十一 悪役令嬢ローザリヤああああ!?
ローザリヤ・ロービンソン。
その名前を聞いて、さしものベリンダもピクリと反応を示した。
「……あのローザリヤ嬢だな」
脳裏にチラつくのは、あのきらきらふわふわの、プラチナブロンドの長い髪。
忘れようにも忘れられまい。
ベリンダにとっては、この世界に来て初めて出会ったキャラクターだ。
その上、高慢ちきでプライドが高く、ワガママで自分勝手なキャラクターはインパクトも絶大である。
「なあヤンス。確かお前は、あのローザリヤ嬢の失墜に巻き込まれて、オレが死ぬって言ってたよな。どういうことだ?」
「はいっす。ローザリヤはゲームの中で、主人公のライバルキャラとして、攻略対象との恋の成就を阻む恋敵、……いわゆる悪役令嬢として登場するっす。分かりやすく悪役の立ち回りをするローザリヤは、様々な理由からアリソンを深く憎んでおり、手段を選ばず色んな嫌がらせをしてくるようになるんす」
「ふてえ野郎だ。今度会ったらとっちめてやろうか」
「この世界でのローザリヤは、まだアリソンのロケットペンダント投げ捨てただけっすけどね」
「とっちめるには十分すぎる理由だろが」
「まあ、それはそうっすけど。……で、そのローザリヤがアリソンを憎む理由は、攻略シナリオによって微妙にちょっとずつ違ったりするんすけど、大枠としては、魔法学園首席の座を奪われことや、自らの想い人を横から奪われたため、となっていることが多いっす」
「ビックリするぐらい自分本位じゃねえか」
「悪役令嬢っすからね。ローザリヤはありとあらゆる手段を用いてアリソンの失脚を狙い続けるわけなんすけど、無事にアリソンが攻略対象との恋の成就まで辿り着くと、それまでの彼女の悪事の限りが明るみに出ることになるんす」
「ほう。ざまあねえな」
「で、その“ありとあらゆる手段を用いて”の部分が、ローザリヤを失脚させる最大の要因になるわけっすね」
「なんだ? 半グレどもに頼って力を借りたとかか?」
「……誠に遺憾ではあるんすけど、当たらずとも遠からずっすね。ただしローザリヤが頼るのは半グレではなく……“黒魔法”っす」
「黒、魔法。グレーどころか真っ黒ってか」
ベリンダがぼそりと呟き返すと、ヤンスは「っす」と頷いた。
「黒魔法は、通常この学園で学ぶような魔法とは異なるもので、人に害を成す非常に危険な魔法なんす。たとえば、対象となる相手の精神状態に干渉したりとか、魔力を暴走させたりとか、通常魔法に邪悪な効果を付与させたりとか、みたいなやつっすね。生じた魔力に黒いオーラをまとうことから、“黒魔法”と呼ばれているっす」
「そんな怪しげな魔法に、ローザリヤ嬢が手を出すと?」
「そうっす。禁じられている分、効果は尋常じゃないっすからね。ヘタすれば魔法学園がまるごとぶっ潰れかねないような、大がかりな黒魔法を仕掛けようとするエピソードもあるっす」
「そいつは豪快だな。いっそ清々しいくらいの悪女じゃねーか」
「黒魔法は使用そのものはもちろんのこと、研究対象とすることすら厳しく制限されている禁術っす。それを行使したことが明らかになったローザリヤは、異端審問会にかけられ、処刑されることになるんす。失墜した自らの現実を受け入れられず、最後の最後まで『わたくしは違う!』『これは誰かの陰謀ですわ!』と叫びながら最期の時を迎えるラストシーンは、マジでトラウマ級だったっすよ」
「マジかよ。あのキラキラしたイケメンばっか出てくるゲーム、そんなやべーことになるのかよ」
「で……ローザリヤの処刑に際して、彼女の取り巻きとして行動を共にしていたふたりの少女たちも、黒魔法関与の疑いありとして、一緒に処刑されることになるんす」
「ほう、そいつは気の毒にな」
「その取り巻きの少女に当たるのが、今の姉御っすね」
「なんでだよ!?」
突然自分が処刑されたことに驚いて、ベリンダは大きく目を見開いた。
彼女は、ゲーム中の展開を淡々と黒板に書き込んでいるヤンスの首根っこを掴むと、強引にこちらを振り返らせた。
「ようやくオレが登場したかと思ったら、即処刑されてんじゃねーか! それも完全に巻き添えで!」
「そ、そもそも今の姉御……ベリンダ・ベルというキャラクターは、ローザリヤの取り巻きBでしかないんす!」
「Aですらねーのかよ!」
「台詞に関しても、アリソン相手に取り巻きAのエレンがなにか文句を言った後『そーよそーよ!』って言ったりするのくらいしか無いっす」
「セリフ1個しかねーじゃねーか!」
「なんなら原作だと立ち絵も無いので、キャラクターデザインもアニメ化に際してようやく明らかになったぐらいっすから」
「そんなどーでもいいヤツに生まれ変わった挙げ句、ローザリヤ嬢の暴走に巻き込まれて死ぬことになんのかよオレは!?」
ベリンダは頭を抱えると、「ぬあああああ!」と激しく呻き声をあげた。
彼女の手から解放されたヤンスは、乱れた羽を嘴で繕いながら言う。
「ので、姉御がこの世界で生き残れるかどうかは、何はなくともローザリヤの動向にかかってるってことになるっすね」
「あ、あの高慢ちき女に、オレの命が左右されてるってぇーのかよ……!」
ベリンダの脳裏が、ローザリヤがオーッホッホッホッホ!と他人事のように高笑いをしている様子が浮かび上がる。
クソッ! 人の気も知らねえで……!
しかし、もしもこの世界がゲームのシナリオ通りに進んでいき、アリソンが男の子たちと恋を育み、ローザリヤの嫉妬心に火をつけてしまった場合。
そしてその悪意が白日の下にさらされ、ローザリヤが処刑となってしまった場合。
ベリンダは、ただ彼女の取り巻きのひとりだからという、それだけの理由で、巻き添えを食らってしまう。
となるならば、ベリンダのやるべき事は明確だ。
とにもかくにも、ローザリヤを悪事に手を染めさせないこと。
つまりは、ゲームのシナリオ通りに物事が運んでしまうのを避けること、だ。
「つーこたあ、アリソンがその攻略対象? とかいう男どもと仲良くしてたら、要注意っつーことだな」
「そうっすね。とにかくローザリヤを刺激しないに越したことはないと思うっす」
「なるほどな……」
ベリンダはそう頷きつつ、そこでハッと気がつき、顔を上げた。
「つーかオレ、その攻略対象とかいう男のことも知らねーぞ。誰がアリソンに近付いてきたら、警戒すりゃいいのか分からねー」
「そっすね。ではお次はいよいよ、『アイマホ』が誇る超イケメン攻略対象キャラクターたちのご紹介をば……」
と、ヤンスがイケメンの解説を行うべく、嬉々として嘴の端を吊り上げた、その時だった。
コンコン、と、寮室の扉が軽くノックされる。
続けて、「ベリンダお嬢様? お戻りになられているのですか?」と、若い女性のものと思われる声が扉の向こうから聞こえてきたのだった。
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