7-7 合流
「あーもっと金とか使って遊びたかった―」
バターディアの心の中の声が思わず漏れる。
「勝って遊べばよろしいではありませんか」
「あの量に?」
無理だ、何を言っているんだ。そういう目でゲイアサイルを見る。が、彼の目はしっかりと輝いていた。
「言うまでもありません。その通りです。問題ありません。我々が力を合わせ、ニール皇帝の作戦通り、合流してする最高戦力をサポートすればいけます」
「はぁ。随分と心酔しておられるのはよろしいのだけれど、その無茶苦茶細い綱渡りにあーしらを巻き込まないでほしいところなんですがな」
そこまで言って、更に続ける。
「それで?その最高戦力とやらはどこに居られるのですか。是非ご挨拶をせねばなりませんな」
「ここに居るわよバターディア」
その声を聞いて彼女はギョッとした目で急いで周りを見渡した。この声、何故今聞こえるのか?かつての友好国、ナクールの騎士団長、我らの軍を1:50でなぎ倒した化け物ゴリラの声が?
と、声の元を思い返せば上空である事に気づき上を向く。そこにはゴツゴツの鎧を身に着けた竜のような何かと、そして見覚えのある女の顔があった。
「とうっ」
その女が飛び降り、そしてバターディアの前に着地した。相当の高さだったが、ダメージは無い。そう、無いように見える。バターディアの記憶の中で、そんな事が出来る人間はただ一人しかいなかった。
「しししししししししししシーリア・ガードナー騎士団長!?」
「元、よ。追放されてジャンベールに亡命して、あとはただの使者とかそーいうのやってるから。それよりアンタ随分と偉そうな態度をこの師団長さんにしていたわね?」
シーリアがバターディアの首に腕を巻きつける。
「いいい、いいいいや、そんなつもりはない、です、よ」
「それならいいんだけど。でもあんまりやる気出さなかったり、他の連中いびったりしてたら、アンタらがアタシ一人にまっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっったく歯が立たなかったことをペラペラ言いふらすからね」
「もうすでに手遅れじゃないか……あーたの声でかいんだよ……」
フィナの兵士達が赤面して下を向いた。シーリアと目を合わせたくないという一心であった。
「来てくださいましたかシーリア様、それにアクト様」
他方ゲイアサイルは目を輝かせながら救世主の登場に喜びを隠せないでいた。
「え、もしかしてこい……こほん、この人達が?」
「はい、最高戦力とお呼びしていたのはこのお二人です」
「…………ああ、勝てる、かも」
それを聞いてバターディアは内心ホッとしていた。この状況を打破出来る奴?いるわけないだろ。それよりどう逃げようか。そんな事を考えていた彼女であったが、特にシーリアの顔を見て考えを変えた。この女なら何でもやりかねない。一騎当千・当万というのも比喩ではないだろう。そのくらいフザけた力を持っているのを、彼女はフィナ・ナクール交流試合で散々見せつけられてきた。
「あまり過度な期待は控えて下さい。向こうの戦力は侮れません。それにあの軍勢を倒す事にも問題が無いわけではありません」
アクトは冷静にそういった。
「どういうこと?」
事情が掴めずバターディアがキョトンとした顔で言った。
「どうやら聞いていないようね」
シーリアはそういうと、あの平原を埋め尽くさんとする勢いで蠢く魔物達が、如何にして作られた存在かを説明した。
「……というわけで、あれの大半は元人間なの」
「なんだそんなこと?」
バターディアの言葉に、思わず「そんなことって……」とシーリアが返すと、更にバターディアが続けて言った。
「関係なかろう。こっちに危害を加えようとしてる連中、しかも不可逆なんだろう。そんなものを気にするだけ無駄ではないかね」
「…………」
シーリアは反論が出来なかった。確かにその通りである。戻す余地が無い以上、彼ら彼女らは魔物として扱う他無い。言葉は悪く聞こえるだろうが、「処理」してしまうのが一番なのだろう。
「…………そう、なんですけれど」
アクトも言葉に詰まる。正論だとは分かっていた。
「ですが数は多すぎます」
「いくらアタシでも動けなくなって押し切られるわよ」
「まぁ、それは……そうだなあ……」
「作戦を立てて対処すべきと考えます。アクト様、何か考えはございませんか?」
ゲイアサイルが行儀よく尋ねた。彼はニール皇帝が信じるアクト・シーリアを信じていた。あの皇帝陛下が信じている方なのだ、きっと何とかしてくれるはずだ。そういう期待が目に現れていた。ニールに対するそれには至らないが、若干の信仰的感情が入り混じっているようだとアクトは思った。
「う、うん」
そういう目で見られると何とも困り果ててしまう。何せ今のところ何の考えもないのだ。
魔物の数を減らせればいいのだが、そう簡単な方法はない。魔物化した人間を元に戻せれば最良、だがそんな方法は無い。
不可逆変化である以上、魔法を解けばいいというものではない。時の流れは戻らないのだ。水が上から下に流れるように。
「…………」
水。
アクトの脳に何か電流のようなものが走ったような気がした。




