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友人A  作者: HRK
二〇一三年
18/21

18.




 二〇一四年九月十六日火曜日。本日の空模様は晴れ。


 空を騙して入院させてから数日が経った。主治医の先生によると、空はとても静かに過ごしているのだそう。この調子なら面会を許可できる、と話してくれた。

 早速、講義が終わってから病院へ向かった。

 個室のドアをスライドさせて中の様子を伺う。

 ベッドに横たわる空は窓の外を見ていたけれど、こちらに気付いて目線が合った。

 ほんの数日会わないだけで、どう話していいかわからなくなる。

 力なく向けられた視線は、気分が落ち込んでいるような、でも無感情のような。俺を見ても何も言わなかった。

 「体調、どう?」

 「………」

 やはり怒っているのか、ふいっと視線を外して答えない。罪悪感の火種がボワッと燃え広がるような感覚だ。

 「空、ごめ」

 「久しぶりにアカリの夢を見た」

 つい謝罪の言葉を口にしそうになって、空が遮った。わざと…ではなさそうだった。

 久しぶりに聞く名前に驚いた。夏木あかり、空の元恋人の名前だ。


 「そっか。どんなだった?」

 「すごい笑顔で楽しそうにいろいろ喋ってた」

 場面は高校。放課後の教室。二人きりで他愛無い話をしている様子を、今の自分が遠くから眺めているようだった。しばらくぶりの感覚に心が温かくなったと穏やかな表情で語った。

 「元気にしてるかな」

 普通の会話のようだけど、驚いた。これまでの空の言葉で、人に向けられたものはそう多くない。基本的に他人に無関心だからだと解釈している。

 「そういえば高校卒業から何してるか知らないな。広太、知ってる?」

 なんだろう。今、とても、込み上げてくるものがある。

 窓の外を眺めていた空が、俺を見て微笑んでいる。それだけのことで、俺の心はぼろぼろと音を立てているようだった。

 「どうしてるかな。俺も、知らない…けど、村尾とか、翔也なら、知ってんじゃないかな」

 「えっ、泣いてる?なんで」

 なんでかって、俺が聞きたい。なんでかわからないけど、止まらない。とめどなく込み上げてくる。

 「広太って意外と涙脆いよね。人間味って感じ」

 褒めてるんだかなんなんだか。複雑な思いで空の笑顔を直視できなかった。嬉しくて、泣いている。空に表情がある。それだけのことで。

 

 面会の直後、LINEで村尾に夏木の近況を聞いた。スマホを手にしていたのか、すぐに電話がかかってきた。

 『夏木ちゃんは東京の専門学校に通ってるよ。空が気にしてるの?』

 「夢に出てきたんだって。元気かなって」

 『そっか。夏木ちゃん喜ぶだろうな』

 村尾の「喜ぶ」というセリフに疑問を抱いた。もう何年も前に別れているはずなのに。

 『ほら、あの二人、自然消滅って感じだったでしょ。本当は卒業式で話したかったみたい。夏木ちゃんはまだ、空のこと忘れてないよ』

 そう、自然消滅。そう記憶している。

 空もまだ未練があるのだろうか。

 『それにしても、そっちから連絡くれるなんて嬉しいな。またみんなで集まろうよ』

 いつもと同じように話そうとしているみたいだったけれど、何かを誤魔化すように捲し立てるから態度の違いは明白だった。

 

 家に帰るのとは反対のホームで電車を待つ。RAITとの打ち合わせのために事務所へ行くためだ。

 空の様子を報告したり、ドーム公演の企画を練るのに頻繁に通っている。

 柔らかい表情が戻っていたことを話すとRAITも喜んだ。『本来は優しい子だもんね』と柔和な雰囲気で笑った。女子が見たら心臓が止まるようなキラースマイルだった。

 

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