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二十二 オレにも暴れさせろよ?

「クルッポォーーッ! クルルルッポォオオオオッ!」

「な、なんですの!? こら、バカインコ! 騒ぐのをやめなさいな……っていうかそれ、インコじゃなくってハトの鳴き声じゃありませんこと!?」

「クルッポコー! アネゴー!」


 やかましく騒ぎ立てるインコことヤンスを見上げながら、ベリンダはニヤリと不敵な笑みを見せた。


「へへっ……安心しろよ、ヤンス。オレだって、お前からこの魔法演武披露会のイベントのことを教えられてから、ちゃーんと考えてきたんだぜえ?」

「ポ……!?」


 そう。

 アイマホ未プレイの彼女ではあるが、命がかかっている状況とあって、ヤンスからすでにこの日に起きるであろうイベントの詳細はすでに教えて貰っていた。

 あのスコットとかいう野郎が、アリソンの秘めたる魔力を目的に、魔法武道とやらの試合に誘ってくるというストーリー展開も。

 そしてその結果、アリソンとスコットが距離を縮めていくこととなり、それがローザリヤの反感を買うという事実も。

 そんなスコットルートのストーリーを知った上で、どのように立ち回ってゲームとは違う展開へと持ち込んでいくか。


 ベリンダが導いた答えは、単純明快である。


 アリソンの代わりに、オレが試合に参加すりゃあいいじゃあねえか!


 ……魔法の素養があるとかないとかそれ以前に、魔法を使ったことも一切無いベリンダである。

 そんな彼女が魔法武道に挑んだとて、勝負として成り立つのか?

 と、そんな疑問を抱くような、軟弱な思考の女ではベリンダはなかった。


 むしろ今の彼女は……この状況を、ひどく楽しんでしまっている。


「やっべえぜ……! あんな、ゲームみてーに火を操ったり水を操ったりするヤツとバトれるとか……マジで、格ゲーみてーだぜ!」


 右の拳を雄々しく左の手のひらに叩きつける彼女は、すっかりやる気満々だ。


 ベリンダは乙女ゲームに対する造詣こそまったく無いのだが、ゲームセンターに置いてある格ゲーは好んで遊んでいたのである。

 そんな彼女が、あんなど派手なバトルを目の前で見せつけられたら!

 しかも、それに模擬戦として自分も参加していいと言われたら!


 日和って手ェ挙げねえヤツなんて、いねえよなぁ!!?


 張り切ってステージ上を睨み付けるベリンダに対し、隣で見守っていたアリソンが興奮した様子で声をかけた。


「す、すごいですベリンダ様っ! 本当にあの生徒会役員の方々に、挑戦するおつもりなんですか!?」

「おう! 久しぶりの喧嘩だ、拳が疼くぜ!」

「ケンカジャネーッス!」


 何かを根本的に履き違えてそうなベリンダの発言に、思わずヤンスがツッコんだ。

 そんなヤンスに対し、鋭い犬歯を剥き出しにしたベリンダが、顔を寄せて囁く。


「へっ、何騒いでんだか知らねーけどよ。安心しろってヤンス」

「は……?」

「オレがアリソンの代わりに飛び込んでって、ふたりの仲を邪魔すりゃあ、それだけでゲームとは別の展開になるだろ? だったら、何にも考えねーでオレが特攻(ぶっこみ)かけりゃあ、そんだけでオールオッケーってワケじゃあねえか!」

