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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第2章 『異物の生存戦略』
16/94

16.初仕事はあまりに空しく

 黒の家にやってきて4日目。早くも俺は現場に駆り出されていた。

 しかも、前日の夜に『おう、おめえら。明日から仕事な』なんて軽いノリで伝えられるという、驚愕の流れで。


 幸いにして仕事で使う装備一式は揃え終えていた。

 おかげで手ぶらで乗り込むなんていう自殺行為はしないで済むのだが、どうにも準備ができたから放り込まれたのではという疑念が拭えない。

 そのことをキースに話せば。


「ヘズコウさんは怠惰で臆病でそれでいて欲深いけど、色々と見てる人だからな」


 なんて、肯定するような言葉を返された。


 そして今日、こうして担当区域の入り口へとやってきたわけなのだが。


「クスーラ先輩、今日は突然ですみません。本当はもう少し色々と準備してから、相談しつつって考えてたんですけど」


 キースが謝罪を述べている相手は、13、4歳の少年だ。

 年の割に落ち着いて見えるその顔には、苦り切った笑みが浮かんでいる。


「ヘズコウさんだろ。その辺りの事情はボクも分かっているつもりだよ。ただね……」


 そう言って、クスーラは背後を半分振り返る。


「ボクじゃみんなを納得させられなかったんだ」


 少し離れたところに、同じ区域を担当することになるのだろう、クスーラと年頃の近い、防毒布で口元を隠した6人の完全武装の少年少女たちがいた。


 ああ、マスクみたいなものはあるらしい。俺たちも持ってきている。

 効果のほどは不明だが、ないよりはマシということだろう。

 ないとよろしくない、ということでもある。


 っと、今は目の前の彼らだ。

 誰も彼もが、友好的とは程遠い視線を俺に向けている。


「なんで俺たちが、糞の闇月野郎なんぞをお守しなきゃならねえんだ」


 集団の真ん中に立つ、気の強そうな少年が口火を切った。


「異端には穴倉がお似合いだったのに、なんで出てくるかな」「それに、黒の家の連中はみんなもう知ってる。そいつ印がない」「印がないなんて気持ち悪い」「そいつ本当に人間なのかよ」「お前バカだろ、人間なら印はあるもんだろ。妖魔にだってあるんだ」「人ですらないなら、魔物と同じだ」「なんでそんな奴と一緒に行動しなきゃならない」「異端は穴倉に帰れ」


 ガキ共が喧しく鳴く。

 状況を理解したところで、俺の存在は容認できない、と。

 まあ分からないでもない。


 けどこれ、仕事の内だろ。

 気に入らないから認めないがまかり通るとしたら、黒の家は頭お花畑の無能集団ということになる。

 それを許しているクスーラは、まとめる立場の者としては失格。


 で、これを俺たちに見せてどうするつもりだ。

 キースの陰からクスーラを窺う。


「地下の掃除はどうしても危険が伴う。背中を預ける相手として、僕は信頼が大切だと思うんだ」


 元から背中を預ける気はないし、誰かを信頼するつもりもないがな。


「こんなまとまらない状態で仕事をしたら、大きな事故を招くかもしれない」


 ふむ。もっともらしいことを言う。


「だからオレたちは帰って、余所に混ぜてもらうように計らってもらえってことですか?」


 キースの声に若干の棘が混ざる。


「ううん。そんな勝手はヘズコウさんだって許さないと思うよ」


「じゃあどうしろと」


「なんとかみんなを説得してもらえないかな。同行だけでもみんなが納得してくれたら、仕事はしているってことになるだろう?」


 なるほど、ね。

 こいつ、ガキ共をろくに説得してねえな。

 始めからキースに投げる気でいやがった。


 闇月の札付きであることも、印なしであることも、厄介に極まる問題だ。

 無理に通そうとすれば、仲間との間に軋轢が生じる。

 だからそれを新入りであり、部外者に近いキースに任せた。

 身内との関係を優先し、保身に走ったのである。


 信頼、よく言う。真っ先にそれを放り捨てたのは、他ならぬ自分であろうに。


「分かりました。元々、迷惑かけちまったのはオレが原因なわけですからね」


 汚れ役を押し付けられた。

 そのことに、果たしてキースは気づいているのか。


「ただ――」


 キンと鍔鳴りが響く。


「時間もないんで荒っぽいやり方になりますけど、構わねえですよね」


 その横顔には、穴倉で見た剣呑さの、片鱗が見て取れた。




 言葉通り、キースの説得は暴力的なものになった。

 力と言っても、権力の方だが。


 始めヘズコウの名前を出したのだが、あれには想像以上に人望がないらしい。

 軽んじられるだけでまるで権威の用を成さなかった。

 仕方なく家の主から直々に仕事の許可を得ていることを持ち出すと、まあ当然のことだがこちらは効果がてき面。

 ボスの決定に文句をつけるのかと脅せば、不満を顔に貼りつけながらも、言葉自体は呑み込むのだった。


 すばらしい信頼関係だ。

 底を突きぬけてマイナスに振り切れている。

 説得ってなんだったかな。


 そうして俺の黒の家での初仕事が始まった。



 ◇◇◇



 俺の初仕事は終わった。


 端折るなって?

