りの中に入っているのだろう。そう思うと、本当に笑えない趣味をしているぞ。


「その片方が、もうずっと班に入れろと煩くて。特に最近はな、あまりアイネを構ってやれなかった」


「いい話、ではないんだね」


「なにが悪いって、まず仮成人を迎えてない。オレたちより年下なんだよ、あいつ」


 そいつは論外だな。お話にならない。

 俺たちの班には仮成人がいない。本来であればあり得ないことだ。経緯が経緯だったため、引き継げただけ。

 俺たちの班に、仮成人になっていない者を引き入れる余地はない。

 理解できぬというのは問題だが、理解してなおともなれば、手の施しようがない。


「それから、……こっちの方がより悪いんだが。お前を目の敵にしてる。この前のエルの嫌味が笑い話にできるくらい酷い」


 敵意なんてのは、黒の家の連中を見ていれば今更だ。

 クスーラたちの件があるから、気にしているのだろうか。だとしても、アイネのような奴を探すことこそ、無理があろう。


「……それだけ? 下へ連れて行くことに、不安はないの?」


「ああ。あいつさ、一時期穴倉に放り込まれてたんだよ。お前なら分かるだろ」


 納得する他ない。どれくらいの期間をあそこで過ごしたのかしらないが、暴力には慣れる。

 それこそ、平和ボケした日本人であるこの俺が、魔物退治なんて命がけの仕事を、さしたる動揺もなく受け入れられるくらいには。

 あとまあ性格も歪む。


「放り込まれたというか、捨てられたんだ。あいつが5つになるかならないかの頃かな。で、ちょっと問題起して、親父が口挟んだこともあって上に戻された。今は親父と実家で暮らしてる。一応、オレの妹弟子。親父が言うに素質はあるみたいなんだけど、真面目にやらないんで、手合せした感じはお前に少し似てる。魔法は上手いからな」


 そこで大きく溜め息を1つ零した。


「というか、騒動の発端になったのからして、魔法なんだよ。あいつ、親父と同じで『解放』を使えるんだ」


 黒の民の魔法について、語り残していたことがある。

 固有魔法とも称されるが、黒の民には黒の民にしか使えぬ、『解放』と呼ばれる魔法が存在する。

 すべての黒の民が使えるわけではない。

 先天性かつ遺伝の魔法とされている。

 正しく魔法と呼べるのか不確かな、けれど事実存在する、特異な魔法。

 解放を使うと、その肉体は異形の怪物へと変じ、魔法種に匹敵する強大な力を得る。


 起きた問題とやらも想像がつく。子供とはいえ解放が使えるのだ。何人死んだか。

 キースの口ぶりだと、上に戻すにもごたごたがあったのだろう。

 普通、解放を使えるというだけで優遇されるものだ。捕縛に出た人間にも死人が出たのかもしれない。


 解放が使えるとなると、戦闘面ではフォローが不要と考えてよい。

 当人も理解してるのだろう。


 それでも、使えないものは使えない。

 仮成人に達していないのでは、どうにもならない。

 穴倉の子供たちを使うことができないのも、彼らが10歳に満たないからだ。

 俺たちの仮成人、次の春まではまだかなりある。


 いや、待てよ。仮成人が居ればいいという話なら、当てがないわけでもない。

 アイネは既に仮成人を迎えている。班に迎えて、俺たちはその監督下という扱いにすれば、反発は必至だが、ヘズコウを納得させることはできるのではないか。


 こうなると、アイネが部屋に通えるようになったのも、ヘズコウがこれを想定してのことなのではないかと思えてくる。

 発端はアイネ自身らしいが、あの食わせ物なら、手として組み込むくらいはするだろう。


 キースにアイネのことを切り出すなら、今を置いて他にないか。


「条件に合う人は、やっぱり見つからない?」


 悔しそうに首が振られる。

 ヘズコウに期限を言い渡されて、そろそろ1月になる。周囲の俺たちの班に対する疑念も、限界に近いだろう。


「アイネを入れるのはどう? あの子、仮成人だよ」


「お前。……本気なのか?」


「本気。キース言ったよね、アイネは意地っ張りだって。僕もそう思う」


「ったってな。意地でどうにかなるもんじゃねえだろ。あいつには向いてない」


「全くだね。でも連れて行ける程度には、なったよ」


「お前なにやったの」


「意地を張る特訓」


「それを見ればオレは納得できるか?」


 あまり見せたいものではないので、曖昧に笑みを浮かべるだけに留める。

 アイネも嫌がっていたしな!


「下に連れて行って様子を見る。とりあえず、ヘズコウさんに伺い立てないとだな」


 聡いキースは、なにやら勝手に解釈してくれたようだ。

 それを狙ってなにも言わなかったわけではあるが。

 さて。善は急げという。


「この時間なら、まだ大丈夫かな」


「今から行くのか?」


「僕らの班が魔物を狩ってないって噂、あるよね」


「……確かに限界かもしれないな。くそっ。3月も猶予ねえじぇねえか」


 然り。騙された気分だ。

 ヘズコウにその意図はなかったのだろうが。

 事実、上はしっかりと抑え込んでくれているらしく、圧力は受けない。

 現状に関して言えば、手前の尻は手前で拭け、といったところか。


「許可貰ったとして、アイネはいけるのか?」


「用意はさせてある」


「ヤトイ。お前、切り出す機会をずっと探ってただろ」


 呆れたと、口では語らないが目が語っていた。

 にやり、と。俺はらしくない笑みを口元に形作る。


「献策するにも、時期ってものがあるからね」


「ここんとこ、ド突き合いばっかしてて忘れてたぜ。元々、そういう目的でお前を連れて来たんだったよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