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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第3章 『信じる者、信じられぬ者』
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28.覚悟への応え

 暁の空に既に星々の煌めきはなく、天上に君臨する銀と赤の2つの月が、薄く輝く天紋に縁どられ、静かに大地を睥睨している。

 この時間は季節の移り変わりを強く意識する。

 木々の合間を抜けた風が粗末な服を撫でると、少し肌寒い。

 今の仕事ぶりだと、冬用の服も満足に揃えられない、なんてことも有り得るのだろうか。消耗品の類を、もう少し切り詰めた方がよいかもしれない。


「早いよ、ヤトイ」


 脳内で算盤を弾いていると、林道を通ってアイネがやってきた。

 服は仕事着だろうか。ただいつも見るものと比べ、かなり修繕の跡が見える。廃棄される一歩手前といった有様。

 汚れることを想定してのことだろう。よい覚悟だ。


「普段の鍛錬もしてたから」


 仕事で基準となる魔力操作の段階を引き上げたので、そちらの鍛錬はやめた。

 今は上をどうやって安定させるか、より上を目指せないかの実験中。進捗はイマイチ。実用レベルに達するには、かなり時間がかかりそうだ。


「えっと。時間作ってくれてありがと」


「それはいいよ」


 外野の眼を気にすると、必然この時間帯になる。まだ寝ている者の多い早朝。訓練場ではなく、この場所を選んだのにしてもそうだ。


「その荷物は?」


 アイネが肩に掛けた鞄を示す。口からは何かの柄が飛び出している。


「稽古つけてもらった後、そのままじゃ戻れないじゃない。着替えたり、体拭いたり……これ?」


 そうではないのですよお嬢さん。心の声が届いたわけではないだろうが、鞄をおろしその何かを取り出した。


「たまに、他の子との鍛錬で使ってるの」


 袋から出てきたのは鞘に納められた剣だった。

 剣かあ、剣なあ。それも片手剣だわな。


 別に片手剣が悪いわけではない。

 地下では片手に松明やら荷物やらを持ったりするので、片手で扱えるというのは割と重要だ。

 むしろ両手でしか扱えない物の方が、いざと言う時に困る。


 しかし剣はなあ。携行性は優れているんだが。

 求められる役回りからすると、あまり。

 アイネに魔物を倒すことは求めていない。援護に向かうまで生き延びるのが最優先。というかもう、それだけできればいい。


「どうして剣を選んだの?」


「初めて稽古をつけてくれたのが、キースだったのよ」


 それだけで理解した。あいつ剣バカだからな。それしか教えられないものな。

 しかし思えば、クスーラたちも剣だった。7人中5人が剣。訓練場に置いてある武器も、やはり剣が多かった。


 でも剣はいかんだろ。

 以前は傭兵を出してたんだろ。剣に傾倒してたら、いざ戦争って時に困るぞ。

 そんな機会がないのは知っているが。


「鍛錬してる他の子ってのも」


「キースに憧れてる子は多いから。あと、上の人たちって、皆剣を提げてるでしょう」


 剣はステータスなのか。戦闘民族が聞いて呆れるわ。


 どうしたものかと悩んだが、軽く準備運動をさせてから、他の子との鍛錬とやらを見せてもらった。

 アイネの動きはまあ、なんだ。予想通りしか言いようがない。

 キースが年の割におかしいのであるが、アイネはクスーラたちの誰にも及ばない。言ってしまえば素人に毛が生えた程度。穴倉から出た直後の俺にも劣る。


 型はそれなりにできている。キースに教わったことを、必死で反復したのだろう。

 しかしそんなもの、実戦ではさして役に立たない。


「アイネ。暫くキースから教わったこと、忘れてもらうことになるけど、いい?」


「うん。必要なら」


 思ったよりこだわりないのな。もう少し渋るかと思った。

 この子なんか考えが読み切れないんだよな。精進が足りない。


「だってわたし、ヤトイに教わりに来てるのよ?」


 そいつは嬉しいねえ。涙が出そうだ。

 実際に稽古を始めたら、もうそんなことは言ってもらえなくなるのだろうと思うと。

 罵声を浴びせられる覚悟はしておきますよ。


 アイネが快諾してくれたので、遠慮なく用意していた棒を手渡す。

 長さ1.5メートルほどの木の棒である。芯に鉄が入っていて、金具で補強してある。実際、これを木の棒と呼んでいいのかは、正直悩むところだ。


「言っておくけど、まっとうな稽古じゃないよ。今まで、誰かに教えたことなんて、ないから」


 アイネは神妙に頷いている。


「教えるのは、生き残るための心の在り方」


 飾らず言えば、痛みと恐怖に耐える訓練だ。


「やることは簡単。僕の攻撃を耐え続けること。反撃したかったら、してもいいけど。そんな余裕はないと思う」


 俺にを映す濃紺に、疑いの陰など欠片も見えない。

 堪らんねえ、こいつは。逃げ出したくなる。

 ただな、俺も決めたからな。最短で、下で通用するように意識を作り直す。その考えを改める気はない。

 途中で心が折れてしまうかもしれないが、その時はその時である。時間をかけて失敗するのに比べれば、些細な問題だ。


「キースとやる地稽古と、基本的なルールは同じ。加減はするけど、首から上と急所以外で寸止めはしない。痛みに耐えるのも訓練。どこを攻撃するかは伝えるけど、割と本気で打ち込むから」


 俺が使うのも棒である。先から4分の1くらいまで、厚く布を巻いてある。

 まあこんなんでも叩かれれば痛い。人間離れした速度で打ち込むので、それはもう痛い。

 加減はすると言ったが、それでも当たり方が悪ければヒビも入るし折れもする。

 とは言え、黒の民ならそれほど気にすることでもなかろう。


「泣いたくらいじゃ稽古は中断しないよ。本当に無理だと思ったら、止めたいと言うこと」


「む。言わないわ。絶対に言ってあげない」


 なんだか不機嫌そうだ。怒っていらっしゃる?

 また馬鹿にされたと思ったかね。


「そう? まあ、頑張って」


 早々に根を上げられても困る。多少意地を張ってくれる方が都合がいい。

 それでもまあ、今日のところはすぐに仕舞いだろう。

 そんな風に俺は思っていた。


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