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四十四 オレはまた死ぬのか?

 そして時は、ベリンダがスコットを殴り飛ばした直後へと舞い戻る。


 渾身の一撃を喰らったスコットは、たまらず吹き飛ばされてしまった。

 背にしていた古い教室の扉を突き破り、その奥へと転がり込んでいく。


 バキバキバキッ……! と建物の構造体が壊れる、嫌な音が大きく響いた。


 ふうーーー……、と深く息を吐き出したベリンダに、横合いから声がかけられる。


「ベリンダ様! そこにいらっしゃるのですか!?」


 アリソンだった。

 どうやら今の扉をぶっ倒した音で、こちらの居場所を把握したらしい。


 まるで壁のように立ち塞がる黒い炎の向こう、アリソンがこちらに駆け寄ってくるのが薄らと見えた。


「ご無事ですか、ベリンダ様!」

「おー。大丈夫大丈夫」


 ベリンダが返事をすると、彼女は明らかにホッとした様子で溜息をつく。

 しかし燃え盛る旧校舎内では事態は一刻を争うと考えたのか、彼女は彼我の間に壁のように立ちはだかる炎に向けて両手を開いた。


「待っててください。今、そっちに行きますから」


 何かは分からないが、どうやらアリソンたちはこの黒い炎に対抗する手段を持っているようだ。

 ならばこちらも無理はせずに彼女らの到着を待つか……と、ベリンダがそう考えたところで


 バリバリバリィッ! と。

 まるで雷の落ちるような、大きな音が辺りに響き渡る。


 一体何が、と身構えるベリンダの体の上が、次の瞬間、大きな影が倒れ込んできた。


「なっ……にぃ!?」


 まさかスコットの新手の黒魔法か!? と身構えるベリンダであったが、どうやら違う。


 先ほど聞こえた落雷のような音は、炎の熱気や、スコットの衝突の勢いに耐えきれなかった柱の一本が、ついに折れてしまった音のようだった。

 バランスを失ったその柱は、周りの壁を巻き込みながら、バキバキバキッと音を立ててベリンダに向かって倒れてくる。


「ぐっ……せっかくアイツをぶっ飛ばしたってえのに……こんなところで……っ!」


 壁ごと倒れてくる柱は、黒い炎をまとっている。いくら叩いても消えない、魔力を帯びた炎……。

 あんなものに押し潰されようものなら、ただでは済むまい。

 下敷きになった挙げ句に、炎で焼かれる想像をするだけで、ベリンダは総毛立つ思いだった。


「避け……いやっ、だめだ! 間に合わねえ!」


 スコットをぶっ飛ばし、アリソンと合流できたことで、気が緩んでいたのがいけなかった。

 完全に油断して臨戦態勢を解いてしまっていたベリンダは、体勢も悪く、退避行動が一切とれない。

 消火に気をとられていたアリソンとドウェインも、あっと口を大きく開けた体勢のまま動くことができなかった。


 万事休すか、とベリンダが目を眇めた、その直後。


「ベリンダ!!」


 甲高い女性の悲鳴が、響き渡った。


 かと思うと、アリソンたちとの間に生じていた炎の壁を、まるで弾丸のように何かがすっ飛んでくる。


 いや。


 何か、ではなかった。


 誰か、だった。


「……は?」


 ばさり、とスカートを翻し。

 ふわふわと波打つブロンドの髪を振り乱し。

 なりふり構わずすっ飛んできたその影の正体は。


「……ローザリヤ?」


 悪役令嬢、ローザリヤ・ロービンソンだった。


 彼女は、消火の済んでいない炎の壁を強引に走って突破してきたかと思うと、そのままの勢いでベリンダの元まで突っ込んでくる。

 そして彼女は。


「……柱風情がッ!」


 慣れない運動に顔をしかめつつ、あまりにも不格好に、両手をまっすぐに伸ばして。


「このわたくしの友人に傷つけようなどとッ!」


 決意の籠もった表情で、今まさにベリンダに襲いかかろうとしている柱に取りつくと。


「百年早いんですのよ! このあんぽんたん!!」


 黒い炎で燃え盛る柱を、伸ばした両手で、思いっきり突き飛ばしたのだった。

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