6-8 遺跡の奥へ行こう
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!怖いでございます!!クレア様!!お助けください!!」
器用なことに空中で祈り出したアーチェを抱き抱えて下側へと回り込む。落下してもアタシは無敵。一応死なないはず。アーチェは無理なので、何とか守らねばならない。
「あああああああああああ来るな来るなぁぁぁぁぁ!!」
と、何かが叫んでいるのが下から聞こえる。だが下が見えないので何とも言えない。
「来るなと言われても落ちてんだから無理よ!!ぶつかりそうなら避けなさい!!」
アタシは空中に向かって叫ぶ。声が届くといいのだけれど。
「ひいいいいいいいいいい!!」
届いたのか、下から怯えるような声と、何か動く音が聞こえる。その音源に近づいている。そろそろ終点のようだ。
「衝撃に備えて!!」
「そそそそそそそう言われましてもぉおおおおおおお!?」
アーチェが狼狽える中、アタシの背中が何かにぶつかった。
ぽふん。
柔らかな感触がアタシの背中の盾から全身へと伝わり、そして落下の衝撃は消える。
「…………?」
アタシが背中の方を見ると、そこにはクッションがあった。
「よ、良かった……」
最悪針とかだったらどうしようと思っていた。貫かれこそはしないが、チクチク痛そう。
「ふ、ふぅ……良かった」
その声はアーチェではなく、別のところから聞こえた。
下側から聞こえてきた怯えた声の主のようである。
「誰?」
抱きかかえていたアーチェをクッションへと放り、盾で防御を張りながら声の方へと向き直る。
「ぎゃふん」
跳ねながらアーチェが変な声を上げた。
「ひぃぃぃぃぃ!!殺さないでください!!傷だらけで死にそうなんです!!」
そこには居たのはコボルトだった。腕が折れて青い血がダラダラ流れている。その腕と無事な方の腕でこちらに向けて手のひらを翳して「来るな来るな」というポーズを取っている。見た感じ、本当に怯えているようであった。
なんか拍子抜けするわね。
「罠に掛かりまくるわ落とし穴に落ちたと思ったらクッションの前に壁に腕ぶつけて骨折するわ、もう散々でして……。あなた方が落ちてきたので潰されるかと思いました」
コボルトは流暢な人語で自分に起きた出来事を話してくれた。狭い落とし穴の中、だいぶ変な体勢だが仕方ない。
レヴェルに指示されてもう一匹の魔物とここに来たこと。
治癒のスキルを持っているからという理由で罠に掛けられ続けたこと。
最終的に落とし穴に落ちてこの様だということ。なお、落とし穴の仕掛け扉は自動で戻る仕組みだったせいで、そのもう一匹の魔物が居なくなってからは真っ暗になってしまったらしい。クッションの上でぼそぼそと泣き続けていたということである。ちょっと情けない。
「僕はコボルトのアンペールと言います。人語を話せて古語の解読も出来るということで連れて来られたのです。魔界でのんびりしたかったのに……。連れて来られた先の魔物達は殆ど意思疎通出来ないですし散々ですよもう」
人間を魔物に強制変化させると知能は低下し、術者の言うことだけを聞く。連れて来られた先の魔物というのは、つまりそれを指しているのだろうとアタシは考えた。
「ナクールの城の人達?」
「ええ。もう街の人もみんな魔物になってます」
酷い。
酷い話だ。
「レヴェルの目的は何なの」
アタシが怒り顔で言うと、アンペールは怯えながら言った。
「そう怒らないでください……」
「怒りたくもなるわ。アンタにじゃなくてレヴェルによ」
「僕に当たらないでくださいって……。もうこんな目に会いたく無いですし吐きますけど、アレは魔王になりたいんです」
予想通りの回答が来た。
「魔王が強すぎる。敵わない。そう悟った彼女は、とにかく強くなる方法として、彼女が持っていた外れスキルを何とか活用することを考えました。それが人間を魔物化することによる未鑑定アイテム増殖計画です」
「随分直球な作戦名ね」
「あの人ネーミングセンス無いので。僕も詳しく知ってるわけではありませんが、人限界でしか未鑑定アイテムっていうのは出てこないらしいじゃあないですか。それで乗っ取りを画策したんです。ナクールは魔界の出入り口から一番離れてますから」
なんかこう、ビックリする程アイツの言う通りな気がする。改めてアイツの凄さを理解させられた気がした。
「あともう一つ」
「ん?」
「この遺跡に悪魔が眠ってるからとか、そんなことも言ってました」
「悪魔でございますか?」
「はい。魔界の伝説でこういうのがあります。『世界を蹂躙する巨大な悪魔、人限界に眠る。愚かなる古代のスランの遺跡に』と。僕はこの伝説と魔界の過去・歴史を研究していたのでレヴェルにスカウトされたんです」
「それでも捨てられたと」
「僕はなんも悪いことしてないですよぉ。同行したアホが脳筋のカス野郎だっただけです」
結構腹にすえかねていたのだろう。この件になると饒舌で口汚くなる。まぁそんな怪我させられればそうもなるか。
「とりあえず怪我治しちゃいなさいよ」
「そうします。でもこの穴どうしましょう。出られないですよ」
アンペールが治癒のスキルを使って骨折を治しながら嘆くが、アタシはあんまり気にしていない。
「出られないなら壊すまでよ」
そう言って盾を構えて目の前の壁にぶつけた。
「無理でございますよ」
アーチェが言うと同時に、ピシッ、という音が響いた。
「は?」
すると、盾をぶつけた壁が、ボロボロと崩れ落ちた。
松明の明かりが先を照らす。回廊が続いている。
「……いや本気じゃなかったんだけど」
かるーくぶつけただけだったのだが、それだけで壊れるものなのか?
「……いや、この壁だけ材質が違うみたいです」
アンペールが崩れ落ちた壁を拾い上げて、松明の心許ない光に照らしながら言った。アイツみたいなことしてら。
「これが正規の通路だったということでございますかね?この落とし穴が罠だったとして、落ちた下にクッションというのは理解出来ないでございますし」
アーチェがうーんと唸りながら言った。そういうことかもしれない。
「ともかく。道が出来たなら行くだけよ!!」
アタシは立ち上がると、道を進み始めた。アーチェとアンペールもそれに続いてきた。