「違ッ、姉御……! 今は状況が……!」

「どうしたのよインコ? えっ……、もしかしてアナタ、ベリンダと喋ってる……!?」

「ンナワケネーッスヨー! コンニチワ! コンニチワ!」


 ローザリヤから疑惑を向けられたヤンスは慌ててインコの振りをするが、内心では大パニックであった。


 確かにベリンダの言うとおり、ここでアリソンの代わりに彼女が模擬戦に参加すれば、ゲームとはシナリオが変わる。

 だが、この世界ではアリソンとスコットのシナリオそのものが、すでに破綻してしまっているのだ。

 なのに、本来起こりえないはずの展開が、なぜかそのまま進んでしまっているこの世界は、やはりどこかがおかしい。間違っている。


 嫌な予感に苛まれながらも、しかしインコであるヤンスには、この状況を引き留めることはできなかった。


「おっし。んじゃあ、ちょっくら行ってくらあ!」

「はいっ! ベリンダ様、ここから応援してますねっ!」

「ちょっとベリンダ! 本当に行くつもりなの!? 変ね、あの子ったら、こんな悪目立ちするようなことに手を挙げるような子だったかしら……?」


 アリソンからの声援とローザリヤの疑念の背に受けながら、ベリンダはステージへと歩み寄る。

 手前に設けられていた階段をのっしのっしと登っていくと、そこではスコットとドウェインが待っていた。


 赤い髪を逆立たせたドウェインは、太くハッキリとした眉の下の瞳を微かに見張りながら、意気揚々と壇上に上がってくる少女を見やる。


「……おいおい、マジかよ。本当に手ぇ挙げるヤツがいるとはな」


 ドウェインがこの模擬戦の話をスコットから聞かされたのは、魔法演武披露会の開催直前のことであった。

 スコットは王太子ということもあってか、急な無茶を生徒会メンバーに振ることは、実はそう珍しいことではない。

 そのためドウェインも、今回もスコットお坊ちゃまの気まぐれが発動した程度にしか思っていなかった。

 それに、自慢ではないがスコットとドウェイン、ふたりの魔法演武は学外のセレモニーで披露することもあるほどに、レベルの高い演武である。

 いかに模擬戦とはいえ、その高度な魔法演武を目の当たりにした直後とあっては、入学したての後輩たちでは萎縮して自ら挑戦してくる者などいるはずもない、と高をくくっていた部分もあった。


 ドウェインは傍らで涼しげな笑みを浮かべるスコットに顔を寄せると、ひそひそと小さな声で尋ねる。


「殿下。マジでこうなることを読んでやがったんですかい?」

「いや? まさか本当に自ら飛び込んでくるとは思わなかったな」

「はあ?」

「かたちだけ自主参加を募った後、こちら側から彼女を指名する腹づもりだったのだが……ふふっ。昨日といい今回といい、彼女は度々この俺を驚かせてくれるな」


 表情には出さないままに、クツクツと笑い出すスコットに、ドウェインは若干引いたように顔を青ざめさせた。


「……まあ、新入生で遊ぶのもほどほどにしといてくださいよ」

「何を言っているんだ、ドウェイン。遊ぶのはお前の方だぞ」

「は?」

「彼女と模擬戦をするのは、お前だ」

「なんだと!? 聞いてねえっすよオイ!?」

「言ってないからな」


 さらりと言ったスコットは、ドウェインの抗議の声を黙殺すると、ステージ上に歩み寄ってきたベリンダに目を向けた。


 そこにいるのは、薄緑色した髪を左右ひとつずつお下げにしている、ごくありふれた見た目の女の子である。

 長袖のブレザー越しに覗く手のひらはぷくぷくとやわらかそうで、その容姿も全体的にややぽっちゃりとした印象を受けた。


 ドウェインの目から見ても、こんな女の子が魔法武道で挑んでくること自体、ひどく似つかわしくないように思える。

 どちらかといえば、女友達とお茶菓子囲んでアフタヌーンティーとかを楽しむタイプの女の子だろう、コイツは。


 スコットは恭しく胸元に手を添えて礼を執りながら、目の前に現れたベリンダに声をかけた。


「模擬戦への立候補ありがとう。これでイベントが無事成立して、こちらとしても嬉しいよ」

「礼なんていいっての。こっちもおもしろそーなことに参加できてありがてーくれーだぜ」


 遠慮の一切感じられないベリンダの発言に、スコットの背後でドウェインが目を剥いた。


 オイオイオイ……!

 一応まだ学生の身分とはいえ、そこにいんのは王太子殿下だぞ……!?

 もうちょいなんというか、言葉遣いなんとかなんねーのかオイ!?


 ……もっとも、ドウェインも言葉遣いに関しては、どっちもどっちなところではあるのだが。


 と、冷や冷やするドウェインではあるが、当のスコットは大して気にした様子も無くベリンダと接している。


「模擬戦の前に、先に謝っておこう。昨日は大変な失礼をしたね」

「昨日? ああ、池でローザリヤ嬢と口論してた時のことか。別に構いやしねーよ、あれくれー。お嬢も温室でぬくぬくしてるだけじゃなくて、たまには痛い目みといた方がいいだろ」

「フフ。相変わらずキミはおもしろいね。ローザリヤがこういうタイプの子を傍に置いていたとは、知らなかったよ」


 スコットはそう言いつつ、ステージの下を見やった。

 そこに集まっている新入生たちの中には、こちらをハラハラとした表情で見上げるローザリヤの姿もある。


 ローザリヤは伯爵家令嬢であり、物心つくよりも以前から王太子であるスコットとの婚約が決まっていた。

 自らの人生に一片の翳りも感じたことなど無いだろうローザリヤは、常に傲岸不遜で下品な笑みを浮かべてばかりいたように思う。

 少なくとも、スコットの記憶の中では、そうだった。


 ……あんな顔もできたのか、ローザリヤは。


 自らの婚約者の、今までに見たことの無い表情を覗き見たスコットは、何を思うのだろうか。

 その真意を周りに悟らせぬまま、スコットは貼り付けたような笑顔を浮かべてベリンダに言う。


「それではさっそくだが、魔法武道について説明をさせてもらうよ」

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