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友人A  作者: HRK
二〇一三年
16/21

16.



 二〇一四年九月十日水曜日。本日の空模様は曇り。


 俺は気付いた。昨夜の出来事を相談できる人がいないということに。

 「俺に相談されても、一般人よ」

 大学の食堂で龍人と二人。医学部を目指していたという龍人になら少しでも状況が伝わるのではないかと思ったのだが…。

 「それに、精神科は目指してないし。かかりつけ医に言うしかなくない?」

 一般人としてもっともな意見だった。

 「で?今日は置いてきて大丈夫だったん」

 「わからない。朝は普通で、なんなら謝ってきたし…、念のため、薬は俺が預かってるからオーバードーズすることはない。でも、どうしよう、包丁とかコードとか、そういうのも回収するべきかな」

 物騒な考えが次々と浮かんでしまう。

 「確かに。手段を奪われたら何するかわかんねぇよな」

 「そこは嘘でも否定しろよ」

 「は?めんどくさ」

 

 かかりつけ医に行くよりも先に事情を話すべき人がいる。大学終わりに直接、電車で都心部まで出た。

 家で待つ空の状態も心配だけど…とにかく先にRAITに相談しなければならない。

 受付で名前を言えば通させてもらえるように手配されている。入館証をゲートに翳してエレベーターでRAITのいる部屋へ行く。

 「やぁ、広太くん。どうかした?」

 とても整理されているとは言えない、あらゆる書類が乱雑に置かれたRAITの事務所で、RAITはパソコン操作をしながら顔を上げた。

 「急にすみません。実は、空のことで相談があって」

 「ちょっと片付けるね。コーヒー飲む?」

 「あ、いや、大丈夫です」

 仕事の邪魔はしたくないから散らかったまま話し始めることにした。

 なるべく起こったことをそのまま話した。判断が濁るから、感情などは入れない方がいい。

 話しながら少し整頓された机に、ブラックコーヒーを置いてくれる。俺がホットコーヒーを好きでいることを知ってか、氷は入っていない。

 「うん、よく分かった。確かに、かかりつけ医に相談するのが良いだろうね。自分じゃ正しい判断もできないだろうから、お医者さんにドクターストップかけてもらって、バイトも仕事も全部休ませよう。何もしないが特効薬って言うし」

 アイスコーヒーを飲みながら、的確に判断を下す。落胆している印象はなく、冷静に分析しているようだった。

 「それから、空のメンタルケアラーってところについては、広太くんに医者になれって言ってるわけじゃなくてね。あくまでもレポートラインとしてお願いしたかっただけなんだ。今日みたいに。俺が広太くんに求めるのは治癒じゃなくて情報共有。俺が常に一緒にいられたらいいんだけど…そういうわけにはいかないし」

 真意を知ってホッとした。素人にはどうすることもできないのは誰もが分かっていることなのだ。

 「確実に治すには長期入院が良いんだけど、多分嫌がるよね。そうしたら、広太くんには負担をかけてしまうことになるけど、スマホとか、テレビとかをね取り上げることになると思うから、文字通りのレポートライン役をしてほしいんだけど、どうかな」

 「それは全然良いけど…空って本当にドームに立つの?」

 「うん。必ず。空が自分の口でやりたくないと言わない限りは」

 「そっか。あいつがどう思ってるか、俺には分からないけど、初めてステージに立った空を見た時、思ったんだ。めちゃくちゃかっこいいって。すっげぇ楽しそうで、心の底から良かったって」

 「また、見たいよね。あの笑顔」

 純粋に空の笑顔のためにやってくれているのなら、どれだけ嬉しいことか。

 金のためにやっていると思える発言はまだ腑に落ちていない。人の考えていることなんて、半分も分からないのだ。


 電車に乗る前に空のかかりつけ医に電話をかけた。緊迫した様子で「すぐに連れてくるように」と言われた。

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