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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第3章 『信じる者、信じられぬ者』
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31.ヤトイとキースの日常、アイネの求める場所

 アイネに稽古をつけ始めて5日が過ぎた。

 夕食の後、俺は部屋でアイネと水路将棋をしていた。

 本当は仕事の基礎を、メモを使って教えておきたいのだが、今日はキースが部屋にいるからな。


 まだ班に入れる了解は得ていないので、見える場所で勝手はできない。

 見えない場所なら問題ない。それはないのと同じだ。


 将棋と言っているがただの脱出ゲームである。自作の。

 探索者が追跡者を振り切って、水路から脱出するのがこのゲームの目的。


 探索者と追跡者、それに雑魚の3種類の駒がある。それを雑魚、追跡者、探索者の順に配置。

 動かすのは探索者と追跡者だけで、探索者が追跡者に班の人数回接触される前に脱出できれば、ゲームクリアだ。

 接触されると人数が1人減って、追跡者は1回休みとなる。そして探索者が雑魚に触れても1回休みとなるのが基本ルール。

 盤面は俺たちの担当区域の水路をそのまま使っている。


 拡張ルールには、追跡者のサイズで通れる水路が変わったり、移動速度が変わったりするものがあるのだが、今回はそういった複雑なものは用いていない。

 そしてこのゲーム、探索者側は目隠しで行うのが普通だ。水路の地形は覚えていて当然なのである。


 つまるところ、これはゲームの形をした脱出シミュレーションだった。

 アイネには地図を覚えてもらうのが目的なので、なるべく見ない、程度でやっている。もちろんキースに対してはただの遊びという体。


「ヤトイたちはこれ、目を瞑ってやってるのよね?」


「やるなら目を瞑るけど、これを使ったことがないからね」


 俺たちが地図を覚えた時は、指定の場所から最短経路で出口を目指せというゲームをやった。

 脱出する側は脳内地図、相方が実際の地図で位置を確かめる。

 嫌になるほどやった。今では瞬時に最短経路を導き出せる。


 ただ、2人で仕事をするようになって魔物を回避することが増えたので、最短ではなく最適経路を考えるようになった。

 水路将棋はその模索の過程でできたものだ。追加ルールこそ本体なのである。

 まあ実際には雑魚という名目で振り分けた危険地帯を脳内で並べて、追跡者の特性から最適経路を考えて、地図に配置して穴がないか確認をする、といった用途でしか使わなかったが。


「僕たちがやってたのは、キース。203番5号の882番6号交点から最短」


 木板になにやらメモをしていたキースは、俺の唐突なフリにも動じず、呪文めいた言葉の羅列で最短経路を描き出す。


「なら同地点5号内下流()。不定魔獣、小型、俊敏。最適解は」


「お前、オレを殺す気か。6号から最短で3号に抜けて、なすり付けられそうな中型を探す。祈る。以上」


 途中端折りやがった。

 まあ重要なのはそこじゃないからいいんだが。


「僕なら最後の最後は水路に飛び込むかな」


「ヤトイ、落ち着いたら泳ぎ教えろよな」


「はいはい」


 水の中は水の中で危険なのだが、最後の手段としては割とアリだ。

 水路に生息する魔物のすべてがすべて、水に適応している種というわけではない。

 先のムシュフシュ型も、水路の深いところに潜れば、おそらく追撃を避けられる。


「なに言ってるのか、全然わからないわ」


 置いてけぼりを食らっているアイネに、パッチワークの布地図の一点を示す。


「アイネ、ここが203番5号の882番6号交点」


 真剣な目で、こくりと頷く。


「で、こう通るのが最短だよね」


「うん」


「それの道を実際に歩いた時にどう見えるかで話したのが、最初のやつ」


 キースの言葉を繰り返しながら、道をゆっくりと指でなぞって見せる。


「次にやったのは、同じ場所で、5号の下流側に魔獣を発見したら、どうやって逃げるかって話。これは色々と条件が付くから、少し難しいね。意地の悪い条件だったし」


「2人って、いつもそういう話してるの?」


「割と?」


「大体いつもこんな感じだな」


 体を鍛え、技を磨き、知識を蓄え、知恵を巡らせる。

 生き延びるための俺たちの日課である。


「他の皆もそんな感じなの?」


「3割ってとこじゃねえか。全体のじゃなくて、やってることの」


「僕は臆病だからね。これくらいやらないと、不安」


 地下水路というのは、かなり限定された環境だ。

 地形にも天候にも変化はなく、時間も固定。立ち寄るべき場所と目的は定められており、魔物を回避しなければ経路すら固定できる。

 変動するのは遭遇する敵と、俺たちの状態くらいなもの。

 殆どの状況は想定できるのである。


 平時からあらゆる状況を想定し、問答を繰り返すことで、意識せずとも最適解を導き出せるよう、思考を矯正している。

 仲間が死に腕がもがれ腹に穴が開き意識が朦朧としていようと、状況から最適な行動を選択するための訓練だ。


 長いこと同じ場所で仕事をしていれば、経験で似たような判断はできるだろう。

 だが俺たちには経験を積んでいる余裕はない。

 加えるなら、平時に行えないことは、極限状態でも行えないという考えが、前提にはある。


「オレたち2人で仕事ができてるのは、この手の訓練のお陰だ」


 キースは断言する。

 俺も断言できる。


 非常時に限らずとも、常日頃からのこの訓練は、魔物を避ける上で役に立っている。

 俺たちは地下で動く時、相談なんてまずしないからな。

 平時に既に相談は済ませているようなもの。思考のすり合わせという意味合いも大きい。


 アイネはむくれている。

 混ざりたいのに混ざれない、というところに、キースがこれができないと仕事にならないみたいなことを言ったからだろう。

 その辺り、アイネは割と子供らしい。


「ヤトイぃ」


「それ、貸してあげるから」


「いいの?」


「キース。他の子供たちと、これで遊んでもらうのはどう?」


 この世界、というかこの街に娯楽は少ない。

 酒と賭博と暴力と性交渉くらいか。


 本はあるが、性格面で審査がある。

 貴重品だからな。雑に扱うような奴は読ませてもらえない。

 なのであんなものでも遊びになり得る。


「先々の役に立つ、か。ならオレたちのやっていた奴も広めたいな」


「僕の名前は、伏せた方がいいよ」


「分かってる。オレにも考えがあるからな」


「アイネ。今日はそろそろ部屋に戻る?」


 地図を食い入るように見ていたので、キースが気にするより先に声をかける。

 自分が見入っていたことに気づいたのだろう、ばつが悪そうな笑みを浮かべた。


「うん。そうする」


 素直にそう答えたアイネは、布地図を丁寧に畳むと、それを抱えて部屋を後にした。


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