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6-1 図書館へ行こう

 どうすべきか。


 何か行動を起こさねばならない。


 アタシは自分に言い聞かせるようにして、首をプルプルと振るい、心内から溢れ出ようとする不安を振り払った。


「ニール様。アタシは少し調べてみます」


「調べるって、何を」


 頭を抱えたままのニール皇帝は当然と言えば当然の疑問を挙げた。


「あの結界を破る方法がないか。こちら側、人間界側で出来ることがないかを、です」


 元々結界を破るためにアクトは魔界へと向かった。それが上手くいけばいいが、上手くいかなかった場合を考えねばならないだろうと思うのだ。


 上手くいかなかったら、魔界から彼が帰って来なかったら。あのレヴェルの軍勢にどこまで対抗出来るか分からない。準備は整えねばならない。


 それに。


 魔界から、彼が、帰って……来なかったら。


「……そうだな。このままではいけない。それは間違いない。敵が行動を起こす前に、何かしなければならないのは間違いない」


 ニール皇帝はそう言って、考え込んだ。


「……幸い、結界を張った以外の動きはない。動くなら今のうちだろう」


 そして立ち上がった。


「わかったシーリア、君に委ねよう。何かあの結界を取り除く方法がないか。敵の動きを止める方法がないか。それを調査してくれ」


「言われずとも。承知しました」


 アタシはそう言うと、彼の執務室を後にした。


 心臓が高鳴っている。ここまで不安を抱いたのは、もしかすると前に村を焼かれた時以来かもしれない。……あの時は家族も何もかも失った。目の前が真っ暗になったような感覚だったのを覚えている。それでも正常でいられたのは、言わずもがな、彼のお陰だ。彼がーードラゴンの姿とは言えーー生きているのを知っているからこそ、前を向いていられたのだ。


 彼と二度と会えないとなれば、それだけでーーその、辛い。


「絶対、そうはさせない」


 そう強く思いながら、城の中をドタドタと走り出した。



 向かったのは図書室だ。こういう時はアタシは基本的に本に頼るのがいいと思っている。本には先人の知恵が、そこまで紡がれてきた歴史が記されているからである。まぁ多分だけど。


 ニール皇帝は若いが、ジャンベール帝国そのものは歴史が長い国家だ。なのでここの図書室に行けば何かが掴めるのではないかと考え、アタシは今そこにいる。


 元々ジャンベールは静かで、吹雪の音だけが轟々と広がる国という印象だが、この図書室は更にそれに輪をかけて静かだ。そこにいる人々皆口をつぐみ、静かに、静かに本にだけ目を通している。窓の外の雪など、もう彼ら彼女らにとっては当たり前の光景らしい。


「はあ」


 こっそり、小さく、溜息を吐く。


 アタシはこーいう静かな場所はあんまり好きではないのだ。他の人とペラペラ話しながらの方が気楽というものである。そういう意味でも彼と過ごしたここ数日は楽しかった。ずっと話す相手がいるというのは、何かしらの相談が出来る相手がいるというのは嬉しいものだった。ナクールでは部下と話したりはしていたけれど、対等な立場で、なんてことは不可能だったから、こういうのもいいなとただただ思っていた。


 今は一人だ。


 一人というのはこんなに一人だったのかと、いや意味が分からないけれど、そんな言葉が過った。寂しい。


 まぁ、だからと言ってここで大声を出して人目を引こうなんてつもりも無い。郷に入っては郷に従えと聞いたことがある。とりあえず静かに本を探すとしよう。



 幸いというべきか。そう掛からず目ぼしいものを見つけた。


『魔物の力を装着するアイテム』


 エスクトラクターの話に読める。


 エクストラクターがもしこっちにもあれば、結界を壊す一助になるかもしれない。まずはこの本を読んでみよう。


 アタシは本棚からそれを持って自分の確保した机と椅子に腰掛けると、その本を開いた。


 開いた瞬間、アタシは「うえっ」となった。


 声にこそ出さなかったが、強烈な気持ち悪さを覚える。大変に古い本から漂う独特のカビ臭さと、古い本故に絵などもなくただただ淡々と古い言葉で綴られる説明の数々=文字の羅列のデュアルアタックでアタシの鼻と脳がノックアウトされる。


 元々アタシは本なんて嫌いなのだ。


 なんでこんな、本に知恵を求めるなんて道を選んでしまったのだろう。


 ……でもそうも言ってられない。出来ることはすべきという考えは変わらない。そして今思いつくのはそれくらいなのだ。アタシは意を決して再び本を開いた。鼻を摘みながら。

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