10-4 村長の死
「おおおおお父様ぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」
野次馬のケンタウロス達の奇異の目を掻い潜りながら家に入ると、いきなり、スローウの絶叫にも似た悲鳴が室内に轟いた。
室内は質素で、基本的には人間と同じような家の形状をしていた。家がやけに縦長なのはケンタウロス族の下半身を反映しての事なのだろうと考えられた。そんな居間だと思われる部屋の中央で、一人のケンタウロスが倒れていた。初老の男性の上半身を有する彼の口からは血が垂れている。アクトにはパッと見ただけで分かった。死んでいる。
「ああー、ああー、何故こんなー!!」
スローウが悲痛な声を上げながらその初老の男性の遺体に泣きついている。これがどうやら父親、このホスの村の村長だったようである。
轟々と燃える暖炉の炎が、スローウの声の波紋でふわり揺らいだ。
「これは……」
「熱いね」
アクトは冷静に言った。暖炉をつける程の気候ではないにも関わらず暖炉がついているせいで、部屋の中はかなりの温度になっていた。
「そうだけど今言うこと!?」
そんなやり取りをしている中、
「アンタらは一体なんだ」
スローウの横に立っていた若い男ケンタウロスが、アクトとシーリアの姿を見て詰め寄ってきた。長い黒髪で、人間から見ればイケメンと呼ばれる部類に該当するであろう美形の顔を有している。やはりと言うべきか、上半身裸なのがネックになりそうだ、そんな感想がアクトの脳裏を過ぎった。
「人間か?何故ここに?お前らが犯人か!?」
そう言うと持っていた槍を向けてきた。アクトは両手を上げて言った。
「いいいいいいえ、私達は別に、怪しい者では」
「人間の時点で怪しいわ!!」
鋭い切っ先がアクトの鼻をツンツンと突く。どうやら完璧に距離感を理解しているらしく、アクトの鼻に穴が開いたり血が吹き出したりという事は無いが、少しでもアクトが動けばブスリと突き刺すという姿勢だけは見て取れた。
「ああああああいていていていて」
「ちょっと、やめなさい」
シーリアが対抗の威嚇のために盾を取り出した瞬間、
「その人はー私の来客ですー」
スローウが涙を拭いながら言った。
「失礼な態度はーやめてくださいー」
「……失礼しました」
そう言うと男は槍を下ろして頭を下げた。
「穴空いてません?」
アクトはその鼻をシーリアに見せた。
「空いて無いわよ」
シーリアは盾を背中にしまいながらアクトの鼻をチラと見て言った。
「私は村長の警備をしているゴーシュと申します。改めまして、先程は失礼致しました。言い訳にはなりますが、人間を見るのは初めてでして。取り乱してしまいました」
「いえ、それは仕方のないことだと思います」
アクトは頭を下げるゴーシュにそう言いながら頭を上げるよう頼むと、状況について説明してほしいと頼んだ。アクトとしては明らかに厄介事、あまり巻き込まれるべきではないのではないかという気持ちもあったが、それ以上に何故このような事が起きたのかが気になって仕方がなかった。
彼としても正義感のようなものが無いわけではなかった。不審な侵入者である自分達に優しく接してくれたスローウが泣き叫ぶ姿は、ほんの数分の付き合いとはいえ同情を覚えるところは大きかった。それはシーリアも同様であり、アクトが詳しい説明を求めることに異議を唱えることはなかった。
「それに関してはその、私共の問題ですので」
そう断ろうとしてゴーシュに、泣き止んだスローウが割り込んだ。
「いえー、お話してくださいー」
「しかし……」
「明らかにー父は殺されていますー。この状況ではー恐らくー外の方に調べていただいた方が良いように思いますー」
スローウの言葉に、ゴーシュは少しの間考え込むと、「ふむ」と言い、
「仰ることもご尤も。わかりました。ご説明致します」
そういうと、ゴーシュはゆっくり口を開いた。




