表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アスクレピオスに聞き糺せ  作者: 冴樂 紅


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/71

第70話

 続けて弁護(べんご)(がわ)から、犯行時に何を考えて行動したか、反省しているかを()(ただ)された祐毅(ゆうき)は、こう答える。


「苦しむ彼等を(すく)いたい、その一心(いっしん)でした。いじめやハラスメントによって精神的(せいしんてき)肉体的(にくたいてき)に追い込まれ、SNS上の見知らぬ人々には同情(どうじょう)すらしてもらえない。(ひと)りで絶望(ぜつぼう)(かか)え、死ぬことでしかその状況から(のが)れられないと(おも)()めてしまった彼等は、言わば潜在的(せんざいてき)患者(かんじゃ)です。病院を受診(じゅしん)するのを待っていても、きっと彼等は来ません。放置すれば自死(じし)してしまうかもしれない彼等を救うためには、手段を選んではいられなかったのです。彼等を探し出し、心理(しんり)療法(りょうほう)を受けるよう説得を(こころ)みましたが、自分が精神(せいしん)疾患(しっかん)(わずら)っていると(みと)めたくない人や、すぐにでも(らく)になりたいと願う人に、僕の言葉は届きませんでした。彼等の精神状態を瞬時(しゅんじ)(なお)すなど、(かみ)以外(いがい)には不可能です。どうすれば彼等を救えるのかと考えた(すえ)に、苦痛を感じないようにするほかないと、脳死状態にすることでしか彼等を救えないと、(おも)(いた)りました。今になって思えば、誰も()していないことに勝手に使命感(しめいかん)(いだ)き、(あやま)った判断で行動してしまったのです。もっと根気(こんき)(づよ)く説得したり、投稿(とうこう)を発見した時点で(しか)るべき機関(きかん)連携(れんけい)したり、医者として他に彼等を救う道があっただろうと、強く反省しています。再び罪を犯さないために、医師免許は取り消されるべきであり、再免許(さいめんきょ)付与(ふよ)は申請しない考えです。どのような判決(はんけつ)(くだ)るかはわかりませんが、更生(こうせい)する機会を与えていただけるのであれば、カウンセリングの資格を取得して、苦しみを抱える人々の心を救っていきたいと考えています」


 この回答は、祐毅の覚悟(かくご)(しめ)していた。医者になる夢を(かな)え、倫理(りんり)では救えない命を救おうとしてきた彼は、(すべ)てを終えた最期は医者として死ぬことを決めていた。だが、崇志(たかし)玲良(あきら)の想いに(こころ)(うご)かされ、生きることを選んだ彼は、死刑を回避(かいひ)する方法を(さぐ)る。反省の意思や有効な再犯(さいはん)防止策(ぼうしさく)を裁判官や裁判員に示すためには、言葉を()くすだけでは足りないかもしれない。そう考えた彼が、自身が犯した大罪(たいざい)見合(みあ)犠牲(ぎせい)(ひと)つに選んだのが、医者であることを()める事。当然、刑罰(けいばつ)免許(めんきょ)取消処分(とりけししょぶん)(ふく)まれるであろうが、これを(みずか)ら主張することが、重要なのである。

 この回答に関連付け、被告人にのみ(ばつ)を与えるのではなく、自死を考えるまでに被害者を追い込んだ人物やSNSで誹謗(ひぼう)中傷(ちゅうしょう)を行った人物、精神疾患への理解が浸透(しんとう)しない社会(しゃかい)風土(ふうど)に対しても責任(せきにん)一端(いったん)はあると提言し、弁護側からの質問は終了した。


 弁護側の次は、検察側(けんさつがわ)からの被告人質問。検察は、(おも)供述(きょうじゅつ)調書(ちょうしょ)の内容と矛盾(むじゅん)(しょう)じる部分について、質問をしてきた。

 上申書(じょうしんしょ)(なら)びに取り調べの内容では、臓器移植を目的として犯行を犯したと証言していたことから、被害者を病院の近くに置き去ったのは、被害者の臓器がレシピエントに提供されて欲しいという願望(がんぼう)(あらわ)れであり、つまりは被害者が法的(ほうてき)に死亡することを認識していたのでは、と問われる。


「病院の近くに置き去ったのは、看護(かんご)し続けることに限界(げんかい)があったからです。僕の経済力(けいざいりょく)体力(たいりょく)設備(せつび)許容量(きょようりょう)を考えると、そう多くの被害者を収容(しゅうよう)しておくことは出来ません。救うべき潜在的患者は他にもいるという状況では、被害者は適切な施設で最適な看護を受けることが、ベストだと判断しました。今となっては、身勝手(みがって)な使命感で無責任(むせきにん)な行動をとったと、深く反省しています。臓器移植がされるかどうか、それは希望的(きぼうてき)観測(かんそく)にすぎません。例え臓器提供の意思を表示していたとしても、確実に臓器が移植される保証(ほしょう)など、どこにもないのです。あくまで、被害者から臓器が提供された、という仮定(かてい)の話に対して解釈(かいしゃく)を話すと、被害者はレシピエントの命を救い、彼等の中で生き続けている、と考えています。医者として、そして僕個人として、そういった解釈を持ち、この心臓に対しても、そう思っていますので」


 最初は(もの)(がな)()な目で答えていた祐毅だったが、最後は左胸に手を当て、()()ぐな(ひとみ)を裁判官達に向けた。

 その後も、検察側からの質問は続く。(きび)しい質問をどうにか切り抜けると、審理(しんり)終盤(しゅうばん)(むか)えた。


 検察側からの求刑(きゅうけい)。彼等は、殺人罪が成立するとして死刑を求める。これに対し弁護側は、殺意の否定と情状(じょうじょう)酌量(しゃくりょう)について弁論(べんろん)を行った。そして最後は、被告人からの最終(さいしゅう)意見(いけん)陳述(ちんじゅつ)。裁判官から、最後に言いたいことはあるか、と問われた祐毅は、はい、とはっきりと返事をし、証言台に立つ。最初に、時間を与えられたことへの感謝を(くち)にして深々(ふかぶか)一礼(いちれい)すると、こう()(くく)った。


「苦しむ彼等を救いたかった、その気持ちに(うそ)(いつわ)りはありません。ですが、その手段については、医者として、そして人として、(みち)(はず)れた行いであったと強く反省しています。被害者並びに遺族(いぞく)方々(かたがた)には、ご迷惑(めいわく)をおかけして、大変申し訳ございませんでした。僕は、この事件を通して、多くのことを学びました。人を苦しめるのは、人であるということ。人を救うのもまた人であり、医者にすら救えない命を救う可能性を()めているということ。そして、この考えを理解し、行動する人が増えれば、苦しむ人が減るということ。(げん)に、弁護側の証人に立ってくださった方々が、それを体現(たいげん)してくださっています。こんな僕のために、(つら)い過去を思い出してまで、情状酌量を求めてくれたことには、感謝の言葉もございません。僕ができる(つぐな)いは、厳正(げんせい)処罰(しょばつ)されることと、被害者と同じように苦しむ人達を少しでも減らすことだと考えています。どうか、僕の証言や事件の内容、被害者の苦悩(くのう)(ただ)しく()に伝えられ、自身や家族、周りの人を(とうと)ぶ方々が少しでも増えることを、(せつ)に願います」


 こうして、審理は終了。祐毅の命を救うため、彼に関わった多くの人が出来得(できう)る限りの手を(つく)くした。あとは最悪の判決が下らないことを、(いの)るばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