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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第2章 『異物の生存戦略』
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14.仕事とその下準備

 暫くして戻ってきたキースは、手拭いと着替えに加え、パンを湯で溶かした粥を持ってきてくれた。

 真っ先にまだ温かいそれを受け取ると、俺は服を着ることも忘れて口に運び続けた。

 この世界に来て初めて、人間らしい営みを経験した気がした。


 キースに飯と服の礼を述べ、それからヘズコウの執務室へと向かった。


 部屋はまだ用意している途中だった。

 自分たちでやればいいのではと考えを伝えてみたが、お前の仕事はこれじゃないと突っぱねられた。果てにはそんな時間があるなら、自分の仕事についてキースから説明を聞いておけと追い出される。


 そんなこんなで、俺たちは屋敷の敷地内にある訓練場のひとつに来ていた。

 屋外屋内それぞれ複数の施設があるようだが、屋内のもので、多数ある小部屋の中のひとつである。


 訓練場という呼称からは、板張りの道場のようなものを想像しがちだが、どちらかというと相撲の稽古場に近い。

 つまるところ、土間である。木造ではなく組積造、石造りだ。


 別に、訓練場へやってきたことについて疑問はなかった。

 強制居住区(ゲットー)に押し込められている黒の民が担う仕事なんてものが、真っ当なものであるはずがない。

 それに、危険が生じる類ものであることは、館の主とのやりとりから十分に察することができた。


 この世界の環境から考えて、導き出される答えは――。


「魔物退治。地下水路の掃除が、オレたちの仕事だ」


 部屋に備え付けられた訓練用の武器を物色しながら、キースが言う。

 地下水路、とな。


「穴倉にも、出たかもしれない?」


 少し怯えたように言ってみる。


「あそこは封鎖線を2つ間に挟んでいるから、よっぽど小型のものでもなきゃ紛れ込めない。ただ……」


「ただ?」


 キースは手を止めて俺を見た。


「お前があそこに立ち入ることは、もうないはずだから言う。穴倉でも、上の出なら知ってるはずだ。暗黙の了解、って言うんだったか、こういうの」


 やけに歯切れが悪い。

 待てよ、この反応はもしかして。


「あー、つまりだな」


「餌?」


「そうだ」


 眉間には皺が寄っている。


「もしも封鎖線を抜けられた時は、あそこに追い込むことになってる」


 穴倉で仲間云々と言っていたことを思い出す。

 後ろめたいのか。

 俺の件と言い、損をするタイプの性格のようだ。


 穴倉が餌か。得心がいった。

 あの場で生活することが、穴倉の住人の仕事だったわけだ。

 あそこから出ることになった俺には、もう関係のない話だろうが。


 薄情?

 情けなんてものは、余裕のある人間が分け与えるものだ。

 俺にそんな余裕なんてない。

 余っているなら分けて欲しいくらいである。


 俺は視線を落とすにとどめる。

 敵意も憐憫も、この場面ではさして示す必要はない。


「話を戻すぞ。オレたちの仕事は魔物退治だ。けどな、オレたちが魔物を狩るわけじゃない。そっちは一緒に行動する年上の先輩たちがやることになってる」


 じゃあオレたちはなにをする、とキースは問う。


「荷物持ち?」


「半分正解。狩った魔物が金になるやつだったら、それを回収する。で、もう半分がオレたちの本当の仕事。魔物除けの香の取り換えだ」


 バ○サンだな。


 魔物除けの香については、多少知識がある。

 行軍の際に用いられることがあるからだ。

 確か臭い系と魔法系、あとは毒物系があった、はず。


 魔法系は黒の民には使えない。残るは臭いと毒物だが……。

 キースから妙な臭いを感じたことはなかったな。


「後で実物を見せるから、取り換え方をってどうしたヤトイ。なんか顔が変だぞ」


 説明がないってことは、詳しく知らないのか。

 それとも俺が知らない別の系統があるのか。

 藪蛇になるといけないので適当に誤魔化す。


「魔物の回収と香の交換はわかった。ところで、ここに連れてきたのって」


「ああ。ヤトイが使えそうな武器を探すためだ。魔物を倒すのは先輩たちだけど、オレたちが魔物に襲われないとも限らないからな」


 両手を腰に当てて、胸を張って言い切る。なんでそんな偉そうなん?

 妙な所だけ子供っぽい。

 というかキースくん。さっきから君が選んでるのって、すべて剣なんだけど。


「とりあえず、基本的なのは全部出してみた」


 剣のな!


「好きなのから試していいぞ」


 俺、素人なんですけど。素人に剣薦めるか?

 いや子供の記録には剣の扱いもあるにはあるんだが、知識として知ってるのと実際にやるのは別やん。

 手斧とか短槍とか、もっととっつきやすいの使わせてくれませんかね。

 ほら、壁のところに並んでるじゃん。


 視線でアピールしてみたのだが。


「あれはダメだ。お前には似合わん」


 おうふ。前々から気になっていたんだよ俺。

 鍔鳴らしたり柄尻に手を置いたり、鞘をさすったり、割と感情が剣に触れる所作に出るなって。四六時中吊るしてなきゃそうはならんだろ。

 キース、お前そんなに剣が好きだったのか……。


「とりあえずひとつ試してみろよ」


 お前も良さに気づくから。そんな幻聴が聞こえてくるようだ。

 諦めて手頃な直剣を手に取ると、数度軽く振って握りを確かめ、記録を参考に構えてみる。


「お前、素人じゃないな」


 半眼で問われた。


「いやいや。キース、僕だって黒の民なんだよ。大人の訓練くらい見たことあるから」


「なら、やっぱりお前には剣が合うってことだな」


 おいキースや。その詰め方は卑怯だろう。

 そこまでして剣を推すキースに、俺は苦笑いを禁じ得なかった。

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