9-4 死体の真実
また小一時間程経過し、アクト達の足取りは徐々に重いものとなっていっていた。
無論長旅を考慮した荷物があるのも一因だが、アクトには、目の前の霧が、更に不安感を掻き立ててくるが故に足取りを重くする要因となっていた。先が見えない、それはその事だけで不安感を増大させてくる。
シーリアにはそれがむしろ何も考えずに先に進む切欠にもなるらしく、あまり気にする様子は無かった。シーリアの足取りが重いのは単に疲れたという事が大きい。いくら無敵の彼女であっても、疲労困憊には勝つ事が出来ない。
「ひぃ、ひぃ、随分歩いたはずなんだけど」
霊峰リギヌスの険しい山道を踏破したシーリアであっても、代わり映えのしない木々だけが立ち並ぶ森の中を歩き続けるのは耐え切れるものではなかった。
「コンパス、だけだと、どうにも、距離感が、わからん」
マップにでもしてくれればよかったのに、とアクトは悪態をつく。なんでコンパスにしたのか。魔法があるんだから魔法の地図とかくれても良かったじゃないか。そういうところでチートな加護が得られない当たりにアクトは自分自身の巡り合わせの悪さというものを感じざるを得なかった。もっと恵まれた世界に生まれたかった。
「なにぶつぶつ言ってーーあってっ」
アクトの方を見た瞬間、シーリアは足元の何かに足をつまづけた。転びこそしなかったが若干バランスを崩し、トットットッと片足で森の道を進む。
「あっぶな。何よーー」
木の根にでもつまづいたのかと、自分が何にぶつかったのかを見て、
「ひぎぃっ!?」
思わずアクトから聞いても変な悲鳴が上がった。
「どうしーー」
またまた見覚えがあった。
大木。皺が大量に走り、数人数十人が密集したものと同じくらいに太い木が生えている。その根本に何かがある。
「また!?」
また、胸に大きな穴を開けた人の死体であった。
「こんなことある!?」
「あるわけないだろう、ね」
アクトは言った。その視線は死体ではなく別のところを向いていた。
「なるほどやっぱりそういうことか」
「そういう事?」
シーリアはアクトが何に得心したのか理解出来ずにいた。
「構えるんだ、危ない」
アクトはシーリアの疑問に答える前に、自らのエクストラクターとリリーフカードを起動した。
「え?え?」
シーリアにはアクトの行動に全くついていけない。一方アクトはドラゴンフォースを装備し、シーリアを庇うように死体に相対した。
そしてアクトは口を開く。
「さっき懐のゴミーー書類の断片を、死体の横の根本に貼り付けておいた。今それが目の前の根本にある」
「え?」
シーリアにはそれが何を意味しているのかは理解出来たが、何故そのような事が起きるのかが理解出来ないでいた。
「さっきからコンパスはずっと死体の先を指していると思った。だが違う。今僕たちは死体の横にいるわけだが、それでも死体の方を指している」
「え、それは、まさか?」
「そう、コンパスは」
そこまで言うと、アクトは更に身を固めた。目の前の何かが動き始めたのだ。
「コンパスはずっと、この死体を指していたんだ」
アクトの言葉に反応するかのように、彼の視線の先、大木の根本に眠っていたはずの死体が立ち上がった。
「バレたか」
その死体は口を開いた。
「バレそうだと思ったから隠したのに」
死体はそう言うと懐からエクストラクターを取り出した。そこにはサソリの絵が描かれている。
「まあいい。捕食の圏内だ」
その言葉をトリガーに、死体の穴が塞がっていく。否、死体、人の姿からも変わっていく。足が、手が、全身が溶けて紫の光に包まれていく。
「ジャジャジャ……喰らうとしよう!!」
光が収まったその時、アクト達の前にいたのは、巨大な蠍であった。
「ぎゃああああああああ!!!!」「ばああああああああ!!!!」
予想外の姿に、アクトとシーリアが同時に叫び声を上げた。




