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十六 アリソンからのお誘いだ

 放課後を告げる無駄に荘厳な鐘が、聖ファービランス魔法学園の校舎内に鳴り響く。


「だー。疲っかれたぜ」

「お疲れっす姉御」


 ベリンダが椅子の背もたれにぐったりと体を預けながら溜息をつくと、ヤンスがねぎらうように彼女の頭を突っついた。


 なにせ彼女にとっては、初めての魔法学園での授業である。

 まだ入学したばかりの時期であるせいか、実際に魔法を扱わせてもらうようなことはなかったものの、それでも非常に気疲れした1日であった。


「つーか、1日しっかり授業に参加するのも、ずいぶん久しぶりだな」

「姉御は学校に来ても、屋上でサボってることが多かったっすからね」

「みんなが授業受けてる中、屋上で日向ぼっこしながら昼寝するのは格別だったな。あー、この魔法学園じゃあ、屋根のてっぺんが尖ってるとこばっかで、昼寝できそうな屋上なんか無さそうだけどよ」

「ゴシック建築でよく見かける“尖塔”ってやつっすね。まあどっちにしろ、令嬢が授業サボって昼寝してたらダメっす。ていうかそんなことより、この後っすからね。ちゃんと覚えてるっすか?」

「へいへい、分かってるって」


 ベリンダがダルそうに手を軽く振ると、ヤンスは心配そうにクルクルと喉を鳴らした。


 と、そんなふうにふたりがやりとりをしている席に、たたたっと軽やかな足音が近付いてくる。


「ベリンダ様っ」

「おー、アリソンじゃねーか」


 カバンの取っ手を両手で握っているアリソンは、ベリンダの前で立ち止まると、「あのっ」と弾むような声で尋ねてきた。


「ベリンダ様っ。今日の放課後、お時間ありませんか?」

「放課後?」

「はいっ。もしよろしければ、あたしベリンダ様と一緒に行きたいところがあるんですっ」


 この質問を耳にしたベリンダは、「おっ」と小さく声を漏らした。


「行きたいとこって、もしかして魔法演武披露会のことか?」

「ご存じでしたか? さすがはベリンダ様ですっ」


 ニッコリと明るい笑みを浮かべる様子から、アリソンの目的は“魔法演武披露会”とやらで間違いないらしい。


 アリソンは「さすが」と褒めているが、ベリンダがその“魔法演武披露会”のことを知っていたのは、頭の上にとまって毛繕いをしているヤンスのおかげであった。


 ……ゲームのシナリオ通りなら、今日の放課後にイベントが起こるはずっす。


 今日の昼間、ベリンダはヤンスからそう教わっていた。

 そしてそのヤンスの言っていた、“今日の放課後に起こるイベント”こそ、アリソンの言う“魔法演武披露会”なのである。


 ゲームのシナリオにおいて、魔法演武披露会でのイベントは、今後のストーリー展開にも大きな影響を与えるほど重要なものになっているという。

 このイベントで初登場となる攻略対象キャラクターも何人かいるということもあって、プレイヤーにとっては「ここから本格的にゲームが始まる」といっても過言ではないのだそうだ。


 なので、ゲーム通りに進む展開を避けたいのであれば、その“魔法演武披露会”にアリソンを参加させないのが一番ということになる。

 の、だが……。


「なあ、もしよかったら、その魔法演武披露会ってやつじゃなくって、もっと他の……」

「あたし、今日の魔法演武披露会のこと、すっごく楽しみにしていたんです!」

「そ、そうなのか?」

「はいっ!」


 さりげなくイベントに行かせないように誘導しかけたベリンダの言葉を遮るように、アリソンは前のめりになって口を開いた。


「なにせ今日の魔法演武披露会は、ここ聖ファービランス魔法学園の中でも、特に優れた魔法の技術を持つ生徒たちだけが所属している、生徒会主催のイベントですから! これから魔法を学んでいく者として、先輩方の魔法演武を見られるのは貴重な機会ですからね!」

「お、おう……」

「しかも今年の生徒会メンバーは、歴代の中でも特に成績優秀な方々が集まっていると聞きます! それだけ魔法演武の質も高いものになっているでしょうし、きっと素晴らしいものが見られると思いますよ! ああ、今から胸がドキドキして、すっごく楽しみです!」


 鼻息荒く熱弁するアリソンを見て、ベリンダは内心頭を抱えてしまった。


 魔法演武披露会にアリソンが参加すれば、ゲームのシナリオ通りに物語が展開してしまう可能性が高い。

 ということはつまり、攻略対象の男子たちとの仲を深めたアリソンに嫉妬し、ローザリヤが悪の道に落ちる可能性が高まるということでもあるのだ。


 なのでベリンダたちにとっては、アリソンが魔法演武披露会に参加しないのが一番安全ではある。


 ……とは言ってもなあ。

 と、ベリンダは内心で頭をかかえる羽目になった。


 アリソンがこうもキラキラとした瞳で、憧れの気持ちを熱弁する様子を目の辺りにすると……ベリンダの説得程度では、簡単に引き留めることなどできそうにない。


 ……とすると、仕方ねえ。

 どっちにしろ、逃げるのはオレの性に合わなかったからな。

 こうなりゃとことん、イベントとやらに付き合ってやろうじゃねえか。


 ベリンダは、そう、頭の内で覚悟を決めた。

 彼女はイベントから逃げるのではなく……むしろ、敢えて踏み込んでいくことで、状況を打開する方向へと舵を切ることにする。


「そっか。アリソンはそんなに魔法演武披露会、楽しみにしてたのか」

「はいっ。ですので、もしベリンダ様がよければ、あたしといっしょに……」

「ああ、もちろんだ。一緒に行こうぜ!」

「い、いいんですか!」


 イベントからは、逃げない。

 むしろアリソンと一緒に乗り込むことで、これからベリンダやローザリヤにとって不利になる状況を覆す。


 ベリンダは攻めの判断を下すと、ニッと笑みを浮かべてアリソンに言った。


「ちょうどオレも、お前と一緒に行きてーなと思ってたところだったからな!」

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