20.
二〇一五年七月三日。今日の気分はぼちぼち。
退院してからも早寝早起きはできないままだけど、以前よりは確実に健康的な生活を送っている。
たまに、薬の副作用が強く出たり、天気によって体調が悪い日もある。そんなときは少し長めに寝ていれば翌日まで引きずるなんてことはない。
今日は広太の親戚が集まって宴会を開催するらしく、おまけ枠で優と参加することになっている。
友達との飲みの場は好きだけど、人の親族となると変に緊張する。
「いーなー!俺も生RAITに会いたい!呼んでよ!」
大々的にドーム公演の告知を出したせいで、"ただの広太の同居人"から"RAITと繋がってる素人"として認識されることもしばしば。
「こーんな根暗な空に会って、俺に会わない理由は!?」
広太の母親の妹の旦那の兄弟の子ども、つまり他人の悪ガキ、陽太はよく喋る。
「ねえ!?俺も会いたい!サインほしい!」
腕にまとわりついてくるのを誰も止めないのは、漏れなく全員が酔っ払っているからだ。
中学生には退屈なんだろう。それは分かるけど、ベタベタされるのは好きじゃない。
「じゃあさ、じゃあさ!RAITのLINE教えてよ!誰にも言わないから!」
中高生の誰にも言わないほど信用ならない言葉はないと思う。
「空の意地悪!ケチ!独り占めとかズルだろ!」
「おい!敬語も使えないクソガキに会わせるわけねえだろ!しばくぞ!」
遠くから広太の声が聞こえて安心した。
「使えるしっ!!親戚に敬語使うとか頭おかしいんじゃねーの!!」
「俺とお前は!他人だ!!!」
酔っているからこんな口調なのではない。
広太はいつでも、誰にでも、これ。
逆に、今まで俺が気を遣われすぎていただけ。
大声でのやりとりに誰も反応していないのがその証拠だ。もはや、この集まりでは名物となりつつあるのかもしれない。
「帰ろ!帰ろ帰ろ。おーい!優!飲み直すぞ」
飲まされすぎて地蔵化した優の肩を揺さぶって、そそくさと撤退を促す広太とアイコンタクトをとった。
鏡堂家専属の運転手に送ってもらい、ダイニングテーブルに項垂れた。
「あんのクソガキ、出禁だろ。普通に失礼」
ベタベタと絡みつくばかりか、Tシャツを引っ張って揺さぶるから首元がよれてしまった。
「中学生ってあんなうるさいか?普通」
「広太はうるさかったよ」
地蔵の優がボソッと毒を吐く。優も鬱憤が溜まっていそうだ。
「俺は、節度あるうるささ」
「今日は高校生組いなかったし寂しかったんじゃない」
眉根を寄せながら優が言う。
「にしても、あの絡み方はやばいだろ」
豪快に缶チューハイを流し込む姿に視界が揺れた。吐きそう。
口元を抑えながら上体を起こすと、広太はすぐに「気分悪い?」と察してくれる。
「ちょっとめまい」
「吐いてこいよ」
RAITとメンケア契約を交わしたからか、元々の観察力なのかは分からない。ちょっとした気分の変化を敏感に感じ取ってくれる。
胃の中のものがなくなるまで吐きながらもどこか呑気だった。
常温の経口補水液を持って、ドア前に立つ広太にはデリカシーというものがないのかもしれない。
「普通、見たくないと思うんだけど」
「俺を普通なんて言葉で表現するのは野暮じゃない?」
確かに広太は変だった、と頷いてスルーした。
気を遣われなくなってから、印象が変わった。
今はただの自信過剰のナルシストだ。
「飲み過ぎた?」
「そんな飲んでない」
吐いてる途中で話しかけないでほしいんだけどな。
「ふーん。これ飲んでさっさと寝ろよ」
しばらく吐き気は治らなかった。




