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十五 作戦会議は重要だろ?

「精霊歴478年……それまで自然界のマナを取り込むかたちでの魔法の行使が主だった中で、かの有名なヴォーダル・ヴォスピニオスが魔力を固形物として凝固させ、保存する手法を確立します。またこの際にエルペリデンス・エレクノガトロン4世が後援となり研究を続けていたことを快く思わなかったルピリスタス派から、政治的な介入が発生することとなります。これが“ルピリスタスの矛”と呼ばれる政変に繋がることとなるのですが、次のページにあります通り……」


 壮齢の女性が教卓に立ち、教科書を読み上げている。

 どうやら魔法の成り立ちについての、歴史の授業らしい。

 ただでさえ魔法について理解が薄いのに、その上遠い過去の魔法使いたちの話を聞かされても、ベリンダにはちんぷんかんぷんであった。


 周りが教師の言葉に頷き、板書を書き取る中、ベリンダはノートを広げてすらいない。


 テーブルに頬杖をついたベリンダが、堪えきれずに「くぁ……」とあくびをすると、その薄緑の髪のてっぺんをコツンと叩く者があった。


「姉御。ちゃんと聞いてないと、先生から叱られるっすよ」


 ベリンダの頭の上にとまっている、インコである。

 インコは周りに聞こえない程度のささやき声で、自らのとまっている頭に向かって話しかけてきた。


「ベリンダはきちんとした家柄の娘っすから。授業態度があんまり悪いと、怪しまれるっす」

「っせーな。分かってるよ、ヤンス」


 と、ベリンダもまた、ささやき声を返した。


「つっても、こーも意味分かんねー話を延々聞かされてたんじゃあ、さすがに退屈だぜ」


 彼女はそう言いながら、溜息をつく。


「んなことより、ヤンス。お前、オレんとこに飛んできたからには、なんか話があったんじゃねーの?」

「そうだったすね」


 ヤンスはベリンダの頭にとまったまま、教室内をぐるりと見渡す。


 教室前方では、結局アリソンとローザリヤ、それからエレンが仲良く(?)並んで授業を受けている背中が見えた。

 教室後方にいるふたりのささやき声が届くことはないだろう。


 それを確認したヤンスは、再びベリンダに声をかけた。


「姉御。昨日した話っすけど、覚えてるっすか? うまいことベリンダとして生活はできてるっすか?」

「ああ。入れ替わったことが周りにバレたらまずいって話だろ? ……まあ、なんとも言えねーけどよ。とりあえずあのメイドさんにはバレてねーはずだ。何しろ昨晩はほとんど気絶しっぱなしだったし、今朝は今朝で慌ただしかったしな」

「なら、よかったっす。せっかくウチが持ってるゲーム知識を活かしていくためにも、なるたけこの世界と『アイマホ』本編とのズレは少なくしておくに越したことはないっすからね」

「おうよ、任しときな」


 と、ベリンダは自らのふくよかな胸を、ぽよんと叩いてみせる。

 その不思議な動きに、隣に座る女子生徒が不思議そうに小首を傾げたが……すぐに意識を授業の方に戻したらしく、それ以上なにか追及されることはなかった。


「……なんだかウチ、不安っす」

「なんでだよ。現に、アリソンとローザリヤ嬢にだってバレてねーぞ」

「でも、不審には思われてる気がするっす。くれぐれも、ベリンダらしい行動をお願いするっすよ」

「わーってるって」


 その返事に納得したわけでもないだろうが、ヤンスはひとつ頷いてから本題を切り出した。


「実は姉御にしたかった話っていうのはなんすけどね」

「おう」

「ゲームのシナリオ通りなら、今日の放課後にイベントが起こるはずっす」

「イベント?」

「っす」


 ヤンスはベリンダに対し、「要するに、ゲームの展開を左右するような大きな出来事が発生するってことっす」と噛み砕いて説明をした。


「そのイベントでは、アリソンはもちろん、悪役令嬢のローザリヤも関わってくるっす。なので、ここでゲームのシナリオ通りに話が進んでしまうと……」

「ローザリヤの破滅を防ぐための計画が、いきなりつまずいちまうってことか」

「そうなるっす」


 ベリンダは頬杖をついたまま、前方のローザリヤのキラキラしたプラチナブロンドの後頭部を見やった。


 悪役とはいえ令嬢である彼女。

 授業態度は良いようである。


 姿勢正しく椅子に座り、魔法の歴史を紐解く女史をまっすぐに見つめては、頷きながら板書をノートに書きとめているようだった。

 なかなかに理想的な学生といえるだろう。

 少なくとも、頬杖ついてインコと駄弁ってるベリンダとは雲泥の差だ。


「んで? 今日の放課後、何が起こるってんだよ」

「それはっすね……」


 歴史の授業にすっかり興味を失ったベリンダは、頭の上のインコとこそこそ会話を再開する。

 状況によっては命すら関わる彼女にとって、魔法にまつわる過去の出来事よりも、自身にまつわる未来の出来事の方がよほど重要なのだった。

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