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7-4 苦悩

 フィナ共和国の国王、ゴーシュ・デュマインは入ってくる報告に愕然としていた。


 最近沈黙を保っていた友好国ナクールから突然魔物の軍勢が現れ、こちら、即ちフィナ共和国へと向かっているというのである。何かの間違いだろうと確認の兵士を派遣したが、その全てが間違いで無いと回答し、半分は魔物に殺され帰ってこなった。どうなっているのかと戸惑うばかりで、もう何も考えがまとまらないでいた。


「どうしろというのだろーう」


 彼の大らかな性格を反映させたゆったりとした喋り口調で彼はボヤいた。部屋には一人自分だけ。部下は全員今後の対策のために作戦室に篭っているが、全く良いアイデアは浮かばない。中には「そろそろ逃げましょう」という者さえ居た。


 だがゴーシュとしてはそれは絶対に避けなければならないと考えていた。彼は民主的に選ばれた国王であり、支持率も高い。そして彼は、自分を信じてくれる民達を大変に好いていた。見捨てて逃げ出すなどということは彼の検討の俎上に載ることは決してなかった。


 が、それでも絶望は感じている。


「民達をどう逃がすべきかなーあ……」


 自然に諦めにも近いそんな言葉が溢れる。部下が居ないタイミングで良かったと思うが、仮に居たとしても溢れたであろうと彼は思っていた。


「ああ、もうダメかなーあ」


「報告致します」


 完全に諦めの言葉が溢れたところで、部下が入ってきた。


「何かあったのかーね」


「はい。ジャンベールから連絡がありました」


 ジャンベールとは国交が少ない。地理的に離れており、かつジャンベールは行きづらいということからそうなっているのだが、一応音声に限り通信魔法では接続していた。だがそのジャンベールが何の用なのだろうか。まして、この緊急事態に。


「今?」


「はい。例の魔物の軍勢に関してお話しがあるとのことです」


 その言葉でゴーシュは驚愕した。何故ジャンベールがそのことを知っているのか。全くよく分からない。


 分からない以上、その連絡を受ける他無いと彼は確信した。


「わかった、繋げて欲しーい」


「承知致しました。お繋ぎ致します」


 兵士がそう言うと、謁見室にニールの声が響いた。


『あーあー。聞こえるかね』


「聞こえるよーう。久しぶりだーね」


『うむ。そちらは健勝なようで何よりだ』


「そう見えてーも実際はそーいうわけではないんだよーね」


『知っている。魔物の軍勢の件であろう』


「そうなんだけーど、なんでそれを君が知っているんだーね?」


『こちらにナクールからギリギリのタイミングで亡命してきた者達がいてな。事情を聞いて監視を続けていた。そういうわけで、今そちらがどういう状況かもある程度は理解しているつもりだ。こちらで知ることを共有しよう』


 ニールは一通りの事情を説明した。レヴェルという悪魔がナクールを占拠し、その住民を魔物に変えていること。そしてレヴェルの目的が魔王の打破であること。


『率直に聞こう。旗色はどうだ』


「無理。あの数を何とか出来るとは全く思えなーい。何とか民をどこかに逃せないかを考えようとしているところだーよ」


『うむ。正直、そちらの戦力ではどうにもならないだろうということは予想していたが、やはりか。……奴らの目的は魔界、魔王の打破だ。つまり、このままでは間違いなくそちらを通り、ルフトを通り、魔界の大穴へと向かうだろう』


「素通りしてくんないかーな」


『それについては未知数だが……だからといって放置しても我々に利点は無い』


「目的は魔界なんだーろ?だったらこちらの世界には興味ないんじゃないーの?」


『そこは分からん。分からんからこそ備えねばならない。考えてみろ。魔王を倒すということはそいつが魔王になるということだ。そして人間を魔物化するという技術を備えている。魔界を支配して次にやることといえばなんだ?』


「……こちらの支配?」


『可能性は高いと考えている。少なくとも友好関係を紡げるとは思えん。友好関係を築くつもりがあるなら魔物化なんてすまい。君の方でも監視なりの兵士は送ったであろう?そいつらはどうなった』


「……ああ」


 半分は死んだ。残りは命からがら。友好関係を結べるかという点についてはニールと同意見であった。


 何より、魔物化という意味のわからない言葉である。その単語を聞く度にゴーシュは背筋が凍る思いであった。今まで禁術としても研究された事すら無かった技術。それを実用化にこじつけた?そうなれば、人間は、民はどうなる?


「やはり戦わねばならないのかーな」


『それが良いと考えている。今こちらは逆に魔王と友好関係を築けている。便宜上こちらの世界を人間界とするが、人間界と魔界の双方で協力しナクールの軍勢を押さえつけることが、結果的には全体の利益に繋がるだろうと考えている』


「……まあ、それはそうかもねーえ」


『そこで君と君の国に協力して欲しい』


 ゴーシュは嫌な予感がした。


「……この国を防衛線にしたいって?」


『察しが早くて助かる』


「それしかないだろうということは理解出来るけーど、民はどうすればいい?」


『ルフトとも連合を組んでいる。一時的にそちらに避難させるしかない』


「……ここが堕ちたら民達はどうなる」


『安心しろ。そこが堕ちたらルフトが防衛線となる。だがルフトから退避出来る先は無い。つまり、フィナが最終防衛線なのだ。そこが堕ちたらこの人間界は終わりだ』


「……少し、少しだけ、考えさせてほしーい」


『無論だ。こちらから兵士を送る時間の都合上、30分後に結論を聞かせて欲しい』


「わかーった」


 そう言うと通信は切れた。


 静かになったフィナの謁見室に、ゴーシュのうんうん唸る声が響いた。

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