8-4 管理者の嘆き
クレスに問いただしてクレアが知ったのは、マジックアイテムのシステムは兎に角「ランダム」がテーマであるということである。
クレスは魂の管理者として、魂の流れる先がある程度決まりきっている現状をつまらないと感じていた。そこに一種のスパイスを加えたい。文明発展のペースの上げ下げが各世界でもっと激しく変動するようにしたい。そんなことを考えた結果、彼女が思いついたのが、マジックアイテムの生成である。
マジックアイテムとは本質的には魔力を帯びた物品であり、その世界の物理法則上・魔法法則上実在しうる物質に何らかの魔法が込められた物品である。
マジックアイテムの生成は、まず「物品」が決まり、それから「込める魔法」が決まる。元々魂の管理者達により作り上げられた世界システムには、このシステムの原型が存在していた。が、それは「物品」は現時点の技術力で生成可能な物品までに留まり、「込める魔法」も同様である。つまり、あくまでその世界の生命体が実現可能な物品を生むだけのシステムであった。
クレスはこれが煩わしいと思った。もっと文明の技術水準とは全く無関係に様々なものが生まれるようにしたいと思った。原始時代にコンピュータが生まれるように、情報化社会に火を制御するライターが生まれるように、過去他の世界で生まれたものがこの世界でも、如何なる時間軸であろうとも生成されるようにしたいと。
クレスはこの「物質」と「込める魔法」の組み合わせに、全く新しいものが生み出されることが起きうるようにした。原子分子の結びつき方、各属性の魔力の多寡、そういった物が様々に変化するようにした。
これが最悪だった、とクレアは述懐する。
無限猿の定理というものがある。猿がタイプライターの鍵盤をいつまでもランダムに叩きつづければ、ウィリアム・シェイクスピアの作品を打ち出すというものであるが、今回起きたバグとはまさにこれである。魔法や物質次第では、世界を構成する仕組みそのものに干渉することすら出来る。そういったアイテムは通常作られないように魔法や物理法則側である程度のロックが掛けられているが、クレスが弄った結果、そのロックを無視してアイテムを生成するようになってしまったのである。
その結果、時間や空間、生命のような、本来魂の管理者でなければ制御不可能な要素を制御出来る、エクストラクターなどのアイテムが生成されてしまったのである。
『鑑定』スキルさえなければ、こうしたアイテムを見つけることは出来ない。が、今からそのスキルを消してしまうのもまたバグの要因となりうる。クレアは『鑑定』スキルをレアスキルとし、他の用途を隠す事でゴミスキルと間違わせるという、ある種迂遠な手法ではあるが、バランス破壊するようなマジックアイテムの発見を遅らせる事に成功はした。が、焼石に水であることも彼女は勿論認識していた。
「はぁ」
クレアはため息をつく。このシステムのことを考えれば考えるほど憂鬱になる。頭が痛くなる。
辛うじて分かっているエクストラクターやシーリアのナイツエクストラクターは、「人間化」あるいは「能力強化」というベースの機能と、「潜在能力を引き出して色々起きるようにする」「アイテム自身が自己進化する」といった大まかな仕様だけを決めて、あとは完全な未確定事項としていた。スリンジャークに至っては、「注入したものを制御してパワーアップする」ということしか分かっていない。クレスがそうしたのでクレアは全く関わっていない。そしてクレス自身も適当に作ったのであまりよく分かっていないという、姉妹の適当振りが遺憾無く発揮された不可思議物体、ブラックボックスと化していた。
「ともかく……私も出来る限り協力致しますので、何とかあのインジェクターだけはとっとと追っ払って、それでエクストラクターを捨てて下さい」
このマジックアイテムの不具合に気付いたのはつい最近のこと、アクトに『鑑定』スキルを渡してから相当時間が経過した後であった。アクトを転生させた時に感じていた不安、それはこの事だったのだ。
事ここに至っては、彼と彼女に協力してもらって、このバグの温床となっている要素群を排除するしかないとクレアは考えていた。
「まぁ、そうしないと僕たちにも被害が出るわけだし、仕方ない」
「あのレヴェルをぶっ飛ばしてインジェクターみたいなキモいのもはっ倒して、ナクールを平和にしなきゃいけない。アタシとしてもそれは願ったり叶ったりよ」
「ありがとうございます」
「さて、まあ手掛かりは得られたし……ん?」
アクトはふと手元のコンパスを見た。針が自分の方を向いている。色々と角度を変えてみるが、全くその向きは変わらない。
「これ壊れてません?」
そう言ってアクトがコンパスをクレアに渡す。クレアの手元でもアクトの方を向いて離れない。
「……ああああああ!!」
クレアが大きな声で叫んだ。
「ど、どうしました!?」
「エクストラクターもバグだからそれに反応してあなたの方を向いてるんだ……」
「それはつまり、アクトが持っててもずーっとアクトの方を向くってこと?」
シーリアの言葉に、クレアはゆっくりと頷いた。
「意味ないじゃないの!!」
「そうなります。……どどどどどどうしましょう!!」
「こっちのセリフですよ!!」
三人がバタバタと慌て始める。話についていけないアーチェはただただ拝むばかりで何もしていない。
混乱に満ちた修道院。その扉が突然開かれた。
「どうせそうなると思いましたよ我が妹!!」
その声にアクトは聞き覚えがあり、そしてクレアにとっては、忘れる事も出来ないほどに嫌というほど聞き飽きた声であった。
「姉さん!?」
魂の管理者を辞めた女、クレス・スピリットとそのパートナーであるサチ・レースが立っていた。




