7-8 逆行
『ドラゴン!!』『シャーク!!』『リリーフ!!』
『結合!!』
『♪リ・ヴァ・イ・ア・サ・ン、フォース!!』
「ちょ、ちょ、何よ」
アクトが唐突にリヴァイアサンフォースを装着したのを見て、シーリアは驚きの声を上げた。
「おおおおおお!?なんだねこの凄まじい魔力は!?」
バターディアがリヴァイアサンフォースから発せられる強大な魔力の奔流に目を見開く。
「これがニール皇帝が仰られていた力……。素晴らしい……!!」
ゲイアサイルは恍惚とした目でそれを見ていた。正確には、その先にニールの姿を見ていた。
「大丈夫かねこの人」
「知らないわよ。何かあったらアンタがフォローしなさい」
「ええ……」
知り合い同士というのもあってか、バターディアとシーリアが軽口を叩く。
他方アクトはじっと身につけたリヴァイアサンフォースを見つめていた。
「…………これか!!」
アクトは何かを見つけたことで叫び声を上げると、城壁の縁へと立った。
「え、何、何するの」
「シーリア、それとえーと……バターディアさんとゲイアサイルさん」
アクトは振り向きもせず、じっと戦場になろうとしている平原の先、もうすぐ到達するであろう魔物の群れへと向けられていた。
「今からみんなを元に戻す。なので兵士達には優先的に人々を守るように指示して下さい」
「え?」
「む?」
「元に……?」
シーリアは不安になった。何を言っているのだろう。人々を守る?元に戻す?前者はまだしも、後者はできないだろう。できないから困っているのだ。
だがアクトはそう思っていないようであった。
彼の目は希望に満ちていた。
「じゃあお願いします!!」
言うなりその場から飛び出し、城壁に仁王立ちする。
「行ける!!やれる!!ちょっと……無理があるかもしれないけど……いや出来る!!」
自らを奮い立て、自らに言い聞かせるように叫ぶと、
「頼むよ、頼むよリヴァイアサン」
そう呟きながら不安そうに自らの腕に付けられたエクストラクターを撫でる。少し考えてから、やがて意を決したようにレバーを2回引く。
『リヴァイアサン!!」『エクストライニング!!』
全身の魔力がエクストラクターに集中する。
「ぐ、ぐぐ……なんとか、なんとか耐えろ、僕の体……」
対象は全員。だからこそ大量の魔力を必要とする。たった数秒で魔力が全身から抜けていき、疲れが貯まっていくのが実感出来る。それでも彼はレバーを止めずじっと耐える。
やがて、必要と思われる魔力が貯まると、エクストラクターのレリーフが輝きそれを伝える。
「洗い流せ!!押し戻せ時の波!!リワインドタイダル!!」
魔力が集中した手を翳し、アクトが叫ぶ。
『リヴァイアサン!!』『カムバックフィニッシュ!!』
右肩のリヴァイアサンの頭の目が光り、手から水流が発生する。水流は魔物達を包み込み、何もかも洗い流さんとする。だが実際には全く魔物達は動かない。水はただそう見えるだけで、実際に水が発生しているわけではないようである。最初は驚いていた魔物達も、やがてそれが自分たちに直接的な被害を与えない事に気づくと、前進を再開しようとした。
だが、様子がおかしい。
一部の魔物の動きは止まったままである。
「ドウシタ」と指揮官クラスの魔物が声をかける。が、止まったままの魔物はその場で何か「ウ、ガ」などと呻くばかりで行動を起こさない。
すると突然、魔物達の姿が変わり始めた。
四足歩行の魔物も何もかも等しく二足歩行へと変化していく。生えていた体毛も徐々に減っていく。まさしくそれは魔物進化の逆行であった。魔物が人間に変わっていく、その風景をリアルタイムで見せられているような、そんな光景であった。
否、それは"ような"ではなく、正しくその光景そのものであった。
魔物だった者たち、下級魔物の大半が、人間へと戻っていく。
指揮していたレヴェル派の魔物達は、何が起きているのか理解出来ずに困惑するばかりで、何も対応が出来ないでいた。
やがて水のような光が収まると、完全に人間と魔物の数は反転していた。
「ふ、う……うまく、いっ」
アクトはそう言おうとして、体力の限界を迎えた。
彼がしたのはリヴァイアサンフォースの隠しギミック、時間逆行。水のように流れる時の流れを堰き止め逆流させる能力であり、各フォースに封ぜられた最終奥義の一つである。
不可逆魔法はつまり時間や条件で解ける事の無い魔法である事を意味する。だが厳密には、不可逆という表現は適切ではない。何らかの方法で時間を巻き戻し、そもそも魔法が掛かっていない状態へ至る事が出来るならば、いくら不可逆魔法であっても無効に出来る。問題はそんな方法は通常存在しない事である。時を戻す魔法という物は、この世界においては未発見であり、存在するかどうかも不明である。故に時は絶対であり、戻す事が出来ない。だからこそ不可逆魔法は不可逆なのである。
だがこのエクストラクター、そしてそれにより生み出された各フォースは、世の理を超える。クレアが危惧していた通り、これは本来不可能である事象を引き起こす事が出来る。リヴァイアサンフォースであれば時間逆行。ドラゴンフォースであればーー。それは奇跡にも等しい能力。命の管理者、世界全体の管理人でなければ出来ない事を可能とする。
だが代償はある。それは使用者の魔力。完全な魔力の喪失は命に関わるため、使用者保護のために全ての魔力は使用しないが、代わりにその大半を消費する。大半を消費した使用者は全身の強烈な疲労に見舞われ、即座に気絶するという代物である。
彼が危惧していたのは、自らの体調ではなく、それだけの魔力を使用しても全ての民を対象にする事は出来ないかもしれないという点であった。効果範囲は使用した魔力量に比例する。エクストラクターにより大幅に魔力が増幅されているとはいえ、彼の魔力がどこまで効果を齎せるかが不安であった。
実際は、なんとか全ての魔物――民――を対象にする事が出来た。
力を使い果たしたアクトは、城壁の縁でバタリと倒れた。
あまりの状況の何があったのか理解し難い状況におかれ、シーリアとバターディア、ゲイアサイルはポカンと口を開けて彼が倒れるまでを見つめることしか出来なかった。




