6-10 騎士の力、エクスカリバンカー
「何これ」
思わず出てきたのはそんな率直な言葉だけだった。いや分からない。何これ。よく見たら古ぼけていたはずのエクストラクターは金色に輝いているし。何が起きたやら、全く理解が及ばない。
とりあえずわかるのは、アイツの鎧とは全く違うデザインのそれが、アタシの体を包み込んでいる。それと、アタシが最近愛用している盾。それが、多分だけど、なんかぶつけたら杭が撃ち込まれる系の武器になったであろうということだ。仕組みは良く分からない。アイツがいりゃあなぁとか思うけれど、今はそれを考えている暇はない。
「ず、ズルイゾ!!人質解放シタノニ!!」
ブレングが言う。知ったことか。解放したのだって結果的にじゃないの。
「アタシだって渡す気はマンマンだったわよ。勝手にこいつがくっついてきたの」
つんつんとエクストラクターらしきそれを突く。
「ウルサイ!!死ネ!!」
言うなりブレングはその拳をアタシ目掛けて打ち下ろした。普通なら無敵とはいえ弾かれたり吹っ飛ばされたりはするので面倒なのだが、アタシは敢えてこの鎧の性能を確認する目的でそれを受け入れた。
ボキィッ。
ブレングの拳から鈍い嫌ーな音が聞こえた。
「ギャギャァァァァァッ!!俺ノ腕ガァァァァァ!!」
ブレングの打ち下ろした方の腕ーー右腕がポッキリと折れていた、曲がってはいけない方向へと。
一方アタシの方は全然痛くない。無敵だからというわけではなく、とにかくこの鎧が相当の硬度とダメージ軽減能力を有しているからだろう。
「よし、とっとと痛みをなくしてあげるわ」
アタシは手元の盾を持ち上げた。すると持ち手の部分に何かトリガーがあるので引いてみる。
『エクスカリバンカー!!』
それがこの盾の名前なの?変なの。ただとりあえず、この切先の部分を相手にぶつければ良さそうなのはわかる。
「おらぁ!!」
アタシは盾を力任せにブゥンと振りかざして、ブレング目掛けて突進した。
「ガサツな声でございます」
ウルサイ。
「クルナ!!」
ブレングは折れた方の腕を翳してそれを防ごうとする。
ガゴォン!!
盾が腕に当たった瞬間、盾、いや、エクスカリバンカーに装填されていた杭が勢いよくブレングのそれに撃ち込まれた。
「ギァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
骨を穿ち、肉を切り裂き、鋼鉄の杭がブレングの腕に穴を開ける。緑色の血が吹き出す。うげ、ちょっとグロい。
「き、キザマァァァァ!!」
「すごい!!強い!!流石伝説の武器!!」
アンペールがキラキラと目を輝かせる。
「クレア様の思し召しの通りでございます!!神はやはり実在するのでございます!!」
アーチェもまた同様に。ただ理由はそれぞれ違うようであるが。
「グヌヌヌヌァァァァァァッ!!」
ブレングは凄い勢いで睨みつけてくるが、他方手出しも出来ずじっと動かない。
「ここで立ち去ってレヴェルの奴のところに逃げ帰るなら見逃してあげる。でもこの二人とアタシに手を出そうってんなら、次は本気で殺しにかかるわよ」
アタシは冷たく言い放った。こういう時は、……なんだっけ、ギゼン?とした態度を取ってやらねば。
と、何かがブレングの後ろにいるのに気がついた。黒い影のような、かといってブレングの影ではない、もっとトゲトゲとした何か。立体的な、実体のある何かが。
「後ろ」
アタシがブレングの後ろを指差した。
「ソノ手ニ乗ルカ!!」
「いや後ろでございます」
アーチェもブレングの後ろを指差した。
「ダカラ嘘ダロ?ワカッテンダヨ」
「本当に後ろに何かいますよ!!」
アンペールまでもがブレングの後ろをーー
「ウルセェ!!」
ブレングはアタシ達の言葉を無視して腕を振り上げると、再び攻撃しようとし、止まった。
「…………」
無言。無言のまま、じっと止まっている。
どうしたのだろうか。
「ア、ガ、ア」
それが口を開くと、吃ったような濁った声が出た。
「お、オレノ中ニ、何カ、ガ」
振り絞ってそう言うと、カクンと首を曲げて倒れた。
後ろにいたはずの何かは消えていた。誰もいない。ただ暗闇だけが広がっている。
と、ブレングの姿を見ると、多分背中からだと思うが、胸に大きな黒い穴が空いているのに気が付く。そして不可思議なことに、次の瞬間、黒い穴はシュンと風を切るような音ととにも消えた。
更に次の瞬間、むくりとブレングが立ち上がった。
目は黒く濁り何も映っていないように見える。生気のようなものが感じられない。
「……一体何が?」
訝しむアタシに向けて、ブレングは折れた腕を持ち上げて振り下ろした。
ボキボキボキボキ。
アタシの鎧にぶつかって腕が更に複雑に折れていく。骨という骨が粉々に砕けているように見える。
が。
ボキボキボキボキ。
ブレングはその折れた腕をブンと振るうと、そんな音を立てて、ぐねぐねと曲がりきった腕が真っ直ぐ戻っていく。
「な……?」
驚くアタシに対して、ブレングは先程までよりも更に尖った牙を見せつけるように口を大きく開くと、
「グルゥァァアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
狂ったような雄叫びを上げた。




