9-6 望んだ力
シーリアは一旦距離を置いた。が、まだ危ない。壁にした大木も穴が空いて、毒が回ったことで徐々に穴が広がり、今にも倒れそうである。下手をすればシーリアの元へと届く可能性もある。となれば早期に決着をつけねばならない。
「ジャジャジャ!!死ね!!」
そういうと巨大蠍は再び尾を振るう。
巨大で長く、変幻自在の動きをする尾は、蠍から見てお荷物かつちょうど良い的でしかない今のシーリアへ向かう。
「そこだ!!」
その軌道を読んでアクトがその手にしっかりと握りしめた武器を地面から天に向けて振り上げる。光が走り、次の瞬間、ブシュッ、という液体の吹き出す音と共に蠍の尾が千切れシーリアの目の前に落ちる。その液体はシーリアには掛からず地面に落ちると、ジュウジュウという音を立てながら地面へと吸い込まれていく。
「ぐあああああ!?」
「お前の横暴もここまでだ!!」
アクトがトリガーを引くと、手にしたフットバスターが死刑を宣告する。
『フットバスター!!カットバストライク!!』
アクトはその武器を思い切り振り下ろす。大木に光が走り、次の瞬間真っ二つに裂けてバサリと左右に別れ倒れる。
「う、べ」
その先にいた蠍の巨躯にも光の線が入ると、バシュッ、という音と共に真っ二つに裂け、そして巨木と同様に倒れた。
カラン、地面にエクストラクターとそこにセットされたリリースカード:スコーピオンが落ちた。
「ふぅ……」
見様見真似の残心を取ってシーリアを庇うように立つアクト。蠍は最初こそピクンピクンと動いていたもの、時間が経つにつれてその動きは鈍り、やがて硬直する。それを確認し、アクトは剣を下ろし、振り返る。
「大丈夫?」
その優しい声に、そして自分がその声を聞いて心の底から安堵していた事に、シーリアは驚いていた。
思い返すと彼女はここまで驚きづくめであった。巨大な虫一匹に嫌悪感を抱いた事、そのせいで動けなかった事、ーー彼に守られた事、彼の声に安堵した事。ナクールを追放されてから色々な経験をしてきたが、今日、今この瞬間は一番の驚きを感じていたように思えた。
「あ、あ、うん」
いつものようなはっきりとした回答が出来ないまま、立ち上がろうとして、アクトに手を掴まれた。
「立てる?」
「うん、平気」
嘘を吐きながら、彼の引く力に助けられながら、シーリアは立ち上がると、
「あー、うん。その、……ありがとう」
そう言って微笑んだ。
「いいんだ。君が虫嫌いなのは昔からだったからね」
アクトは思い出していた。村の近くに出てきた巨大な蜂型の魔物に泣きながら対峙していたシーリアの姿を。
「そうだっけ。忘れてた。自分でもびっくりよ、ここまで動けないなんて」
「まぁいいさ。君が動けない分はフォローすればいいだけさ」
そう言いながら、彼はあの蠍が言っていた言葉を反芻していた。
ーーどうやらこいつは、適合者の望む力をくれるようだな。
そして、エクストラクターを初めて手にした時の事を。
ーー今欲しいのは、彼女を守る力。
「ーー初めて、エクストラクターに感謝しないといけないかもね」
アクトは小声で呟きながら、巨大蠍が落としたリリースカードを拾い上げた。
「なんか言った?」
「なんでもない。さ、行こう」
そう言ってアクトは森の中を歩き出した。森は彼にとってもはや恐怖の対象では無くなっていた。
紫色のカードが、大木が伐採されたことで出来た隙間から降り注ぐ陽の光に照らされて、キラリと輝いた。




