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二十 ヤベー! カッケー! バトルじゃん!

「新入生の皆さん! 聖ファービランス魔法学園へ入学おめでとうございます!」


 リーアムがフルートの演奏を終えると、ステージ中央に立つスコットが高らかに声を張り上げた。

 拡声器のようなものを使っているわけでもないのに、彼の声はやたらハッキリと耳に届く。

 もしかすると、これもまた魔法を用いているのかもしれない。


「本日はささやかではありますが、我々生徒会が魔法演武披露会を催させていただきます。皆さんがこれから習得していく魔法の技術を組み込んだ、独自の演武です。皆さんの晴れやかな未来を祈りつつ、これを私たちからの入学祝いに替えさせていただきます」


 よどみなくサラサラと言葉を紡ぐ姿は、王太子である彼が、人前に出ることにすっかり慣れていることを感じさせた。


 簡潔に挨拶を終えると、フルートを携えたリーアムがステージを降りていく。

 後に残されたスコットと、赤毛のドウェインが、ステージ上で3メートルほどの距離を置いて対峙した。


 ステージは広々としており、バスケットコート一面分ほどはあるだろう。

 いくら演武とはいえ、ステージ上に残ったのはふたりだけ。

 これでは少し広すぎるんじゃねえのか、とベリンダは思ったのだが。


()ァ!!」

「うおっ」


 ドウェインのあげた雄叫びに、ベリンダが小さく声を漏らす。

 そして、ステージ上では驚きの光景が広がっていた。

 3メートルの距離を置いて対峙していたスコットの目前に、ドウェインがわずか1歩の踏み込みだけで迫っている。

 およそ人間業とは思えない。だが、周りの新入生たちは、特別驚いた様子も無く、楽しげにステージを見やっていた。


 そうか、とベリンダは気がつく。


 これはただの演武ではない。

 魔法演武、なのだ。


(セイ)ッ!!」


 一歩でスコットに迫ったドウェインが、雄叫びをあげながら右手を突き出す。

 驚くことにその右手は、ゴオオッ、と激しい炎に包まれていた。

 直撃すればひとたまりもなさそうな一撃が迫り来る中、スコットは軽く右手を差し出す。

 するとその手のひらから、ドウェインの業火をかき消す勢いの水が噴き出てきたのだった。


「うおっ!?」


 と、ベリンダは興奮の声を漏らす。


 ドウェインの右手を包む火炎を水で鎮火したスコットは、生身の拳を軽くいなしてみせた。

 そしてそこからは、互いに魔法の応酬である。

 ドウェインの放つ業火と、それに応じるかたちで噴き上がるスコットの水流。

 魔法は巧みに操られているようで、火や水が新入生たちの見守る客席を襲うようなこともなかった。


 スコットは高い波にサーフィンのように身を躍らせると、ステージ上空高くへ飛び上がる。

 ドウェインもまた突発的な炎の魔法で小さな爆発を繰り出し、応えるように上空へと向かって言った。


 演舞というからには、恐らくその動きの仔細に至るまで、事前に決められているのだろう。

 だがそんな計算を一切感じさせることのない迫力あるぶつかり合いは、彼らの魔法の技術の高さを否応なく感じさせたのだった。


(セイ)ッ!!」

()ァ!!」


 ステージ上、所狭しと飛び回るふたりの演舞は、およそ十分ほどにも及び、そして唐突に幕切れた。

 あちこちを魔法によって転々としていたふたりは、最後の最後、再びステージの中央まで戻ってきている。


 ふたりは最後に、互いに魔法を用いない生身の拳を繰り出し合っていた。

 互いの拳はそれぞれの前髪を軽く揺らすほどのところで寸止めされ、そこでふたりは動きをピタリと制止する。


 そしてゆっくりと拳を下ろすと、ふたりは客席に向き直って礼をした。


 それまで、知らず息を飲みステージ上に魅入っていた新入生たちは、そこでようやく思い出したかのように歓声を上げる。

 パチパチと拍手を打ち鳴らし、指笛を鳴らす者まであった。


「うおーーーーっ! すっげーーーな!」


 中でも一層、声を張り上げて両手を叩いているのは、他でもないベリンダである。

 手のひらが痛くなるんじゃないかと心配になるほど、バッチンバッチンと強く拍手をしていた。


 そんな彼女の隣に並んで、アリソンが嬉しそうに声をかける。


「すごかったですね! ベリンダ様!」

「おう! マジでヤバかったぜ!」

「ちょっとベリンダ! 気持ちは分かるけれど、そんな大きな音を立てて拍手するの、恥ずかしいからおやめなさいな!」


 取り巻きの興奮っぷりに思わずローザリヤが苦言を呈するが、ベリンダはほとんど聞いてはいなかった。


 これまでとは打って変わって瞳を輝かせた彼女は、フンフン鼻息を荒くしつつステージ上を見やっている。


 やべーーーーーー!

