10-8 第二容疑者
セカンの家は村の外れにあった。荒れ果てた農地に囲まれ、何やらヤンキーのように見える若い男女の上半身を持つケンタウロス達がワイワイと話し合っている。アクトが聞く耳を立てると、それは「次はどの家にたかるか」という話であった。
物騒だな、アクトがそう思っていると、家から誰かが出てきて「何してんだテメーら」と彼らをどやしつけた。男のケンタウロスであった。屯している連中と同じくらいの年齢に見える。
「まーだ手ぇ出してやがんのか。やめろっつったろーが!!」
そういうとその男は前脚を高く振り上げ、ドン、と地面を踏みしめた。
「そんなんだから俺の支持が上がらねぇんだ!!テメェらのために出てやってんのがわかんねぇのか!!」
「そ、そうは言うけどよ……」
「ウダウダ抜かすな!!ちゃんと働け!!折角畑用意してやったんだから耕せや!!」
男の怒声に、若者達は渋々農具を持って荒れた農地で耕作を始めた。それを確認した男は、ふんすと鼻を鳴らし、「やりゃできんじゃねーか。頑張れよ」と言って家に戻っていった。
アクト達は唖然としてその姿を少し離れたところで見ていた。
「あれはーセカンさんですー」
「あれって」
「家から出てきた人かね」
「はいー」
先程まで聞いていたセカンの評判に対してギャップを感じる光景であった。口こそよろしくないのは確かではある。だが、言っている事に間違いは無い。むしろ話を聞く限りでは、グレた若者達に仕事を提供しているように聞こえた。
「……わかんない。じゃあ誰なの?」
シーリアは頭を抱えてうんうん唸り出した。彼女は基本的に力で解決するタイプであり、小細工は弄さない。一番頭を使ったのはアクトのところに王女を連れて行ったときくらいかもしれない程であった。
「まあまあ。そのうちわかるさ。……多分」
アクトは余裕があるようにそう言いながら、じっとこの先の事を考えていた。
「ともかくー行きますー?」
「そうですね」
スローウの言葉に軽く相槌をうつと、三人はセカンの家へ近づいた。
「村長が死んだ!?」
セカンの家の扉をノックし、中に案内されて事情を説明すると、セカンが目を剥いて驚愕した。アクトにはそれが演技のようには見えなかった。
「バカ言え!!他所の人間だからって嘘吐くんじゃねぇよ!!」
セカンは椅子から立ち上がっていった。
「本当ですー」
「その、実際、あなたが去ってから少ししてから……」
スローウが認めたこと、そしてアクトが続けて放った言葉で、セカンは再び椅子に腰掛けた。
「俺が犯人だってか」
「まだ決まったわけではありません」
「いいんだ。どうせゴーシュのやつもそう言ってただろ」
アクトはその声色に諦めのような色を感じた。ゴーシュだけではない、誰もが自分が犯人だと思っているのだろう、そんな思いが込められているように。
「……僕は別にそう決めているわけではありません」
アクトはゆっくり口を開いた。
「元々そういう固定観念を排除するために探偵役を買って出たわけですから。なので僕は貴方の言葉も聞きたいんです。貴方の、実際の言葉を。――貴方は、村長を殺しましたか?」
「殺してねえ。殺したりなんかしねえ。そんな理由もねえ。あの人にゃ大分世話になった」
「口論になったという話を聞きましたが」
「あれは口論っつーか、……村長に、ターケンに呼び出されたんだよ。それで少し議論になった」
「ターケンさんに?」
「ああ。無理に立候補しなくてもいいんじゃねぇかって諭された。それで俺が、いや出るって言ったら、それがキッカケでちょっと揉めただけだよ」
セカンによると、ターケンは「年寄り連中はお前のことを良くない目で見てる。もう少し様子を見たほうがいい」というような事を言って、セカンの立候補を止める方向で話をしたのだと言う。
他方セカンは、「若い連中の中にはエースの事を嫌ってるやつがいる。そういう奴らはエース以外誰も立候補しないとエースを村長として認めないかもしれない。だから出る」と言い張ったのだと言う。
アクトはどちら至極全うな内容だと感じた。一見するだけで荒れているように見える若者達とそれ以外との断絶が酷くなるかもしれない。
選挙で彼らの代表たるセカンが選ばれなければーー結果は変わらないかもしれないがーーそれでも何もしないよりはマシだというセカンの考え方には賛同出来るものがあるとアクトは思った。
「ううん」
アクトは考え込む。
――次にすべき事は何か。
その場はとりあえず「わかりました、ありがとうございます」と言いその場を離れた。直前、エースの時と同様に、部屋の隅に置かれたゴミを「これだけ頂いて良いですか」と言って回収して。




