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10-7 第一容疑者

 エースの家は村長とスローウの家の裏側にあった。アクトは村長の部屋の間取りと家々の配置を考える。ちょうどエースの家と村長の部屋、そして村長の座っていた椅子は一直線上にあるようであった。


「まさかねえ」


「何が?」


「位置の問題。ちょうど村長の真後ろじゃないか」


「そうねえ。……まさか!?」


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。まあちょっと気になっただけさ」


 アクトはシーリアの問いをはぐらかすと、エースの家の扉をノックした。


「失礼します」


「どちら様でしょ…………に、人間!?」


 エースらしき凛々しい壮年の男性の上半身を有したケンタウロスが驚愕の表情を見せた。


「こちらー森を抜けてきたお客人ですー」


「う、スローウさん。そ、そうですか。あまり見ないものですから驚いてしまいました。そんなお客人の方々がどうされました?」


 自分の上半身と然程変わらないんじゃないか?アクトは心の中で毒づきながら、エースに村長の死を知らせた。そしてそれが、一見する限り、殺人事件であろうという事を。


「こ、殺された!?」


「まだ可能性の話ですが。それで、外から来てアリバイもある僕達が第三者視点から判断する事になったのです。そこで伺いたいのですが、エースさんは村長さんと先程お会いしたそうですね」


「ええ。村長としての心構えを伺うべく、たまに行って話を伺っています」


「まだ村長にはなってないんじゃないの?」


「そうですが、その、率直に言ってしまうと、ほぼ決まりのようなものですから」


 確かに話を聞いただけでは、セカンに良い印象は無い。ゴーシュも私見とは言っていたが、次期村長と言いかけていた。恐らくは、その印象は村全体のものなのだろう。


「勿論セカン殿にも頑張って頂きたいですし、気を抜けば私が落選する事も考えられますので、気を緩めるつもりはございませんが」


「まぁその話は置いておきましょう。その時村長さんに変わった様子はありましたか?」


「いえ。そういった様子はありませんでした。……疑われているのは当然の事かと思います。ですが我らが創造主にして愛と勇気の神、イシュー様に誓い、決してターケン様を殺すような事はしておりません」


「……そうですか」


 アクトは自分の目と『鑑定』スキルで彼の様子を観察したが、嘘をついているようには見えなかった。


「村長さんは来客について何か言われていたりしましたか?」


「ええ。次にセカン殿とお会いする予定があるとは言っておりました」


「その他には?」


「すみません、他は伺っていませんね」



 後は適当な話をして、部屋の隅に置かれたゴミを「これ頂いて良いですか」と言って回収するだけで、エースとの会談は終わった。



「それでは、人間の方にお任せするのも心苦しいのですが、どうかよろしくお願い致します」


 家を出る直前、エースはそう言ってアクトの目を見た。心からの信頼が見て取れる目であった。


「いえ、任されている以上ベストを尽くします」


「……」


 アクトは堂々と言ったが、シーリアは無言で頭を下げた。ベストを尽くす自信が今の彼女にはなかった。


「本当にどうにかなるの?今のエースの話、全然手掛かりらしいもの無かったじゃない」


 少しエースの家から距離をとってからシーリアが言った。


「ですよねー。もう全然わからないですー」


「まぁ……セカンさんが怪しいというのは元々の印象的に分かっていた事だし、確かに新しい情報は無いね。でもまあ……それはそれで、一つの手掛かりではあるから」


「どういうこと?」


「エースさんに動機は無さそうだってこと。殺すまでもなくほぼ村長はエースに決まりそうだったんなら、余程の事が無い限りエースが村長を殺す理由は無いよね」


「そうね」


「そして部屋の様子を見ても整然としていて特におかしな点は無い。さらっと見せてもらったけど、借金みたいなメモもなかったしね」


 アクトは部屋を出る前、サラサラと書類の束に目を通していた。その中に問題と思われるものはなく、何れもこの村の農業の運営に関わるものばかりであった。そして、その書類の数字に特に問題は無いように見えた。村の人々が生活するには支障ないような損益。粉飾があれば別だが、怪しげな記述は欠片もない。


「よく見ているわね。でもだとしたらセカンが犯人?」


「そう考えるのは早い気がする。まだ分かってない事や、ちょっとだけ、確認したい事もある。まずはセカンに話を聞いて、それから村長の、スローウさんの家に戻ろう。ではスローウさん、セカンさんの家へ、案内お願いします」


「はーいー」


 スローウはそう言うと歩き出した。アクトはそれに続き、シーリアは「本当に大丈夫かしら」と不安を抱きながらアクトに続いた。

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