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俺、凡人。異世界で世界大戦の仕掛け人になる  作者: 風間 秋
第2章 『異物の生存戦略』
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12.黒の家

 黒の家。それは組織の名であり、館の名であった。


 キースに連れられ、俺はその名の元となった館に来ている。

 より厳密には、その上層階の一室。そこで、俺は見覚えのある顔と対面することになった。

 俺を穴倉送りにした2人の片割れ、ちょび髭だ。


 あの小物っぷりとこの外見で、それなりの立場の人間らしい。

 いや、総統というのはそれなりどころではない立場だった。

 これまでに見たこの街の様子からすると、いやこの館の内装からしても、かなり立派な執務室を持っている。


「くぁーっ。よりによっておめえ、こいつを連れてくるか」


「すんません」


 キースが軽く頭を下げるが、まるで悪びれた様子がない。

 俺はといえば、その斜め後ろで肩を丸め小さくなっている。


「うちでこれの扱いがどうなってるのか、知らねえとは言わせねえぞ」


「はい。でも、すでに働いてる奴ら入れてたって、ガキの中でこいつより使える奴なんてほとんどいません」


「使えそうってのはな、はじめ見た時から、おれだって勘付いてんだ」


 ん、そうだったのか?

 罵倒に似た言葉しか聞いてないと思うぞ。


「なら」


「役に立つのかどうか。そこが重要なわけ、わかる?」


「役に、黒の家の?」


「そういうこった」


 ちょび髭が、値踏みするように俺を視る。

 そして忌々しげに顔を顰めた。


「おれの一存じゃ決められねえ。親父の裁可を仰ぐ」


「恩に着ます」


 キースが深々と頭を下げた。俺もそれに倣う。

 ちょび髭は心底嫌そうな顔をして、頭を戻せと手で示す。


「おめえがこれをここに連れてきたって話は、もう上にもいってるだろう」


 長々と盛大に溜息を零し、頭を振る。


「このまま突き返して、おめえが無能と証明するのはな、推薦したおれの沽券に関わるんだよ。ったく、おれとしたことが、とんでもねえ厄札を掴んじまったぜ」


 上手い言い訳でも考えとくんだな。そう言い残してちょび髭は部屋を出ていった。



 ◇◇◇



「――ってなわけでして。これの扱いについて、きちんと親父の考えを聞かせてもらえればと、思ってるんですが」


 館の主の執務室で、俺は緊張に身を強張らせていた。


 俺が立っているのは部屋のほぼ中央。両脇をキースとちょび髭が固めている。

 執務机を挟んで向かい合うのは、穏やかな顔立ちの初老の男。その傍らには、顔に古傷をもつ鋭い目つきの老紳士が控えている。その反対、少し離れた場所では、青年から壮年に切り替わったばかりという年頃の男が、憎悪を宿した瞳を俺に向けている。


「家の中を勝手に歩き回るのを、認めるわけにはいかない」


 温和な風貌に違わぬ落ち着いた声が、感情を読ませぬ語調で告げる。


「オレの下で働かせてもらえればと考えてます」


「てめえ自身、まだ仕事を満足にこなせるようになってなねえのにか」


 ドスの利いた声が空気を震わせる。

 割って入ったのは、壮年の男。キースへ向ける視線にも、なにか濁った感情が混じって見える。


「はい。その方が、家には迷惑が少ないだろうと思いまして」


「てめえで手間を増やしておいて、よく臆面もなく言えるもんだな」


「それは、どうですかね」


 応えるキースは終始、館の主のみを見ている。


「お前の親父はどうしている?」


「毎日飲んだくれてますよ」


「ラーデ・ロムニス随一の剣客も、剣が握れなくなればただの老人か」


 そこに侮蔑の念は感じない。


「親父が恥知らずなら、子供もまた恥知らずってわけだ」


「ダルハ、貴方は口を慎むべきですね。我々は立ち合いを求められただけで、意見は求められていないのですから」


 老紳士が窘める。

 館の主はといえば、ダルハと呼ばれた壮年の男を一瞥したのみ。

 だがそれだけで開きかけた口をダルハは噤んだ。


「お前のそれは、どこまでが親父の入れ知恵だ」


「生きていても死んでいても、札付きの無印(むいん)は厄介者、と」


 それだけかと問うように、主の眼がわずかに細められる。


「どうなれば一番、丸く収まるか」


「なるほど。これは使えそうか?」


 館の主がちょび髭に問いかける。


「へい、あ、いや。キース、おめえ、どうなんだ!」


「たぶん、オレと同じくらいには」


「そうかそうか。……まだ使い物にはならないということだな」


 穏やかな声だった。

 だと言うのに、俺の足はかすかに震える。キースは拳を硬く握り締め、ちょび髭も背筋をぴんと伸ばしている。


「ヘズコウ」


「な、なんでありやしょう」


 声が裏返っている。が、情けないなんて俺には言えない。


「館の隅の部屋を使うといい。あの、鍵の付いた部屋だ。それから、キース(それ)の仕事に無印(むいん)の監督を加えるように。管理はお前に任せる」


「親父!」


「……よろしいんですかい?」


「これが札付きだったのも黒の月の思し召しだろう。なにかあった時に、闇月への手札として使えるかもしれない」


 ただし、と。


「首輪は外してはならない。置くことは認めたが、引き取る気は毛頭ないのだよ。問題があればそれに、役割を果たしてもらう」


 感情の読み取れない瞳が俺に向く。


「小僧、名は」


 知る限りでもっとも丁寧な言葉を選ぶ。


「ヤトイであります」


「ほう。軍隊式か。ここには似合わないが、程度は弁えているようだな」


 しまった。使いどころを誤ったか。

 この分だと、子供の記録にある敬語はあまり使わない方がいいな。

 伝えたいことは伝わったのでよしとするが。


 記録のおかげで会話をするのには困らないのだが、細かいニュアンスまでは理解しきれていない。

 聞く分には問題ない。

 ただ話すとなると勝手が違うのだ。


 そもそも、こちらの世界にやってきてから、言葉を発した回数なんてそれこそ数え切れる程度でしかない。

 練習が必要だろう。


「精々役に立てるよう励むといい。話は終いだ。ダルハ。お前は少し残りなさい」


 退室を促され、キースとヘズコウに両脇を固められたまま部屋を後にする。

 扉が閉まるが早いか、廊下に大きなため息が三つ並んだ。


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