 あまりにも虚し過ぎてな。


 実に過激な地下水路見学だった。

 仕事しに行ったのではなかったのかと?

 はは。なにを言われているのか分からんね。


 俺たちは仕事への同行を許されたが、それだけだった。

 お荷物でもお客様でもなく、単なるおまけ。

 この違い分かるかな。

 俺たちにはなにも役割が与えられなかったのだ。

 たち、である。

 集団から少し間を置いて、俺とキースはその後をとことことついていくだけだ。


 権力を盾にしたからか、俺たちの後ろをクスーラが固めることになったのは幸いだった。

 あちらにしてみれば損な役回りだろうが、自業自得である。

 キースは俺が来る前からここの面々と仕事をしていたようだが、今ではそんな過去などなかったかのように扱われている。


 本来俺たちが任せられるはずだった荷物運びは、信用ならないとかで触れることすら許されない。

 香の取り換えまで彼らでやってしまう始末。

 まあ、やらされたらやらされたで、延々と文句を垂れ流されそうなんだが。


 これな、元々は照明かなにかを置くのに使われてたんだろうけど、壁から張り出した台座に置いていくんだわ。

 作業自体は簡単なんだが、位置がちょっと高くてな。俺の背丈だと割と手間取る気がする。


 ちなみに俺の身長は、地球での感覚から言うと120センチメートルに届くか届かないか。

 それでも甘く見れば9歳には見えるらしいから、俺も子供の年齢を背丈で判断する時には、プラス2歳くらいで考えている。


 それにしても至れり尽くせりですね。ここだけ抜き出すと。


 先述の通り、俺たちのやるべき仕事は、彼らが勝手にやってくれている。

 しかしだな、彼らは彼らの仕事を最低限しかやりやがらねえのだ。

 それじゃあ分からないって?

 あいつらにはな、俺たちに流れてくる魔物をどうこうしようって考えもねえんだよ!


 むしろ楽でいいなとか、キースの解説に耳を傾けていられたのも最初だけだった。


 1匹目は香の取り換えを遠目に見ていた時だ。

 ひと抱えもある大きな虫の魔物が天井から落ちてきた。俺たちの傍にではない、あいつらの傍にだ。

 あいつらは武器を構え、香の取り換えを行っている少年との間を隔てるように立ち位置を変え、それだけだった。


 魔物はその前をうろうろした後、少し離れた俺たちの方に向きを変え、飛びかかってきた。

 魔物との遭遇はその前にも2回ほどあったから、近づいてくる魔物に動揺して醜態をさらす、なんてことはなかった。

 キースが素早く動いて斬り伏せたので、そもそも俺は斧を構えただけで一歩も動いていない。


 その後も、ヒルに似た奇怪な大型軟体生物や両生類を彷彿とさせる毛のない中型犬、走り回る肉食淡水魚の群れと目白押し。

 当然、俺たちの後ろにいるクスーラも巻き込まれている。損な役回りとはそういう意味だ。


 この程度の雑魚との遭遇はいつものことなんだそうな。

 雑魚である。1匹1匹は素人の俺でもどうにか退治できる。

 数が多く、潰しても散らしてもまたどこからか移ってくるらしい。


 魔物と言っても小型のものは獣とほとんど変わらない。

 なにが違うのかと問われると答えに困るが、瘴嚢(しょうのう)と呼ばれる器官を持つ個体が多いとはキースから聞いている。

 死ぬと、その中に詰まっている液体が固まって、魔力石という魔法燃料になるんだと。


 俺たちが相手にした雑魚は、瘴嚢が小さい上に、死体から取り出してしまうと消魔結界に触れて魔力石は粉々になってしまう。

 なので基本は仕留めたらそのまま水路に投げ捨てるようにと言われた。

 水の汚染が心配なので、水路には落ちないよう心掛けたい。


 注意しなければならないのは、中型以上の個体。

 特に普段見ないものは危ないとのこと。

 そういうのと遭遇したときには、遠慮なくあいつらになすりつけてやろう。


 そんなこんなで、俺の初仕事は、職場の同僚と溝を深めるだけで終わった。


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