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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第2章 『異物の生存戦略』
18/94

18.不和は静かに根を張る

 魔力操作の修練は、体に対して抱いていた疑問のひとつに、ある種の答えを与えてくれた。

 残念ながら、印なしについてではない。無関係とは言い切れないが。

 聖印のゆらぎに関しても、未だ大きな進展はない。


 答えを得られたのは排泄の喪失、飢餓の果てに腐敗したゴミを食ったあの日、体に生じ今なお続いている、異常の原因である。


 魔力を知覚し、操る。

 その修練の日々は、体内で作用する数多の魔力の流れを自覚させることとなった。


 中にひとつ、食後しばらくして大きく動きを見せる流れがある。

 そいつは、かつて7日に渡って苦しめ続けた痛みのあった場所に、まるで重なるようにして存在している。

 そしてほどなくして、その魔力の流れから全身に向かう、異なる魔力の流れが形成される。

 送られた魔力はその先にある流れに混じり、活性化させる。


 俺の身体は、たぶん、食い物をその最後のひと欠片まで、魔力にして喰らっている。

 最初から、と付くかもしれない。


 生物としてありえない?

 俺もそう思う。

 腹を開いてみたら、あるはずの臓器がなくなっていたり、見知らぬ臓器が当たり前のように鎮座しているのではないか。そんな嫌な想像をしてしまう。


 気づいた直後はこたえたね。

 それまでも人間かと危ぶまれるようなところは多々あったが、異世界ゆえの差ということで片づけてこれた。

 ただこればかりは、元が普通であっただけに、異常として強く意識せざるを得ない。

 わりとすぐに心の中で折り合いはついたのだが。


 そもそもからして、これを俺の体と呼んでいいのかも怪しい。

 元から真っ当ではないという覚悟はしていた。

 最悪の想像では俺は……いやまだ断定するには早いな。

 首輪の上から首の傷を撫でる。


 穴倉の件と今回ので信用はがた落ちだが、代謝はある。

 心臓は動いているし、背も伸びてはいるようだ。肉の方は付きが悪いが。


 まあいいさ。

 そうであろうとなかろうと、俺のやることに違いが生じるわけではないのだから。



 ◇◇◇



 俺の存在が疎ましい同僚の嫌がらせで、望むと望まざるとに関わらず、俺たちは仮成人すら迎えていないというのに、魔物討伐の矢面に立たされることとなった。

 中身は平和ボケした生粋の日本人であった俺だったが、穴倉そして黒の家と、過酷な環境に身を晒さざるを得なかったお陰で、かなり度胸がついた。


 俺は、それ以外の行動が許されていないというのもあるが、他人の倍以上の時間を肉体と知識の研鑽に割り当てている。

 自室の掃除以外の雑務から、遠ざけられているというのも大きい。時間はあった。

 付き合うことの多いキースも、割と訓練漬けの日々だ。


 戦いの技量も、魔力操作を合わせれば、それなりにはなっただろう。

 中型の魔物を相手にしても、そうそう後れを取ることはない。


 ただ、俺たちの戦いぶりが安定するのが、おもしろくない奴らもいる。それが誰かは、あえて言うまでもないだろう。

 近頃は、香の取り換えと荷物運びまでも押し付けられるようになった。

 も、である。


 声の届く距離での作業ではあるが、実質、班を2つに分けて仕事をしているのと同じ。

 クスーラが命の危機を感じて声をかけたのか、それともクスーラにだけ押し付けるのは躊躇われたのか、もう1人こちらの班に加わることも多い。

 そんなことをするくらいなら、大人しくまとまって行動すればいいだろうに。


 ただ、分担して動くようになったことで、作業効率は著しく上がった。

 どれくらい違うのかというと、以前は黒の家に帰る頃には昼食の時間が終わっていて、間食で空腹を満たすしかなかったのに対し、今では昼食が食える。


 荷物持ちを増やしたことで、持ち帰る魔物の数も増えた。

 収入が多く、仕事が早い。担当区域の評価は、俺が入った頃と比べ格段に上がっていた。評判はまあ、底辺に近い。俺が居るからな。


 評価が上がったことに、同僚は鼻高々な様子だった。

 上の覚えが良くなるからだろうが、その評価を支えているのは、負担の半分近くを押し付けられている俺たちだからな。

