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8-3 管理者の苦悩

「おおおおおおおクレア様!!我らがクレア様!!まさか生きてお目に掛かれるとは!!」


 そんな会話を無視してアーチェが割り込んできた。


「あ、えー、その」


「おお我らが神よ!!我々は今まさに大変な事態に陥りつつあるでございます!!どうか我々に神の思しめムギュ」


「はいはい黙る黙る。クレア様でしたっけ、本題に入っていただけます?」


 シーリアがアーチェの口を塞いで言った。


「あ、はい」


 こほんと息をつくと、クレアは懐から何かを取り出した。小さく丸い器に矢印が置かれている。一見してコンパスだが、Nの代わりにBと書いてある。


「これがデバッガーコンパス。私の先輩が作ったマジックアイテムです」


「先輩」


「はい。先輩は命の管理者よりも更に上、世界の管理者として世界そのものを構築することが出来る人でした。ですがその、バグを色々と作り込んでしまって、それはそれは大変な目に会われたそうです」


 どっちが?その先輩?それともバグばっかりの世界に住んでいる人の方?アクトの脳裏にそんな疑問が浮かんだ。


「どっちもです」


 クレアが心を読んだかのように言った。


「まぁバグというものは皆さんにもよろしくないもの。そう思って頂ければ良いです」


 クレアはシーリアの方を見ながら言った。アクトがそちらを向くと、シーリアの頭の上でクエスチョンマークが盆踊りをしていた。


「君はまぁ聞き流してくれればいい。それで?これはこの先輩の経験を生かして作ったと、そういうことかな」


「はい。先輩はバグを匂いで嗅ぎつけることが出来る……らしくて。なんでも「これはアタシの大変に優れた嗅覚を物理的に再現したものよ。これがあればアタシがいなくてもバグを見つけられる。いやーアタシってば本当に天才よねー!!あ?バグ取り?そんなもんチョチョイのチョイで出来るでしょ」とのことで」


 クレアのその先輩を真似た口調は、アクトから見るとかなり悪意が加わった真似に見えた。ぶっきらぼうというか適当な物言いである。


「それは……まぁ、どうも癖の強い先輩だね」


 出来る限り穏当な表現で応える。


「はい。天才なのは間違いないのですが、如何せん性格に難がありまして……。や、いやいや、その件はいいです。本題とは異なります。重要なのはそれ、そのコンパスです」


 クレアは焦りの表情を浮かべて言った。聞かれていたらどうしようかと考えたのだろうかとアクトは推測した。


 実際その通りであった。魂の管理者の発言はある程度記録される。その「先輩」がわざわざこの世界の記録をほじくり返してどうこう言う事はないだろうとは思いつつも、万が一ということもある。クレアはこれ以上の陰口は言わないようにしようと決めた。


「インジェクターは明らかな世界のバグ。寄生能力を持つ魔物を作ったはずが、強化能力、高耐久力、挙句超短期での自己進化まで成し遂げました。あれは良くない。向こうからの物理的干渉が出来ないことが唯一の救いというレベル。とっとと処理しなければ大変なことになります」


「それは同意する。が、これはこれでチートだと思われるエクストラクターでも倒せない相手をどうやって?」


 クレアはじっと考え込む。


「あなたのそれも、シーリアさんのそれも、まだ完全な力を発揮していないようです。それを解放するしかありませんね」


「解放、ねぇ」


「どーやんのよ」


 それまでポカンと呆けていたシーリアが漸く口を開いた。


「分かりません」


「おい」


「そりゃないでしょ」


「知らないものは知らないのですから仕方ありません。というか、クレス姉さんがいるんでしょう?そっちに聞いてください」


「そっちに聞いても分からなかったから聞いてるんですよ」


「知らない、わかんない、一応研究はしてたけど、リリーフカードのセットで進化することくらいしかわかんない。リリーフカードはどうも適合者が手に入れたり出来るみたいだけど、詳しくは分からない。だからとっとと壊したい、くらいしか言ってなかったわよ」


「……」


 役立たずの姉野郎め、クレアは心の中で毒づいた。彼女は表には出さないように気をつけてはいたが、毒舌であった。


 とはいえ、実際、あの二つのアイテムと、レヴェルとやらが持っていたスリンジャーク。それが一体どのようなものであるか、クレアにも分かっていなかった。どうしたものだろうか。クレアは考えを巡らせる。

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