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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第3章 『信じる者、信じられぬ者』
23/94

23.新たなる日常の始まり

「仕事に2日使わせろだあ?」


 なに言ってやがんだおめえら。んなもん通るわけねえだろうが。

 そんな言葉が飛び出してきそうな煩わしげな表情で、ヘズコウがキースを睨む。

 左の人差し指が、執務机を不規則に叩いている。


「狩り目的で仕事のねえ日に潜る班も、確かにあるけどなあ」


 不可能ではないらしい。

 煩わしげではなく煩わしいのだろう。この話をされたことが。


 魔獣騒動で見直した部分もあるが、基本的にこのおっさんは怠惰だ。

 面倒は他人に押し付けたがるし、そもそも他人は自分を楽させるために居る、みたいに考えている節がある。

 そのくせ見栄っ張りだから、俺みたいな面倒の塊を、館の主の意向に従って抱え続ける羽目になっている。

 思えば随分と世話になってるんだな、俺はこの冴えないおっさんに。


 感謝はしても、恩義とまでは思わんがね。

 どうせあちらにはあちらの都合があるのだ。

 クスーラたちを見捨てたと伝えて、『黒の家の者としちゃそうじゃねえと困る』と返すような相手が、算盤を弾かぬわけがない。


 得をしているのがヘズコウなのか、はたまた黒の家なのかは知らんよ。

 下手な探りを入れる気もない。

 ただまあ、こういうのは楽でいい。

 利害で動く。理性で判断する。論理的。合理的。実にいい。

 賢い大人というものは、後腐れなく利用できる。

 対して子供ときたら。なんとも度し難い。


「おめえら、そろそろ諦めて、他の下についたらどうだ? 場所手放したくねえなら、迎え入れるって手もあんぞ」


「ヘズコウさん。オレたちを入れてくれる班なんてねえのは、ヘズコウさんが誰よりも詳しいじゃねえですか」


「自分で探したこともねえくせに、なに言ってやがんだ。あいつらだって、おれの紹介だったろう」


「あのざまですけどね」


「おっまえ、こんなん連れて来んのが悪いんだろうが。おめえだけなら上手くやれてたじゃねえか」


「オレとだけじゃ意味ねえでしょう。他の奴らを紹介したって、上手くやれたかどうか」


「くぁー。ガキは気が短くてよくねえ。ほとんどの、とこはなあ。2年とか、3年とかけてまとまんだよ。それを四半期と経たずって、無理があるにもほどがあんだろ」


「それこそ無理ってもんですよ。2年も過ぎる前に、オレたちゃ死体になってますって」


「ならどうすんだ」


 脅すような、それでいてどこか試すような声に、落ちていた視線が上がる。

 ヘズコウの問いに、キースは軽く肩をすくめてみせた。


「しばらくは2人でなんとかしますよ」


「下から引き上げんのは、無理だぞ。分かってんのか?」


「そりゃあ、はい。もちろん」


 そう。もちろん分かっている。俺も、キースも。

 穴倉の子供たちは、暴力に慣れ親しんでいる。即戦力にはならないが、下地はあり、使えるようにするための期間が短くて済む。

 だが、彼らは10歳に満たない子供だ。

 そしてそれは、俺たちも同じ。


 仮成人ですらない子供2人の班など、黒の家でも例がないと聞いた。

 ただでさえ無理を通しているのだ。これ以上の無理を求めれば、班そのものを潰されかねない。


 とは言え、今すぐに打てる手は、俺たちには無い。

 だからこそ、時間を稼ぐために無茶を頼みに来たのである。


3月(みつき)だ。それまで、うるせえ羽虫どもはこっちで黙らせる」


「いいんですか?」


「あん? おめえ、おれの決定に文句でもあるってのか?」


 まったくである。

 ここは素直にヘズコウの配慮を受け取っておくべきところだ。


 魔獣騒動で班が1つも潰れないというのは、それほど多くないことだと、ヘズコウから聞かされていた。

 班が戻らないので偵察隊を送ったら、魔獣が紛れ込んでいた。というパターンが1番多いらしい。

 生存者がいても使い物にならなくなって、班は解散というのも、割とよくあることなのだとか。


 魔獣騒動を経て、俺たちの班の評価はまた上がった。

 人数が減ったので、結果としては、評価もなにもあったものではないのだが。


 ヘズコウはつまるところ、最低限度の仕事ができていれば、取り潰させないと言ってくれているのである。

 取り潰さずに済むなら、ヘズコウとしてもそれが望ましいのだろう。

 それこそ黒の家での評価として。


 評判は底を突きぬけて日々更新中だ。

 見捨てて報告を優先したのも、生き延びたのも、潰されないのもすべてが不満に転じている。


「キース」


 声をかけてから一歩を踏み出し、その隣に並んで頭を下げる。

 つられるようにして、隣でキースも頭を下げた。


「迷惑かけます」「よろしくお願いします」


「……おめえら、少し変わったか?」


「どうですかね」


「へっ。上手くやってるうちは、おれにはどうでもいいこった」


 頭を上げ惚けるキースに、ヘズコウは鼻を鳴らす。

 そして腕を組み椅子に深々と背を預けた。

 用が済んだならとっとと帰れと、手の動きだけで示される。


 俺たちが仕事を増やしたも同然なのだから、邪険にもされよう。

 改めて2人で頭を下げ、踵を返したキースに続いて部屋を後にした。


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