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友人A  作者: HRK
二〇一三年
17/21

17.




 二〇一四年九月十二日金曜日。本日の空模様は雨。


 RAITの言う通り、医者の診断結果は「要入院」だった。冗談や比喩ではなく、いつ死んでもおかしくないと釘を刺された。

 感情の起伏が大きいのが危険な要因だそう。気が落ちている時は文字通り寝たきりで何もできないけれど、感情が大きく揺れたときには反動で勢い余って飛び降りてしまう可能性まであるという。なんでも出来るような気持ちにさせてしまう今の症状が特に危険だと警鐘を鳴らす。

 「世間では心の病気なんて言われますけどもね、精神疾患っていうのは大体が脳の疾患なんです」

 「これを、本人にはどう伝えたら良いですか」

 「鏡堂さんは、病院に連れてきてくれるだけで良いですよ。薬を変えてみようとか貰いに行こうとか、そんな感じで誘導してもらえたら十分です。連れてくるのが難しければ救急車を呼んでください」

 騙し討ちみたいで気乗りしないが、空のためだと意思を固めた。


 その日のうちに適当に空を連れ出すことに成功した。家で大人しくしていたかったと睨まれた。

 今日は頭痛と倦怠感に悩まされていると言っていた。助手席に座る空の表情は険しい。

 眉間に皺を寄せて、ぎゅっと目を閉じている。

 病院に着いたら、主治医の先生はのらりくらりと嘘をつきながら話を進めていた。

 『どんな薬が合うかを検査したいので一泊してください』

 全く嘘をついているように見えなかったのが、流石のプロだとしか言えない。

 別室へ連れて行かれる空の顔は、全てを見抜いているように冷めていた。罪悪感からくる思い込みかもしれないけれど、胸の奥がズキ、と痛んだ。

 「かなり深刻化しているので、少なくとも一ヶ月以上かかると思っていてください。お薬の過剰摂取が見られるとのことでしたので、今回の入院生活では錠剤ではなく、注射薬や点滴で対応します」

 空に秘密で待機していたRAITにも説明を聞いてもらい、手続きまで済ませてもらった。

 俺にとっては医者の言葉が全部呪文のようだった。

 芸能人御用達の病院なだけあって話が早い。様々な事情で親の承諾が得られない場合も多いのだろう。血の繋がりがないRAITのサインで入院生活が始まった。


 病院を出てからは気を紛らわせるためにか、RAITが仕事の話をした。空がこんなことになっているのに、不謹慎にも楽しく思えた。メンタルケアラーの契約を結び、RAITが思い描くビジョンを聞いた。

 金の話をしたのは、金のなる木だからではなかった。空の将来への不安と期待を込めて、今できる最大限で貯蓄を増やすのが目的だと言う。

 「うつ病の再発率は六十パーセント以上。俺の元を離れたときに、手元に何も残っていなかったらって考えたら、それがどうしようもなく怖いんだ」

 初めて聞いた本音が胸を打つ。そこまで考えていたなんて、想像もしていなかった。

 「広太くんとは、ビジネスの相方を組めると思っていたよ。こういう話好きじゃない?」

 正直かなり楽しくて、既に三時間も経つということが信じられなかった。

 「一緒にやってくれるかい?」

 「もちろん」

 目の奥に霞む空の視線がほんの少し痛む。


 家に帰ると恐ろしいほどの無音に耐えられなかった。久しぶりに優を呼んでたくさん話をした。大学でも会っているけれど、折り入った話はできていなかったから無限に話せるようだった。

 「そんなに悪化してたの」

 「うん。うつ病だけじゃないって、先生が言ってた」

 「辛かっただろうね。本当、誰にも何も言わないから」

 「でも、今も苦しんでるかも。騙されたって気付いたらさ。空もさ、入院って言われたのになんも言わねぇの。なんで何も言わねぇんだよ。こっちは騙してんだぞ」

 「一時的なものだよ。症状が落ち着いたら空のためだったって分かるはず」

 「そうだといいけど…」

 この日は俺の気が済むまで話し続けたのに、空と喧嘩する夢を見て、頭を抱えた。

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