7-6 会議
他方、現地ではフィナとジャンベールの兵士が交流と作戦会議を行っていた。
「私はジャンベールの師団長、ゲイアサイル・ストライカです」
寒冷地用の鎧に身を固め、髪の毛もしっかりと整えられた若い男性が言った。彼はジャンベール軍の中でもニールの信頼が厚い師団長で、この事態にまず派遣すべき少数精鋭部隊として選ばれた。
彼はニールに心酔していた。
正しい判断、いざという時の機転、それを実現する彼の頭脳と指揮命令能力の高さは素晴らしいものがあると考えていた。先代は特に判断力については優柔不断で振り回される事が多く、いつかクーデターを起こすべきだろうかと真剣に考えることすらあった。
だが、この若き皇帝になってからというもの、あらゆる指示が明確かつ的確であった。仕える身として彼はそれが嬉しかった。自分がこの軍で働いている事を誇らしく思っていた。そこに来てこの世界全体の危機にも繋がりかねない大事件である。彼は自らの命を賭してでも事態の打開をせんと覚悟していた。それがニール皇帝、ジャンベール帝国に仕える自分の成すべき事だと信じていた。
「フィナの軍団長、パターディア・インセージョン。よろしく頼む」
伸び切ったボサボサの髪の毛でだらしのなさそうな女が言った。
彼女はフィナの軍を指揮する身ではあったが、礼儀作法はからきしであった。
そんな彼女が何故軍団長になれたかと言えば、この国の制度や体質の問題が大きい。比較的平和なこの国の軍なので、実力や知力よりも王やそれをとりまく貴族達に以下に媚びを売るかという点によって昇進が決まる。彼女はそれをフル活用して成り上がった人間の一人であるため、決して戦闘力や頭脳を持ち合わせてはいないわけではないが、騎士・兵士として正しい振る舞いというものは持ち合わせていなかった。
王はともかく、周りの貴族階級の連中は取り入りやすく、貧民街出身の彼女ではあるが、多少容姿と実力を備えて、扱いやすく見えるように振る舞っておけば出世は容易いというものだった。むしろ強い信念を持っている連中ほど下で燻っている傾向がある。彼女はそういう連中を内心嘲笑っていた。
が、事ここに来て自分もそうしておけばよかったと後悔した。魔物との対峙というこの局面において、流石に軍団長という身分で逃げ出す事は現場の空気と部下が許さなかった。下で燻っていた連中はと言えば、率先して民の避難に手足を動かしている。王もそういう指示を出した。とにかく民の避難を最優先にせよ、というお達しである。
お優しいことで、あるいは、面倒くさいことするねぇ、そんな思いが彼女の中で湧き出た。
見捨てればいいじゃないかと思う部分は大きかった。燻っていた連中が結果的には戦場から離れていくのを見て、羨ましいと思うこともあった。そんなわけで今彼女は非常にやる気が無かった。このまま流れに乗ってどうにでもなってしまえ、そんな遣瀬のなさに包まれていた。
正反対の心を抱いた二人は握手を交わす。二人は今回が初顔合わせであった。フィナとジャンベールは比較的友好関係を結んではいたが、交流は少なく、フィナとナクールのように兵士同士での顔合わせや友好試合などが行われる事は無かった。
「あー、その、数が随分と限られておりますな」
バターディアが嫌味を若干込めた口調で言った。「お前のところは偉そうに色々言ってきたみたいだが、用意出来る戦力とはその程度なのか」という意味が言外に込められていた。
「申し訳ありません。やはり転送魔法では人員確保には限度がありまして。じきに最高戦力、まさしく一騎当千・当万とも言われる方々が参られますので、少々お待ちいただければと」
アクトとシーリアの事である。彼自身は二人とは面識は少なく、会ってもジャンベールでだけであったので、ニール皇帝が興奮気味に「彼らならきっと何かやってくれる」と言っている事についてはいまいち同意も反論も出来なかった。が、彼がそこまで言うのであれば、きっとそうなのだろう。きっと我々を凌駕する人智を超えるような力を有しているのだろう。一騎当千・当万という表現は、まさしく彼の想像から付いた尾ひれである。
「ただ気になりましたのが、そちらも人数は少ないようですね」
とはいえゲイアサイルとして、ニール皇帝の判断を疑い、まして小馬鹿にするような言い方には多少ムッとなった。思わず嫌味を込めた言葉を返す。
「大半があっちに――民衆の避難誘導に回りましたからな。全くお優しい事で。我々も一応精鋭ですので、そこはご安心を。……とはいえ」
そういってバターディアは外を見た。
「あの量はちょっと異常ですな」
窓の外。木々をなぎ倒しながら、海の波の如く蠢く何かが見える。
それは色とりどりの魔物である。それが波打ちながらこのフィナの城壁へと迫っているのだ。




