十 『愛は魔法の奇跡』だとよ
乙女ゲーム『愛は魔法の奇跡』とは!!!!!
乙女ゲーム好きの間でここ数年一気にその評価が高まっているゲームブランド、“オトメビウス”によって制作された、恋愛シミュレーションゲームである。
大まかなストーリーとしては、異世界に存在する聖ファービランス魔法学園を舞台に、プレイヤーの操る主人公の女の子が、様々なイケメン男子達と交流していく……というものだ。
メインシナリオは『繰れないの一族』『キミとハモ☆るん!?』などで、その軽妙かつ大胆なストーリー捌きが評価されている小清水まりも氏が担当。
平穏で楽しげな日常パートに反して、クライマックスで主人公たちに襲いかかるシリアス展開というシナリオの二面性は、今作でも健在だ。
登場キャラクターたちは、女性向けジャンルで人気を博するイラストレーター、宮森ぎょうざ氏によってデザインされている。
個性豊かなキャラクターたちはいずれもファン層が厚く、「どの攻略対象がいちばんかっこいいか?」という話題では、度々論争が起こるほどであった。
さらにこの作品、オトメビウスがかつて制作し、その名を乙女ゲーファンたちに知らしめた傑作にして怪作『鬼の啼く夜に・・・』と、世界観を共有しているのである。
そのため、予告なく“おになく”のキャラクターが端役として登場したことで、流れ弾を喰らったおになくファンが続出する有様であった。
目下注目度上昇中のブランドによる最新作ということもあって、コミカライズやアニメ化などメディアミックスも多方面に広がっている。
隠れた名作が多いと言われるオトメビウスブランドの中にあって、『愛は魔法の奇跡』はついに“隠れていない名作”として世の中に受け入れられることとなった。
そう。
つまり『愛は魔法の奇跡』は、今や乙女ゲーファンのみならず、多数のゲーマーを虜にしている、今もっとも熱い乙女ゲーム作品、なのである!!!
「へー。そーなのかよ」
「って、姉御! なんすかその気のない相づち! これだけ言って、まだ乙女ゲーに興味が湧かないというんすか!?」
「いや、だって別にオレ、恋愛とか興味ねーもん。それよりゲーセンに置いてあるよーな格ゲーとかのほうが好きだったし。どーせゲームの中に生まれ変わるんだったら、そっちの方がよかったよなー」
「嫌っすよ! 所構わずストリートでファイト始める世界なんて!」
「まあ、インコじゃあ戦っても弱いもんな」
「そっちの世界でも、ウチはインコなんすか!?」
寮室の中で、相変わらずキャミソール姿のベリンダは椅子に腰掛けだらしなく足を組み、インコことヤンスから講義を受けていた。
講義内容はすなわち、彼女たちが異世界転生を果たしたこの世界……乙女ゲーム『愛は魔法の奇跡』についてである。
たまたま寮室内にあったミニ黒板の前で、ヤンスはインコの羽を器用に操りながら、カカカカッとチョークを激しく叩きつけた。
「つまりっすね! 『愛は魔法の奇跡』……通称“アイマホ”はゲームシステム、キャラクターデザイン、音楽、そして何よりシナリオ、そのどれをとってもなかなかに通好みな完成度を誇っておりまして……」
「熱が入りすぎて、羽根抜けてんぞ」
「おっと……! インコの羽根は意外と抜けやすいっすね!」
つーかよお……と、ベリンダは気だるげに背もたれに体重を預けながら、ヤンスに言う。
「んな細けーことは、正直、どうでもいいんだよな」
「こ、細かいこと……!? まだウチ、“アイマホ”の概要のさらに概要を説明しただけなんすけど……!?」
「んなことより、もっと重要なことを先に話してくれよ。オレが死ぬってことについて、さあ」
ベリンダからそう言われたヤンスは、うぐ、と喉にモノを詰まらせたかのように口をつぐんだ。
「……確かに、そうっすね。ゲームの中の話とはいえ、ウチらにとっては、実際に命がかかってる状況っすから。深刻な事態っすし……姉御にとって必要な情報から、説明していくことにするっす」
「だろ。よろしく頼むわ」
「本当は最初っから順を追って説明したいんすけどね……」
ヤンスはなおもブツブツと名残惜しそうに言いながらも、切り替えた様子で黒板に対して向き直る。
「ゲームの舞台……つまり今ウチらがいる場所は、異世界に存在する聖ファービランス魔法学園っす。名前の通り魔法を学ぶための学校で、姉御たちはそこの生徒ってことっすね」
「おう」
「続いて簡単に、このゲームの中の世界の人間で、姉御に関わりがありそうな人たちをざっと説明するっす」
ヤンスはそう言うと、羽を使ってチョークで黒板に文字を書き込んでいく。
先ほどネームプレートに書かれていたようなこの世界の文字ではなく、彼女たちの慣れ親しんだ日本語であった。
そこに白い文字で書かれている文字列は……、
「アリソン・アーチボルト。今日、姉御がロケットペンダントを取り返してあげた、チョコレート色の髪を姫カットにした女の子っすね」
「アイツか」
「彼女はこのゲームの主人公っす」
「おお、アイツが」
ベリンダは言われて、昼間に会ったアリソンの顔を思い出す。
陶磁器のようにつるりと白い肌や、クリッとした瞳。
整った容姿は、確かに主人公のそれと言われて違和感は無い。
「アリソンは聖ファービランス魔法学園の、今年の新入生首席っす」
「それってすげーことなのか?」
「すげーことなんすよ! 魔法に関する高等教育は、基本的に王族や貴族が優先的に受けられる状態にあるんす。だから彼らが優秀な成績をおさめることが当たり前となっている魔法学園において、史上初めて、庶民から新入生首席となったということで、良くも悪くも学園中からの注目を集めている存在なんす!」
「へー。なんか思ったよりもすげーことやってたんだなアイツ。見た目だけじゃ、そんな感じに見えなかったのによ?」
「そしてそんなアリソンが魔法学園での生活をしていく中で、攻略対象となる男の子たちと仲良くなっていき、最終的に恋人同士になることを目指すのが、このゲームの主目的っすね」
カツカツとチョークの粉を落としながら説明行うヤンスは、続けてアリソンの下にもうひとつ、名前を書き込んでいく。
「そしてそのアリソンには、ゲーム内で度々目の前に立ち塞がるライバルキャラがいるっす」
「へえ」
「ことあるごとにアリソンの前に現れては、嫌がらせや攻略の妨害、邪魔立てを繰り返す……いわゆる“悪役令嬢”と呼ばれているキャラクターこそが、……ウチの飼い主、ローザリヤ・ロービンソンっす」
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