7-5 間際
そしてフィナ共和国にアクト達が到達したのは、ゴーシュが回答してから数時間後の事。既にフィナとナクールの間の平原が真っ黒に染まった頃の話であった。
平原に点々とする木々の向こう側に、魔物の群れが大量に見える。
それに相対するように、フィナとジャンベール、そしてルフトの国旗をつけた兵士達が並んでいる。
「もう完全に戦争ね」
「戦争になってしまうのは……少々心苦しいものはあるけど」
今対峙している魔物達は全て元は人間だった。出来る事ならば殺したくはない。殺したいとは思わない。
だが自分の時もそうだが、魔物への変化は不可逆である。もう彼ら彼女らは人間だった頃の記憶すら残っていない。ただの低級魔物である。
「やむを得ない、のだろうか」
「……嫌だけどね。でも重要なのは。ここであれらを通せば、もっと多くの犠牲が出るってこと」
「分かってる。……分かってる、けれど」
アクトは自分に言い聞かせるように言った。理解はしている。だが納得はしていない。何か取れる方法がないかは常に考えねばならない。
「……まぁ。まぁとりあえずフィナもこちらに着いたわけで、ある程度拮抗出来る状況にはなった……と言いたいんだけど」
アクトは兵の数を見た。
「足りない」
全く兵士の数が足りていない。だがおおよその理由は理解出来る。フィナは人口が多い。その護衛に兵士を回したのだろう。フィナとルフトの間は結構な距離があり、かつ魔物も多く住み着いている。十分な数の兵士無しに「逃げろ」と指示しただけでは、戦争で死ぬか逃げる途中で死ぬかの違いでしかない。
実際この予想は当たっていた。ゴーシュは民の避難を優先し、そちらに相当数の兵士を回した。無論、戦闘が始まればある程度は残して戻るようにも指示はしているが、果たしてどこまで戻るのか。ニールは面と向かっては非難しなかったが、ゴーシュのその決断を聞いて、こっそりと溜息をもらしていた。
「ジャンベールの兵士も少ないわね」
ジャンベールの兵士は本当に数える程度しかいない。百人に満たない程だろうか。
「距離が離れているから転送魔法を使わなければならない。だが大量の輸送には全く合わないのが転送魔法の特徴だ。これはこれでかなり魔術師が頑張った結果だよ」
この予想も正しかった。ニールが溜息をもらした要因の一つでもある。ゴーシュとニールはやむ無くルフトに連絡、ルフト-フィナ間に臨時の防衛線を敷く事で調整が進んでいた。この情報はアクト達には伝わっていない。兵士達への指示やルフト側との協議で奔走しているためである。いくら魔法があっても、人手が必要な部分に関しては如何ともし難い物があるのが現状であった。
「とはいえ、さ」
「分かってる。このままではどうにもならない。魔物の群れの進行速度も予想以上に速い。このままでは恐らく数時間後には到達する」
アクトはそう言って何かを考えだした。
「……何か、逆転の一手が必要だ。それこそ……」
その先を口にする事は、不可能だと思える事を口にする事は、ーー先程も自分に言い聞かせた事をまた繰り返す事はまだ、彼には出来なかった。