 なんだよなんだよ!

 乙女ゲーがどうとか小難しいこと言ってたけど、ゲームの世界めっちゃヤベーじゃん!


 ベリンダは乙女ゲームなどの恋愛SLGには興味が無く、まったく知識が無い。

 しかしその一方で、ゲームに一切興味が無い、というわけでもないのだ。

 喧嘩っ早く他校の不良との諍いも絶えない彼女は、ゲームセンターなどに置いてある格闘ゲームでもよく遊んでいたのである。

 そんな彼女にとって、たった今の魔法演武は……さながらゲームの中から飛び出したかのような(実際にはベリンダがゲームの中に飛び込んでいるのだが)ド派手なバトルとして目に映っていた。


 コイツはヤベえぜ!

 オレも真面目に魔法の勉強したら、あんな超能力バトルみてーなことができるよーになんのかな!


「ローザリヤ嬢!」

「様をつけなさい。で、なによ?」

「オレ、魔法を真面目に勉強する気になってきたぜ!」

「ああ、そう。それは良かったけれど、じゃあ今までは真面目に勉強する気が無かったの……?」


 無かった。


 と、ベリンダが異様に興奮していることを除けば、魔法演武披露会は滞りなく進んでいるといってよかった。

 ベリンダもすっかり満足して、こりゃあ明日からの魔法の授業が楽しみだぜ……! と鼻息を鳴らした、のだが。


 彼女もすっかり忘れているようだが、この魔法演武披露会は、乙女ゲーム『愛は魔法の奇跡』のイベントなのだ。

 つまりはこの後、アリソンやローザリヤにとって、ゲームの攻略に関わる出来事が待ち受けているということである。


 果たして、魔法演武を終えたばかりのスコットは。

 その口元に爽やかな微笑みを湛えて、新入生の見上げる広場を見やった。


「さて、新入生の皆さん」


 未だざわめきの残る広場の中で、スコットが口を開いた。

 すると、水を打ったようにその場は静かになる。

 それほどまでに彼の声はよく響き、そして人を惹きつけるカリスマ性に溢れていた。


「今、見て頂いたものが、我が校に伝統的に伝わる魔法演武です」


 スコットは決して、話す言葉それ自体が優れているというわけではない。

 だが、その息遣いや紡ぐ言葉のテンポなどが、いちいち観衆にとって印象的に響く。

 意図しているのか天性のものか、彼の語る言葉のリズムそれ自体が、人々にとっては強く興味を惹かれる独特の雰囲気に満ちていたのだった。


「一見すると、難しい魔法の数々の応酬に見えたでしょうか。ですが我々生徒会役員も、あなた方新入生と一年しか年が変わりません。そして魔法もまた、この学園で学ぶことができているように、全ては基礎的な理論の積み重ねといえます。つまりは今の魔法演武も、ひとつひとつの動きを解体していけば、決して難しいものではないのです」


 スコットはそう言うものの、彼ら生徒会役員は、魔法の成績が特に優秀な生徒たちによって構成されている。

 なので彼がさらりと言うほど、“決して難しいものではない”という言葉を鵜呑みに出来るような者はいなかった。


 ……あれほどの魔法を、私が、僕が、使うことなど……。

 本当に、できるようになるのだろうか?


 そう不安に翳った表情を浮かべる新入生たちを眺めて、スコットは口元にやわらかな笑みを浮かべて見せた。


「そこで、どうでしょう。ここにいる皆さんと同じ新入生の方々で、我々生徒会に挑戦してみたい、という方はいらっしゃいませんか?」


 唐突に告げられた彼の言葉に、新入生たちはざわりと動揺を見せた。

 生徒会に挑戦する? 新入生が? それは、一体……?


「今、我々が披露したものは、始めから型の決まっている魔法演武です。ですが私が言っているのはそのような演武ではなく、実際に互いに魔法を駆使して攻め合い、魔法武道勝負を行うというもの。もちろん互いの安全に配慮した模擬戦ではありますが……」


 捕捉するように告げられた言葉は、しかし一層彼らに動揺を与えるばかりであった。


 生徒会役員と魔法で勝負?

 アレだけの高度な魔法演武を見せられた上で、まだ魔法について学び始めたばかりの新入生が?

 そんなの、挑戦するだけで無謀と言わざるを得ないだろう。


 ザワザワと騒がしくなってきた新入生を前にして、状況を見守っていたドウェインは、隣のスコットにこっそりと耳打ちをした。


「おいおい、やっぱり無茶だぜ。新入生たち、ビビっちまってんじゃねえか」

「誰も手を挙げないというのならば、今年の新入生はその程度ということさ」


 スコットは涼やかな笑みを浮かべたままで、冷徹に言葉を返した。


「それに俺にも、考えがある。まあ、見ていたまえ」

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