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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第3章 『信じる者、信じられぬ者』
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27.アイネの小さな、そして重い誓い

「僕らに必要なのは、暴力なんだよ」


「なら、稽古つけて」


 突き放すように口にした言葉は、しかしアイネになんら痛痒を与えなかった。

 ばかりか、要らぬ糸口を与えてしまったようにすら思える。


「キースに頼めば」


「断られるわ」


「それで僕? キースが断るならダメだよ。それに教えられるほどじゃない」


「教えられるほどじゃない、っていうのは嘘ね」


「……なんで?」


 いや本当に。俺は大したことないぞ。キースに赤点もらったばかりだ。

 それにキース以外の前では、大した運動能力を見せてはいない。

 少しばかり暴力と苦痛に慣れているだけの、凡百で通っているはず。

 鍛錬の時間は、十分に周囲に気を張っている。それすら鍛錬の一環としているくらいだ。

 アイネに覗かれるようなヘマはまずしない。


「キースね。喧嘩試合で成人前の子が相手なら、ほとんど勝てるようになったのよ」


 そんなに強くなってたのか。

 以前改めて聞いた時には、同年代では負けなしという話だった。

 で、それがどうして俺の実力に繋がるのか。


「腕を伸ばし始めたのが、ヤトイと出会ってからなの。最初の頃はそうでもなかったかしら。少しずつ、だったわ。もとからすごい子だったけど。でもね、魔獣騒動から今日まで、本当にすごく変わったのよ。それまでとは全然違うの。それに、あれくらいから2人の様子、変わったでしょう」


 なるほど。日々の稽古は、魔物の相手以外でも効果があったようだな。

 しかしそれでは理由としてはまだ足りない。妄想で終いだ。

 そう結論付けようとしたのだが、アイネの言葉にはまだ先があった。


「……あとね。いくらキースが強くても、2人で仕事をするのは普通じゃできないと思うの。でね、その……、ヤトイは普通じゃないから、もしかしたらって考えたの」


 アイネは窺うような視線で、ちらちらと下から覗いている。


 参ったね。こんな子供に勘付かれるとか。視野狭窄もいいところだ。

 置かれた状況をいかに改善するか、そこに注力しすぎた。改善された結果、それが外にどう見えるかまで考えが及んでいない。これでは片手落ちだ。

 キースに気を取られていたというのもあるか。キースに見放されては、俺のここでの生活は立ち行かなくなるからな。

 優先度としては一番高くもなろうと言うもの。


 しかしまた面倒だ。

 今はまだ、運が良かったということで誤魔化せるだろう。それでも、ヘズコウが言ったほどの猶予はないと思うべき。

 キースは気づいているのかね。

 俺よりも入ってくる情報は多いはず。どこかで確認は必要か。


 アイネの方はさて、どうしたものか。

 口止めしようとすれば、それは肯定しているようなものだ。かといって、放置するのも危うい。


「ご、ごめん。ヤトイ」


「どうしたの?」


「だって、なんか、ヤトイ怖い」


 これは心外だな。そんなことないでしょう。俺って今すごく優しげな顔してると思うし。

 散々失敗しているからな。内面と外面を切り離す訓練はしているのだ。


 にしても、このまま帰すのはマズいな。あることないこと口にしかねない。

 キースが来るまで引き留めて、それからキース使ってなんとかするしかないか。

 その前に、確認すべきところを確認してしまおう。


「この話、誰かとしたことある?」


「してない。他の子たちとも」


「そう。僕への誹謗はいいんだ。でも、妙な噂が広がって、キースにまで累が及ぶと、困る」


 まあこの件について言えば、ほぼ俺の問題だがな。


「もしかして、もうこういう噂、あるの?」


「ううん。わたしは知らない。家の人たちは、キースが調子に乗ってるとか、生意気だとか。あと、その……さっさと失敗しろって。運がいい奴らって」


 ふむ。予想の範疇、か。


「2人は魔物、持ち帰ってないじゃない。だから、本当は魔物を狩ってないんじゃないかって。皆そっちを疑ってる」


「そっか。それも、困ったものだね」


 怪我の功名ではないが、時間稼ぎにはなりそうだ。これはこれで厄介だが、先のものに比べればマシだろう。


「ヤ、ヤトイ。わたし、言わないよ?」


 ん、疑われている? なにかすると思われているのか?

