6-6 ナクール王国の端へ行こう
ナクールの西方は海だけど、その海とは断崖絶壁で隔たれている。港のようなものはない。この印が付いている場所は、大凡その近くだ。
「結界の中ではないのか?」
「見てみないとなんとも言えませんが、街からは結構離れた場所かと思います」
「ふむ……結界の外だとすれば、奴らがこれを狙っているとしても、結界から出ないと調査出来ない。これを知っている可能性は低いと考えても良いかもしれん」
「先程の結界解除の時には?」
「一応四方を監視させていたが、特に確認はされていない。だが敵の監視も多少はあるようで、完全にはカバー出来ていないのが現状だ。見逃しがあるかもしれないという意味だな」
多少見逃しがあったとしても、大々的な調査が起こっていないということは、まだ彼女らはこの事に気づいていないのかもしれない。
まだ。
「奴らに見つかり、万が一破壊されたら、何の手掛かりも無くなる。すまんが、任せて良いだろうか」
「勿論です」
アタシは立ち上がり言った。
「漸く掴んだ具体的な手掛かりですから」
「変に動くと目立つ恐れがある。君ならば一人で対応出来るだろう。……この件に関しては何もかも任せてばかりで本当に心苦しく思うが、頼んだぞ」
「気にしないでください」
これはアタシのためでもあるのだから。
「それでは行って参ります」
「ご期待くださいましでございます!!」
そう言って部屋を後にしようとしたが、横に何かが居るのに気がついた。
アーチェが平然と横に付いて歩いていた。
「あの」
「え?」
「なんでアンタも付いてきてるの」
「何を今更、付いていくのは当然でございます!!神のお告げが正しかったことの証明をするのでございます!!」
アーチェが声を上げる。
「衛兵」
「はっ」
ニールの号令でアーチェの手足を衛兵が掴む。
「離すでございます!!わたくしはただ神の偉業を確認したいだけなのでございます!!」
「危ないから!!あとさっきの話聞いてただろう!?少数で行かないとバレる危険性があるんだよ!!」
ニールが思わず声を荒げる。
「古代文字の解読が必要かもしれませんでございますよ!!」
「本は読めたし」
「どうせ『魔物の力を装着するアイテム』でございましょう?」
当たってる。こいつ本当に考古学者らしい。
「読み耽りましたので察しはつくというものでございます。あれは後期ニール公国で書かれたものですので、今の文字の原点みたいなものでございます。ですので読めたのでしょう」
「……」
どうしたものだろうかとチラリとニールの方を見る。ニールは目でくいくいと外を指す。「付いていかせてやれ」という意味だろう。実際、遺跡まで行って文字が読めずに泣き寝入りなんてことになったら泣くに泣けない。
「はぁ……無理はしないでよね」
そう言うと衛兵達は状況を察し、彼女の手足を開放した。アーチェはパァと明るい顔になってピョンピョン飛び跳ね始めた。
「Oh, 勿論でございます!!やったー!!神の偉業が見られるでございますー!!」
まぁ、その、本気で嬉しいのは理解出来たから、あんまり目立たないで欲しい。
アタシは彼女を連れ従えて、とりあえずナクールへ向かうことにした。
「あれが!!神に唾を吐かんとする亡者どもの巣窟でございますか!!」
転送魔法屋によりナクール王国の小高い丘、一般的に転送広場(※注:転送魔法の転送先として利用される場所の総称。軍事転用を防ぐ目的で、転送魔法は街への直接移動は制限されているため、国ごとにこうした公共の場を用意している)として利用されているそこへ転送されたアタシ達。かつては住んでいたナクールの城とそれを取り囲む魔法の障壁を眼下に思い耽っていると、高い声で興奮気味にアーチェが言った。
「静かにして。ここだって見張られてるかもしれないから」
そう言いながらアタシはキョロキョロと辺りを見渡した。公共の場であるこの転送広場、誰かが使ってきた時に備えて魔物が配置されていてもおかしくはない。
「そぅでござぃますね。気をっけるでござぃますよ」
申し訳程度に音量を小さくした上でアーチェが言った。
……まぁいいか。
「とりあえず敵は……」
と、アーチェの足元に彼女のそれとは異なる影が見えた。
「危ない!!」
アタシは彼女を蹴り飛ばして、徐々に大きくなる影から遠ざけようとした。
「ふぎゃ」
目論見通り、彼女の体は地面と平行に吹き飛び、草むらへと落下した。……まぁ、その、手応え?足応え?的に骨とかは折れてないだろうし大丈夫大丈夫。それより重要なのは、吹き飛んだ後アーチェがいた場所に、鋭い鉤爪を持った巨大な鷹ーーデスホークが舞い降りたことだ。
ザグッ。
デスホークの爪が広場の土を抉る。深々と刻まれたその跡は、もしあれに掴まれたら(アタシでなければ)掴まれた場所に大きな穴が開いて血が流れることになるだろうことを確信させる。
そうされてはたまったものではない。アタシは背中に用意していた盾を取り出し構えた。とっとと撃退するのだ。




