8-2 降臨
「おお懐かしの我が家。ようこそクレア様を祀るリギヌス修道院へでございます」
アーチェが手を広げてお辞儀をし、来客、即ちアクトとシーリアを迎え入れる。
「あ、はい、ええ、それはもう、よろしゅうございます」
アクトは疲れ果て冷たい床に座りながら言った。冷たいとは思うが、だからといって立っている程の余裕は既に無くなっていた。
「こちらは大昔に建てられた修道院でして。少々隙間風が吹きますでございますが、まあ我慢してくださいでございます」
霊峰の山頂近く、冷気が舞いに舞っているこの状況で隙間風とはすなわち吹雪である。よくもまあ耐えられるものだとアクトはある意味感心していた。無論というべきか、魔法による寒気対策はしている。それでも耐えられないものは耐えられない。加えて精神的に負担になっているのは、その光景である。一面の銀世界、視界すら失われる程の白い風。アクトはジャンベールのこの気候にはまだ慣れることは出来ていなかった。
「はひ、ひぃ、ふひー、疲れたし、もう、寒い、でもなんか、頭は暑い」
息荒くくたびれているアクトをみて、シーリアが苦言を呈する。
「もう少し体力つけておいた方がいいんじゃない?まだまだ戦いは続くだろうし」
アクトは「そうだね」と返事をしながらも、内心では全く同意していなかった。続いて欲しくはない。全く、決して、一切望むところではない。が、そんな感想を述べる余裕すらなかった。
「さて、早速ではございますが、クレア様を呼び出してくださいでございます。さあ!!さあ!!」
アーチェは古にも存在したらしい暖炉に薪を焚べた後にアクトに詰め寄った。その目は血走っている。
「ああああああもうわかりましたよ!!」
『ドラゴン!!』
『リリーフ!!』
僕は妥協しかしていないな、アクトは心の中でそう嘆いた。
『届きました。貴方の力。漸くそちらに干渉出来ます』
神々しい声が天から響く。
すると屋根があるにも関わらずそれを貫くようにして天から光が降り注いだ。屋根の下にいたアクトからもそれが見える。屋根が透けてすら見える。不可思議なことである。穴が空いているわけでもない。雪が降り注いだりもしない。むしろ雪が光を避けている。
そうして出来上がった光の通路をくぐって何かが天から降りてきた。女性だ。羽衣を着ている。白髪のサイドテールに光が当たり輝いて見える。
シーリアはその光景に唖然とし、アーチェは狂喜乱舞していた。アクトはというと、その姿には見覚えがあったのでそこまで驚いてはいなかったが、さりとてこの光景そのものはただただ純粋に美しいと言うことしか出来なかった。
クレア・スピリット。魂の管理者の降臨である。
「あれ、クレス姉さんは来なかったのですか」
その女性は開口一番にそう言った。
「やる事があるとかで来ませんでした」
アクトは応える。
「久々に会えるかと思ったのですが、残念。ーーいえ、ですが、それで良かったのかもしれません」
その女性は「はぁ」と溜息を吐いた。アクトがよく目を凝らすと、その頬や眉間にはシワが見える。疲れているのだろうか、そう思った。
「今会ったらキレそう」
疲れているらしい、そう確信した。
「お察しするけれど僕もキレそうなんだ。何この世界。ロクでもないことばっかり起きるじゃないか」
「言ったじゃないですか。その辺り覚悟しといてくださいね、って。あと色々あるかもしれないからよろしくねって」
色々、と言っても限度があるだろうとアクトは心の中で悪態を吐いた。と同時に気になった事があった。
「……まさか僕がエクストラクター使えるのは君のせいではないだろうね」
「まさか。それは完全に偶然です。エクストラクター自体私も、そういうのが出来る余地を作った姉さんすら知らないでしょうから」
それは良かった、のだろうか?アクトはイマイチ納得も何も出来なかったが、そういう事にしておいた方が良いようである。今は自分の話は勿論ではあるが、自分の身に起きている出来事を処理するためにも、本題に入らねばならない。