 今ので確信を持たれたのだろうが……。


「わたし、言わないから」


 寝台の上で座り直し、俺の眼を見つめてくる。

 そちらか。なるほど、アイネは俺と交渉がしたいらしい。

 思ったより芯の強い娘だ。使えるかな。信用なんてものは端からする気がないが。


「アイネは、恩義のためにどこまで懸けるの」


「……ねえヤトイ。わたしって、バカにされてるの?」


「いや、してないけど?」


「む。ヤトイこっちに来なさい」


 寝台の上をとんとんと叩いている。

 あっれ、なんかおかしくないか? 攻守逆転してる?

 ちょっと逆らうのが躊躇われたので、大人しく寝台に上がって正座する。

 正対するアイネは、腕を組んで大変ご立腹なご様子。俺は初めて見ますよ、アイネの本当に怒った顔なんて。


「わたし言ったわよね。穴倉に放り込まれるはずだったのを、助けられたって。あそこがどんな場所なのか、ヤトイの方がよく知ってるじゃない。そこから助けられたっていうのは、命を助けられたのと同じなの。なら懸けるのなんて、わたしたちの命に決まってるでしょうが」


 お、おう。なんというかごめんなさいだな。

 俺は祖母を捨てるのは無理かと思っていたよ、さっきの話を聞いて。

 まさか逆だったとは。


「それにヤトイはまるで分かっていないのね。ヤトイのいる班に入るっていうのは、それだけで危ない橋なのよ? お婆ちゃんが上に居られるのは、わたしが黒の家で問題なく働いてるから。ヘズコウさんのとこじゃなかったら、ヤトイの班に入ろうとしただけで切られちゃってるわ」


 ごもっともで。問題児中の問題児というか問題の塊ですからね。

 いや俺ってば、ここの常識まるで分かってなかったのな。キースとヘズコウ相手にまともに会話が成立してたから気づかなかったわ。

 というか、あの2人しかこの世界での物差しがないに近い。

 改めて危機感覚えるな、これ。


「ヤトイはおバカみたいだから、ハッキリ言ってあげる。魂の誇りに誓って、わたしはあなたたちを裏切らない」


 濃紺の瞳が俺を真っ直ぐに射抜いている。

 魂の誇り。輪廻転生のあるこの世界でそれは、時に神の名より重い。

 そんなものを持ち出した挙句、その誓いに俺を並べないで欲しい。

 と言うか、なんで俺まで含めるかね。


「僕をそこに入れない方がいいよ」


「はぁ。だからおバカだって言ってるのよ」


 額を指先で弾かれた。

 本当に、入れない方がよいと思うのだがね。


 世話焼きと評したのは俺だったか。

 使わせてくれると言うなら、その献身、遠慮なく使わせてもらうぞ?

 全力を出せるなら、お荷物の1人くらいどうにかなろう。あとはそのお荷物が、どの程度のお荷物か、であろうが。


「明日。日の出の少し前に、林の水場でやるから」


「わかったわ。それなら、急いで用意して寝ないといけないわね」


 アイネは寝台から飛び降り、靴を足先に適当に引っ掻ける。

 そして「おやすみヤトイ」と言葉を残し、慌ただしく部屋を出て行った。


 ひとり部屋に残された俺は、寝台に仰向けに転がり、闇に陰る天井を眺め深々と息を吐く。

 暴力に慣れていない子供を、手っ取り早く使えるようにする。

 新たな課題を押し付けられた俺の夜は、どうやら長くなりそうだった。


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