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兄王子対策を考えました



 キース王子をどうにかする、と言った手前、私は思い悩んでいた。

 権力の最高峰に位置する王妃カトリーナと、恐らくそのあとを継ぐであろうキース王子。かの者たちを、それこそ隣領にそうしたように、力で脅してどうにかするのは簡単である。だが、結局のところそれは内密なものなのだ。私たちエリウス側と王都のキース側、両者だけのものでは例え武力で押さえつけたとしても後から何かしらの形で跳ね返ってくる。長期にわたって効果のある方法を用いなければならないのだが、それには私たち以外の勢力、いわば第三者の認識が必要不可欠だ。

 第三者に我々の対立を理解してもらった上で、キース側が圧倒的に「悪」であると認識させなければならない。正義の騎士は一人で立ち向かったのではない。他の者と手を取り合って巨大な悪と対峙したのならば、私たちもそうしなければならないのだ。


 が、キース王子らを「悪」とする手段がどうも思い浮かばないでいる。そもそも彼ら王都に住まう者と、私たち辺境に住む者とでは接点がなさすぎるのだ。魔物対策の支援金やら物資やらの横領でも発生していればそれを口実にしたいのだが、いかんせんそれを知る術がない。


「はあ……どうしたらいいのでしょう……」


 指先で執務机をコンコンコンコンと叩く。気持ち的には殴っていたが、私は立派な淑女だ。握り拳を作るなどと言うことはしない。

 私の神経質な動作を見ていたのは従者のヤトラだ。彼、もとい彼女は今はなきソドリア家の嫡男として育てられていたということもあり、帳簿の作成等の作業ができる人だった。客人用の歓談机で作業をしていた彼女はその手を止めて、怪訝そうな顔つきで私の方を振り向く。


「さっきからうるせえな。どうしたんだ」

「キース王子に二度と歯向かう気を起こさせないためにどうしたらいいかと考えてましたの」

「二度と歯向かえない体にすればいいだろ。首を折れば終わりだ」

「野蛮ですわー」


 エリウスと同様に命を絶つという選択肢に走りそうだが、彼女はどちらかと言えば後で面倒ごとにならないようにと未然に防ぐ手段としてそれを提示している。正義が暴走しがちな夫とは考え方の根底が違うのだ。

 確かに殺してしまうのが一番手っ取り早いのだが、そうできない理由が二つある。

 一つ目は、エリウスに王族としての復権をしなければならないということ。現国王オークスにはその血を分けた子がキースとエリウスの二人しかいない。だから兄が死ねば必然的に王位は弟のものとなるのだが、肝心の弟のエリウスは身分を剥奪されている。空いた玉座を埋めるにはエリウスを王族に戻す必要があるが、それはすなわち罪人に課した罰を撤回することに他ならない。処罰とはそのようなものであっていいのか、と民の心が王族から離れてしまえばそれまでである。

 そして二つ目。これが一番の、私たちにとっての死活問題である。


 ──エリウスを手放してなるものですか!


 仮に、もし、エリウスが国王になってしまえば。私との婚姻関係が解消されることがなかったとしても、主な居住地は王都になる。辺境フォーレイン領から王都までは本当に、実に遠い。そんな遠いところにエリウスが行ってしまったら。例え定期的にフォーレイン領に来てくれるとしても、魔物と日々戦う我々にとっては大きな痛手となる。彼は第二のアレックス、否、領主アレックスをも越える実力者なのだ。彼にいてもらわねば困る。彼がいなかったかつての日々に戻るだなんて想像もできないほどだ。

 

 だから、エリウスをフォーレイン領に留めるためにもキース王子を殺すことはできない。故に、それ以外の方法を考えなければならないのだが。


「なんかこう……いい感じにこじつけて、いい感じに貶めて、いい感じに永遠に脅せそうなのが転がってません?」

「俺が悪さを働きましたーって主張しても、普通に切り捨てられそうだもんなぁ……」


 二人して腕を組み、それぞれ座っている席の背もたれにぐぐぐと寄りかかる。うーん、と唸る声が二人分長く響く。

 そうなのだ。最初はヤトラの行いを使えないかと思ったのだが、きっと「なかったこと」にされてしまうだろうと考えてやめにしたのだ。偉い身分だとなおさら、こういった表沙汰にしにくい闇の取引というものは契約書などの証拠を残す傾向にない。一蓮托生だ、だとか誰かが逃げるのを阻止したいと考える者がいるのであれば物的証拠を作成してくれるのだが、王族がそのような裏との繋がりを残すとは思えなかった。いくらこちらが主張をしても、妄言だとして切り捨てられる……最悪、王族侮辱罪で投獄もしくは処刑されてしまうだろう。


 ボソリ、とヤトラが呟く。


「……ないなら、作っちまえばいいんじゃないか?」


 お互いの唸り声が止まる。だが、背もたれには寄りかかったまま。喉元を突き出し曝け出すような姿勢だからか、ヤトラの声はやや潰れていた。潰れた声には、潰れた声で返すのが礼儀というものだろう。


「……どの線で作ります?」

「キースは……話した感じ、多分、感情的な性格だ。普段はそれをどうにか抑えているが、なんか適当にでっち上げてエリウスをぶっ潰せばいいものを、俺みたいなのに依頼して……感情が爆発すると正常な判断ができなくなるんだろうな。どっかの弟とそっくりだ」

「感情面で揺さぶりをかけますの? エリウス関連?」

「いや……まぁ、関係なくはないが……あの馬鹿王子の『婚約者』とやらは使えそうじゃないか?」


 丁度、同時に私たちは体を起こしていた。そしてお互いに見つめ合うこと、数秒。


「また利用されて、可哀想ですが……使えるものは目玉でも使え、ですわ」

「なんだそのことわざは」

「大量の魔物に襲われて応戦するも力尽きかけていたご先祖様が、最後の一匹に殺されそうになった時にその辺りに転がっていた魔物の死骸の目玉を投げつけたら逃げ帰ってくれた、という逸話から……」

「流石フォーレイン領だな……」


 かくして、私の脳内にてキース王子並びにその勢力を貶める作戦が練られていった。



次回は7月3日20時更新予定となります。

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