 仮成人前の子供の仕事を、さも自分たちのものであるかのように振る舞う。もうすぐ成人だろうに、恥ずかしくはないのだろうか。

 俺には理解できない。


 キースには付き合せて悪いなと常々思っている。

 礼は、まだしていない。なんとも言い出し辛くてな。

 謝辞ならいくらでも口にできそうなのだが、求められていないものを押し付けられても、いい気はしないだろう。

 そんな気まずい思いを抱えてはいるが、表には出さず、今日も俺たちは仕事に向かう。


 ◇◇◇



 いくつかある地下へと続く階段から地下1階に下り、蝋燭の灯された石造りの通路を進む。現れた開け放たれた鉄扉を潜り、そのまま真っ直ぐ歩いていくと、見張りのいる扉がある。

 通行証を見せてそこを開けてもらうとともに、持ってきている蝋燭に火をもらう。

 階段を下ると地下2階。長々と続く通路には幾つか扉が見えているが、その大部分は封鎖されている。

 やはり見張りのいる扉があるので、通行証を見せて扉を開けてもらい、その先の階段を下れば目的の地下3階だ。


 ここに来る度、なんとなく地下鉄を思い出す。見た目も造りもそれほど似ている気はしないのだが、通路を進んで階段を下りての繰り返しが、地下鉄を思わせるのだろう。

 階段を下り切った先には短い通路があって、道を塞ぐように鉄扉が設けられている。

 その手前では、壁に掛けられた燭台の灯の下で、7人の年上の少年少女が、思い思いに仕事までの時間を潰していた。


 クスーラ、ケビン、ネリアル、ハルボ、スロイル、ヤッサ、カラパチ。そんな名だったと記憶している。

 どうせ呼びかけることはないので、誰が誰か分かればそれでいい。


 こちらの姿を確認すると、舌打ちや溜め息で不満を示し、装備を整え立ち上がった。

 俺もこの間に、蝋燭から松明に火を移し終えている。


 それにしても、彼らは成長しないな。

 よく毎日飽きもせず、こうも嫌悪感を露わにできるものだ。

 キースを見習うといい。呆れ果てて、嫌味を前にしても表情ひとつ動かない。


 俺たちが最後なのはいつものことだった。他の全員が揃った頃に到着するよう調整している。

 この狭い空間で、顔を付き合せる時間を短くするための心配りだ。

 早くても遅くても文句を聞く羽目になるのなら、その時間は短い方がいい。


 互いに挨拶もなく仕事は始まる。

 彼らの間では打ち合わせをしているのかもしれないが、それをこちらに相談するようなことはない。

 一応、同行することになるクスーラにだけは小さく頭を下げておく。


 鉄扉の先は小部屋、というか短い通路になっており、その先にもう1枚鉄扉がある。

 その2枚目の扉の先に水路が広がっている。

 防衛の点で有利なため、水路へ出入りする場所のひとつとして使われているのだろう。


 1枚目の扉をしっかりと施錠してから、2枚目の扉を開ける。

 周囲に魔物が居ないのを確認してから水路に出る。


 今日は入り口の近くに魔物の気配はしない。

 運が悪いと、扉を開けた途端に隙間から魔物が入り込んでくる。

 魔物が入り込まないように注意しながら扉を閉める。

 そうしてようやく水路の掃除が始まる。


 入り口に面している水路は、割と大きい。それなりの大きさの舟が、すれ違えるくらいの幅がある。

 この水路は3号と呼ばれている。都市で上から3つ目の規格の水路という意味だ。

 正確には411番3号水路という呼称らしい。

 番号が振られていることからも分かるように、複数ある。

 というか、担当区域はそれぞれこの3号に沿って割り当てられている。


 この数字は部屋番号に近い割り振りがされているようで、実際に数百ものこのサイズの水路があるわけではない。

 水路脇の通路も広く取られていて、武器を振るうのには都合がいい。

 反面、天井は高いし水路は深いしで、安全確保に難がある。加えて魔物自体が多い。

 そのためまず近場の5号に入る。そして6号や7号を伝って、1号に至るまでの他の5号の掃除を済ませ、3号を通って入り口まで戻るというやり方をする。


 俺たちは最寄りの香だけ取り換えると、例に洩れず早々に5号へと移動する。

 ただ今日の俺は、この段になって妙な胸騒ぎに心を掻き乱され始めていた。


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