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十九 魔法演武披露会が始まるぜ

「魔法演武披露会というものは、その代の生徒会役員の方々が、新入生に向けて行う、歓迎の催し物ですわ。基本的には自由参加ですけれど、この集まり具合を見るに、ほとんどの新入生が顔を出しているのではないかしら?」


 言われて周りを見てみれば、広場には百人ほどの学生たちが集まっているようだった。

 中には、教室内で見かけた覚えのある顔も、いくらか混じっている。


「魔法演武は、その名が示すとおり、魔法と武芸を組み合わせたパフォーマンスですわね。魔法を修めていくこの学園ならではといってよいですわ。毎年特に秀でた成績を持つ者だけが籍を置くことを許される生徒会役員が行うとあって、魔法の面でも芸術の面でもそのレベルが非常に高いと、学外でも評判なんですのよ。分かったかしら?」


 説明を終えたローザリヤが尋ねると、ベリンダが何か言うよりも前に、アリソンが口を開いた。


「失礼ですね。別に言われなくたって、最初から知ってましたよ」

「分かってなかったから説明したんじゃない!」

「アレはベリンダ様なりのジョークに決まってるじゃないですか。ねっ、ベリンダ様っ」

「おうともよ」

「貴女、ずいぶんと自信満々で嘘つくのね!?」


 ローザリヤが叫んだ次の瞬間、どこからかフルートの音色が聞こえてきた。

 木の枝の上を雀がステップを踏み、跳ねているかのような、軽やかな音色。

 春のそよ風のような涼やかさと力強い伸びやかさを兼ね備えた笛の音は、あっという間に広場に集まった学生たちの意識を惹きつけた。


 ローザリヤを始め、ザワザワと言葉を交わしていた新入生たちが、徐々に口を噤んでいく。

 その間にもフルートの音色は鳴り続けていたが、未だステージの上は無人であった。


 だが、奏でられる曲が盛り上がりを見せていき、そのボルテージが最高潮に達した瞬間。


 ボウッ……! と、無人であったステージ上に、火の手が上がった。

 突然の発火に、最前列にいた学生たちが驚き、小さく悲鳴を上げる。


 何だ何だと身構える学生たちだったが、炎は次の瞬間には小さく萎んで消えてしまった。

 そして炎が消え去ったステージ上。

 先ほどまでは無人だったはずのそこに、今は、三人の男性の姿があった。


「スコット! ドウェイン! リーアム! ククルルルゥゥゥゥウウウウウ!」


 と、ローザリヤの肩にとまったヤンスが興奮しながら叫ぶ。


 ヤンスが叫んだ3つの名前。

 ベリンダは、それがヤンスから教えられていた、この魔法演武披露会のイベントに登場するはずのキャラクターの名前であることを思い出した。

 そして彼らが、このゲームの世界における主人公・アリソンの攻略対象となっていることも。


 ステージ上の彼らはいずれもブレザー姿であり、彼らが魔法演武披露会の主催者である生徒会役員たちなのだろうと察せられる。


 向かって左手側に立っているのは、マスタード色をした髪に軽くパーマを当てている少年だ。

 名前は、リーアム・リッチー。

 傷ひとつない銀製のフルートを口元に添えており、先ほどから辺りに響いている演奏は彼によるものだったようである。

 背丈は低く、体つきも華奢で、ズボンの制服を着ていなければ女子と見紛うほどの麗しい見た目の持ち主である。

 穏やかな柳眉の下の瞳は物憂げに細められ、小鼻のキュッと締まったスマートな鼻が特徴的だ。

 肌の色は透き通るように白く、女子でさえもうっとりと溜息をついてしまうような儚げな美しさが感じられる。


 そしてひとりを挟んで反対側、向かって右側に立っているのは燃えるような真っ赤な髪を短く刈り上げた、ワイルドな印象を与える男子だった。

 名前は、ドウェイン・ドレイク。

 ギラギラとした熱を帯びた瞳で広場を睥睨する様子は、今年の新入生たちを値踏みしているようにも見えた。

 鼻は高く、ニヤリと笑みを浮かべた唇も厚い。

 ハッキリとした目鼻立ちは見る者を強く惹きつけるような、カリスマ性を帯びていた。

 腕を組み、堂々と仁王立ちするその立ち姿からも、彼の自信のみなぎる様子が感じられる。


 そんなふたりの真ん中に立っているのは、濃紺の髪を短く刈った、背の高い少年だ。

 彼の姿を視界に捉えると、ベリンダは「おや」と気がつく。


 フレームの細い眼鏡を掛けた細面は、鋭く研がれたナイフのような冷たさを感じさせた。

 有無を言わせずこちらを従えるような迫力と、迂闊に触れることを許さない高貴さを兼ね備えている。

 閉じていた目をゆっくりと開くと、眼鏡のレンズ越しにコバルトブルーの瞳があらわになった。


 ふと一瞬、ベリンダは彼と目が合ったような感覚を覚える。

 しかしこれだけの新入生が集まっているのだから、単なる偶然だろう、と思い直した。


 この世界の知識に疎いベリンダだが、生徒会メンバーで唯一、彼だけは見覚えがあった。


 彼の名は、スコット・スペーシアウッド。

 その地位は、王太子殿下……つまりは、この国の次期王位継承者となると目されている。


 ベリンダが彼に見覚えがあるのは、ひとえにこの世界に来てから、すでに一度会ったことがあるからだった。

 いつ会ったのかと思い返してみれば、そう。

 それは昨日、ベリンダがアリソンのロケットペンダントを拾うために、庭園の池に飛び込んだ時。

 その場に偶然居合わせ、悪役令嬢のローザリヤを糾弾し、しかしベリンダ自身がその罪を庇ったことから結果的に身を引くこととなったあの男だ。


「……アリソンの攻略対象だったのか」


 リーアムの奏でるフルートの旋律を耳にしながら、ベリンダはそう独り言ちた。


 まあ、オレとはもう、直接関わることもねーだろーけどな。

 などと気楽に構えていたベリンダは、それきり興味を失ったようにそっぽを向いてしまう。


 だから彼女は、気がつくことはなかったのだ。


 王太子殿下であり、ローザリヤの婚約者であり、アリソンの攻略対象でもあるスコットが。

 ジッとベリンダの方を注視するように、切れ長の瞳の視線を、演奏の続く間彼女に向け続けていたことを……。

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