四十一 どうしたお前ら!?
対峙しながら、ベリンダとスコットは声のした方へと目を向ける。
そして、ぎょっと目を見開いたのは、ベリンダの方であった。
「あ、アリソンじゃねえか!?」
燃え広がった黒い炎に分断された廊下の向こうに、アリソンがこちらに駆けてくるのが見えた。
「!? 今の声は、ベリンダ様ですね!? どちらにいらっしゃるのですか!?」
炎に巻かれないよう身を低くして慎重に動いているらしい彼女は、まだこちらの姿を見つけられていないようであった。
ベリンダたちとアリソンの間には、炎に炙られて剥がれ落ちた天井材が積み重なり、視界を遮る壁が出来てしまっているせいだろう。
「おい嬢ちゃん! まだ無事か!? 生きてるか!?」
轟々と燃え盛る炎の壁のせいで見づらいが、どうやらアリソンの後ろにドウェインの姿もあるらしい。
彼がアリソンをここまで案内してきたということか。
ベリンダとスコットは互いに互いを牽制しつつ炎から逃れるため、旧校舎の奥まったところまで移動してしまっている。
そのためドウェインも、ベリンダたちの居所が掴めずにいるのだろう。
「ア、アネゴーーー! アッー! ドコッスカーーーー!?」
さらには、ローザリヤのペットのインコ、……いや、ヤンスも心配して飛んできてくれたようであった。
自らの舎弟の必死な声に、ベリンダは我知らず口元を緩ませる。
「……ったく。焼き鳥になっちまってもしらねーぞ」
しかし。
そんなベリンダの反応に反して、スコットの表情は冷ややかなものであった。
「……くだらないな」
「アン?」
ベリンダが視線を向けると、スコットがやれやれと肩を竦めて溜息をついた。
「こんなところに無力な輩がこぞって集まってきたところで、何になる? どちらにしろ、俺の黒魔法への手立てがないのは変わらないじゃないか」
もっとも……と、続けてスコットは鋭い視線を炎の向こうへと差し向ける。
「俺のこの秘密を知る者が増えれば、それだけ記憶操作を行わないといけない対象は増える。手間が増えるだけ、嫌がらせにはなっているかもしれないがな?」
「ヘッ。嫌がらせ上等じゃねえか」
「なに?」
「喧嘩の常套手段はな……。相手の嫌がることを、率先して突っつくことなんだぜ?」
「……面倒だな」
スコットは苛立ったように呟くと、おもむろに炎の向こうのアリソンたちに右手を差し向けた。
それを見たベリンダはさっと表情を険しくする。
「なにを……」
「このまま火の手が強くなれば……火事場に取り残されてしまった者たちの、不幸な事故として処理されるかもしれないな」
「テメッ……」
炎の幕の向こうにいるアリソンたちは、未だこちら側のベリンダたちに気付いていない。
スコットが不意打ちをすれば、為す術もなくやられてしまうだろう。
「ざっけんな……! やらせっかよ!」
ベリンダは慌てて床を蹴りつけ、スコットへと駆け寄っていく。
……無論。
自身の目的の達成のみを冷徹に狙うスコットではあるが、決して彼は快楽殺人者などではない。
必要でなければ、無駄に被害者を生み出すことなど、彼の本意では無かった。
だから敢えて駆けつけた者たちに危害を加えるような言い方をしたのは、ベリンダに対するブラフ。
危機感を募らせて一直線に駆けてくるベリンダの動きは、直情的で、あまりにも読みやすい。
後は、避けきれないタイミングで辺りの炎を彼女に巻き付ければ、それで終わりだ。
さしもの不良少女も、炎に巻かれてまで意地を張るまい。
そうすれば適当なところで解放し、黒魔法による記憶処理を施す。
ベリンダは決して軽くない火傷を負うだろうが、彼の目的のためならば必要な犠牲であった。
スコットの描いたプランは完璧。
ベリンダが駆けてくるのを背後に感じながら、タイミングを見計らい、黒い魔力を練り上げる。
すべては完璧だった。
彼女の声が、耳に飛び込んでくる、その時までは。
「ベリンダぁぁああああ!!」
その声を耳にした瞬間。
スコットがピクリと動きを止めた。
大きく目を見開いた彼は、炎の向こうをマジマジと見やり。
信じられないとでもいうふうに、たった今聞こえてきた声の主の名前を呟いた。
「……ローザリヤ?」
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