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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第2章 『異物の生存戦略』
19/94

19.避け得ぬ反発

「引き返せだぁ? なに寝ぼけたことほざいてやがる!」


 水路に大声が響く。

 ケビンがキースの胸ぐらを掴み怒鳴ったのだ。

 軽率な行動に眉を顰め、俺は辺りへの警戒を一段と密にする。それこそ、髪の毛の落ちる音すらも聞き逃すまいと心がけて。


「オレはそんな横柄な物言いはしちゃいませんて。ケビン先輩ももうすぐ成人じゃねえですか。他人の話くらいしっかり聞きましょうよ」


 キースは怯んだ様子もなく、ケビンへと冷めた眼を向けている。

 それを不快に感じたのだろう。防毒布の上からでも、ケビンの表情が更に歪んでいくのが分かった。


「地下の様子が妙なんで、一旦退きませんかって提案したんですよ。他の班と情報を共有しちゃどうか、そうも言いましたでしょう」


「働き始めて季節ひとつ跨いでねえ素人が、知った風なことを口にすんじゃねえ」


 ケビンが声を落とす。


「ただまあ、そんな役にも立たねえ目下のする話だろうと、耳を貸すくらいの寛大さは、俺にだって持ち合わせがある。てめえらが責任を負うってんなら、その話、考えてやってもいいぜ」


 耳を貸す? 話を考える?

 たわけたことを抜かす。

 失敗して責任を負わせられている様を、指さして笑いたいだけだろう。

 つーか、責任者の顔を自分たちで潰していくんか。

 クスーラは……、苦い顔してんな。


「ケビン、それだとボクの立場がない」


「ん、そうなのか?」


「そうなの。でもケビンじゃないけど、その話を鵜呑みにして仕事を中断するわけにもいかない。例えばどこが妙だと思ったの?」


 キースは困ったといった様子で視線を落とし、ちらりと俺を見る。


 どこと言われてもな。妙なものは妙としか。

 首を傾げる。

 そう。キースの提案は、俺の胸騒ぎに端を発したものだ。


「おいキース! さっきのはてめえの考えじゃなく、あの印なしの考えだったりすんのか?」


 なっ、気づくかよ。

 なんでこういうことだけ目敏いんだ。気に掛けるべきはそちらではないだろう。

 キースは今にも舌打ちを漏らしそうな表情で押し黙っている。


「引き返したけりゃ、てめえらだけで引き返せばいい。誰も咎めたりしねえよ」


 ケビンがキースから手を離し、馬鹿にするように鼻で嗤う。


「俺たちも、あの目障りな札を目に入れずにすんで清々するってもんだ」


 悪意を感じさせる笑みが眼の端に浮かぶ。

 こいつはまた随分とあからさまな罠である。


 しかし面倒だ。

 引き返してなにもなければ、こいつは勝手に帰ったと報告するだろう。

 残れば残ったで、虚言を弄して仕事を妨げたとでも報告するか。


 ああ、クソッ。

 これだから人間は。

 他人の足を引っ張るようなことにばかり頭が回る。


「先輩がそれでいいってんなら、オレたちは引き返させてもらいます」


「キース?」


「ただ、仕事を放り出したなんて文句つけられても困るんです。なんで、通り道の3号はオレたちで片づけます」


 それから、と続けるキースの親指は、ゆっくりと剣の鍔を撫でている。


「聞くまでもねえことですけど、クスーラ先輩にはついてきてもらえるんすよね」


「いや、ボクはここのまとめ役だから――」


「先輩。ガキのオレらだけで、他の班と話はできねえですよ」


 その声に怒気はなく。ただどこまでも冷え切っている。


「それは……ああ、その通りだよ。なあ、ケビン」


「チッ。悪い、クスーラ」


 ケビンの顔にもはや先程の笑みはない。

 俺を見るのと同じような敵意が、キースを睨む瞳に灯っている。


 俺と行動を共にするせいで、キースには随分と泥を被らせてしまった。

 このままいくと、キースの言葉まで誰も取り合わなくなってしまう。

 どこかで敵意を煽って、憎悪をこちらに寄せておくべきだろう。


 つくづく人とは面倒で厄介な生き物だ。


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